バウンティハンター・シヅキ(その3)
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3月11日午後2時、既に何事もなかったかのように竹ノ塚駅周辺は平和になっていた。
窃盗事件の中継でマスコミが入り乱れている以外は、特に変わった問題はないと言ってもいい。
しかし、この場で起こった一連の騒動はニュースサイトから削除され、なかった事にされたのである。
一体、このような事を誰が指示したのか?
一説にはネット炎上勢にアフィリエイトをリンクしてもらう為のサイトを作らせないようにする為……とも言われているが。
同日午後2時5分、草加市にいた大和アスナも近場と言う事もあって竹ノ塚駅へ向かおうとしていた。
【今は竹ノ塚へ近づかない方がいい。アフィリエイト系まとめサイトの管理人が集まっているという話だ】
つぶやきメッセージの主はアカシックレコードと書かれており、そこから受信されたメッセージなのかは分からないようになっている。
「テレビのニュースでは、マスコミが大挙している話だが――」
大和はタブレット端末でネットの動画サイトで提供しているニュース番組をチェックする。
『窃盗の犯人は未成年との情報もありますが、こちらには詳しい情報は入っておりません。犯人が単独犯ではない事は言及されているようですが――』
現地の男性レポーターらしき人物の会話が流れているのだが、事件の詳細はマスコミでも全部を知らないようだ。
それに、他のニュースサイトでも窃盗事件とは別の事件は触れていない。同じ場所で起こったはずなのに、どういう事か。
「全ては仕組まれていた――という事か」
結局は竹ノ塚行きを断念し、大和は別のゲームセンターへと気分転換に向かう事にする。下手に事件へ首を突っ込み、更にARゲーム全体を炎上させるのは不本意だからだ。
同刻、竹ノ塚にいた蒼空ナズナは、あるネット上の記事を発見し、それをコンビニで読んでいる所だった。
「経済活性化計画?」
その記事では珍しい町おこしを特集しており、戦車、軍艦、戦闘機アニメ等の様な一例、ARゲームを用いた例もある。
記事で出てきた単語には蒼空も聞き覚えのない物があったのだが、専門用語に近い物でない部分は理解できた。
それでも、経済活性化計画に関しては分からずじまい。
しかし、記事を読み進めていく事により、ある人物の名前を発見する事になった。
「シヅキ=嶺華=ウィンディーネ――」
その人物とは、シヅキ=嶺華=ウィンディーネだった。どうやら、彼女は経済活性化計画の中心的人物だったらしい。
それが何故、ARゲームというフィールドに進出したのか。謎は増えていくばかりである。
その頃、竹ノ塚から姿を消したシヅキはある人物からの電話が入り、その人物と連絡を取っていた。
『どうやら、連中はアカシックレコードの解析速度を速める為に事件を起こした可能性が高い事が分かった』
「そんな事をして、例の勢力に何の得が?」
『それが分かれば苦労はしない。それに、ARパルクールにも複数のジャンルが存在する。それを踏まえれば、ライバルが潰しあうと言うのも想像できるが』
「それは違います! そこまでして自分の作品が売れる事を望むなんて――最低だわ」
シヅキの方も気持ちは複雑である。今回の事件を起こしたのが、仮にARゲームの人気を上げる為に行ったとすれば――。
そこまでやってしまったら、やっている事は超有名アイドルの芸能事務所と変わらないだろう。
シヅキは過去に経済活性化計画の時にも同じような事例に遭遇し、そこで心臓が痛むくらいの苦痛を味わっていた。
それ程の苦痛を知る人間だからこそ、『売り上げを伸ばす』等の様な理由でコンテンツを特定クラスタの所有物みたいにされるのは――。
『その事情を知っているからこそ、我々アキバガーディアンは君をスーパーバイザー的なポジションに招いたのだ』
電話の主は、アキバガーディアンの本部にいる柏原隼鷹である。彼の方も一連のニュースを見て、シヅキに連絡を入れようと思ったらしい。
「偽者を名乗っている勢力の特定は出来ている。でも、ある人物の動向が――」
シヅキは何かを切りだそうとも考えたが、これ以上の通話は何者かに聞かれる可能性があり、電話を切った。




