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仕組まれたレース(その1)

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 3月12日、この日はあいにくの小雨である。しかし、ARゲームの場合は防水機能等も充実している機種もあり、特に雨天でも外のプレイには影響がない。


 一方で、一部ジャンルのARゲームは屋内プレイが可能な施設が多い事もあり、その辺りはジャンルごとに事情が異なる。


 雨天中止がないのは具体的にはリアルでも屋外ライブ等がある音楽ゲーム系、雨の環境にも適応しているサバゲ各種、雨天中止の概念がないスポーツ系だろうか。


 逆に台風などで中止になる場合もあるのだが、それはケースバイケースらしい。



 同日午前10時、雨の降り方が少し激しくなり、運営の方も天気予報などをチェックして路面状況を確認する。


 午後になれば雨の方も止むらしいのだが……この降り方ではスリップで怪我人が出てもおかしくないだろう。


「これは、波乱の幕開けか?」


 ギャラリーの方も傘を差しながら観戦ではなく、雨合羽を着たり、観戦専用のアンテナショップ内スペースを利用するギャラリーが多い。


 雨の中で走ると、ギャラリーも濡れるのでは――という展開もあるかもしれないが、この辺りは特殊フィールドの効果もあってギャラリーが水に濡れる事はないようだ。



 雨天の場合、実際のパルクールでも怪我を懸念して練習などを中止にするケースがある。


 ARパルクールの場合は、ARガジェットやアーマーの安全性等も強化され、雨天でも練習が可能になった。


 逆に、雨天ではないと混雑をするという事情があるのかもしれない。実際、晴天と雨天ではプレイ環境に劇的な差が出てくる。


「雨天だと、ARゲームをプレイするユーザーも減る。しかし、ARパルクールではライバル不在や混雑等を理由に――」


 観戦専用のVIPスペースからレースを見ていたのは、白衣姿のシヅキ=嶺華れいか=ウィンディーネ。


 彼女はレースへ参戦しないが、雨天と言う事で何者かがレースの妨害を考えている――という情報を手に入れ、草加市までやってきた。


「ARゲームで最も環境が悪くなるのは雨――それに、大雪」


 シヅキの隣に姿を見せたのは、瀬川菜月せがわ・なつき。彼女もARゲームプレイヤーだが、ARパルクールは管轄外である。


 しかし、今回に限っては興味のある人物がいた関係で観戦をしようと言う気持ちになった。それも、動画サイトの配信ではなく、直接会場で。



 昨日、八郎丸はちろうまるとある人物、その言い争いに介入したのは、予想外の人物だったのである。


「お互いにそこまでだ! これ以上、ARゲームをネット炎上のフィールドにするようであれば――」


 あの時、2人の前に姿を見せた榛名はるな・ヴァルキリー、その目は真剣そのものだったという。バイザーの影響で表情は確認できないのだが。


「この私が――直接相手をする!」


 榛名は両肩に固定された連装主砲を片方は八郎丸、もう片方は別の人物に向ける。両者とも、主砲を向けられた事で戸惑う表情を見せたが、火力を知るもう片方の人物は――。


「あの主砲はARガジェットでも公式チートと噂される金剛型をモチーフにした主砲型ガジェット――」


 あの一撃を受ければ、ほぼ生身同然に近い装備では致命傷以前の問題だろう。


 さすがに、向こうも生身の自分に向かってガジェットを撃つ事はしない。


 それを行えは、彼女は一瞬にして犯罪者になり下がるのは――向こうも分かっているはず。


「それを撃つという事は、この後で何が起こる事も分かっている……と言う事か」


 桜野麗音さくらの・れいね、彼はその一言を残して姿を消した。


「榛名――あなたは、無防備すぎる」


 八郎丸の方も、言葉を若干濁したような言葉を残し、何処かへと姿を消す。


 榛名の方は何も言葉を残す事もなく、2人が消えたのと同時に姿を消したらしい。


「仕組まれていたのか――。一連の事件も。レースの方も」


 この去り際の言葉、それが周囲に漏れているという事は一切なく、これは単純に榛名の愚痴とも言えるような――今の心境を現した一言とも言える。



 別の場所でレースの観戦をしていたのは、桜野である。彼の方は別のARゲームが混雑している関係で、その時間つぶしと言う気配もするが。


 時間つぶしと言う割には、カレーパンとコーラ、その他にもチョココロネ等の菓子パンを手に観戦モードというオチに。


「ARパルクールは最も安全なパルクールと言うネットでの取り上げ方が、本来のパルクールユーザーを煽り、それが一連のネット炎上を生み出したという」


 桜野は今回のレースを含め、ある時を境にしてARパルクールが変わってしまったと感じている。


 一度炎上してしまった物を鎮火し、信頼を取り戻すにはかなりの時間と労力を必要であり、遊び半分の炎上でも、開発会社を潰しかねないような立場に追いやられる可能性も否定できない。


 だからこそ、桜野は自分が経験してきた悲劇をARパルクールで起きて欲しくないと願うのだ。


 この考え方はネット炎上勢に反旗を翻す人物が共通して持っている認識だが、中にはARゲームを舞台にしてリアルなドラマを展開し、そこから莫大な利益を得ようと言う人物もいるかもしれない。


「さて、運営はどう動くか――見ものだな」 


 ポテトコロッケバーガーを口にし、桜野はこれから始まるレースを見守る事にした。


「昨日のアレを含めて、アキバガーディアンは何を考えているのか――」


 桜野は八郎丸がアキバガーディアン出ない事に、まだ気づいていない。

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