榛名・ヴァルキリー(その1)
>2月17日午後10時24分付
誤植修正:わずか1%にみたいないような→わずか1%に満たないような
###
3月11日午前11時10分、一連のニュースを受けて芸能事務所側が謝罪会見を行い、それが各テレビ局で中継されていた頃――。
「あのテレビ局は、この程度では動かないか。やはり、世界滅亡クラスの事件でも起きない限りは特番体制になるのは難しい証拠と言える」
柏原隼鷹は事務所で謝罪会見が放送されていたので、他のテレビ局でも同じ対応か調べていた。その結果、ある1局だけが通販番組を放送していたのである。
アキバガーディアンとしては、あの芸能事務所が謝罪会見を行い、アイドルグループが解散をしたとしても――真の黒幕を引きずり出すには足りないと考えていた。
今までの似たような傾向の事件でも、急に売れ出したアイドルやコンテンツに的を絞って炎上させ、終了等に追い込むという事件は存在する。
このような事件の背景には、遊び感覚でネットを炎上させて楽しむと言うネットマナーさえも知らない人間が力を手にした事――それがアカシックレコード上で言及されていた。
「ネット炎上をある種の戦争と考え、そこで勝利する事こそが地球を手に出来る――そんなWeb小説みたいな事を考えている人間が、全ての原因だと言うのか」
しかし、そこまで複雑な状況を抱えた事件なのだろうか?
確かに一連のアカシックレコードを巡る事件では、コンテンツ流通に関する不満、フジョシ勢力のマナー崩壊、超有名アイドルファンによる印象操作――推挙に暇がない。
それらの事件は、あくまでもアカシックレコード内で起こった事件――つまり、フィクションのはずだ。それをノンフィクションにしようと言う動きなのか?
まるで、アニメや漫画作品を実写映画やドラマにするような発想で、このような事件が起きたのであれば、黙って見過ごすわけにもいかない。
「アカシックレコードは特定個人が利益を独占してよい物ではない。それを分からせる為には――」
柏原は、ある人物に秘密指示を出す事にした。その指示とは、一連の事件に関わる人物のリストアップである。
同日午前11時30分、西新井駅前ではARガジェットのトライアルテストが行われようとしている。
本来、もう少し早いタイミングで行う予定が、ゲリラライブの一件で警察が動いた事もあって時間を遅らせての開始と言う事になっているようだ。
「まさか――遅れる事になるとは」
重装備のアーマーとブースターのみを切り離し、ガジェット専用ガレージへ預けて周囲を散歩していたのは榛名・ヴァルキリーである。
相変わらず正体を周囲に見せるような事はしないが、これには理由があるらしい。
『作戦の方は成功した。やはり、クロのようだ』
バイザーから聞こえてきた声は八郎丸提督である。どうやら、作戦の方は成功したようだ。
「クロと言う事は、あの勢力もいたのか?」
『ランカーに関しては確認できなかった。バウンティハンターや他の提督も同じ――』
「つまり、そこにいたのは転売屋だけと言う事になるか」
『そう言う結論になるだろう。フジョシ勢力の中には、残念だがフーリガンの様な連中はいなかった』
「そうか。今回のイベント会場はハズレだったという事か――ネット炎上勢を出し抜いたと思ったが、裏目に出たか」
八郎丸の報告によると、今回のイベントにはフーリガンに代表されるような人物はなく、ただの転売屋が集まっただけと言う物だった。
転売屋に商品を買わせ、あたかも売れているかのように装い、その後にオークションサイト等で転売を行い、大きな利益を得ようと言う企業はsくなからず存在する。
噂程度でしかないが、超有名アイドル商法も同じような物であるとネット上のまとめサイト等では言及されている――真相に関しては曖昧にされているのは、一部勢力に対抗する為の策かもしれない。
「イベントで噂の新型が姿を見せる可能性――それに賭けてみるか」
榛名は、新型ガジェットが別勢力をおびき寄せる事が出来るのではないか……そう考えている。
同刻、八郎丸は梅島の一件に関して情報整理を行っていた。榛名との通話後は、そちらをメインにして動いている。
転売屋の情報収集はスタッフに丸投げし、八郎丸は別に情報を探している様子だ。
「超有名アイドル商法が日本経済を救ったという妄想は――黒歴史であるべきなのだ」
八郎丸は超有名アイドル商法が日本経済を救ったという噂に関して、完全否定をしている。
この話が海外へ拡散すれば、日本経済はアイドルオタクが頂点にいるような錯覚を与えかねないからだ。
「わずか1%に満たないようなアイドル投資家が日本経済を救い、更には超有名アイドル以外のコンテンツを黒歴史にしようという所業を――認める訳にはいかない」
そして、八郎丸は別の場所へと向かう。こちらに関しては榛名の指示ではなく、独自判断による物だ。
「電車を使って間に合う流れではないか――」
八郎丸が近くのARゲーム専門のアンテナショップに入り、駐車場近辺にあるARガジェットガレージから呼び出したのは、ホバーボードにも似たARマシンだった。
このマシンは試作型であり、該当するゲームはロケテスト中。何故、彼がロケテスト中のマシンを使うのか……。
マシンの起動スイッチはなく、認証システム部分に自分のARガジェットを近づける事で認証、マシンが動き出したのである。
同日午前11時35分、八郎丸がARマシンで何処かへと向かった。その場所は彼自身しか分からないのだが、察している人物もいる。
「向かう場所は北千住駅――何かあると言うのか」
八郎丸を遠くから見ていた人物、それはアンテナショップに用事があったビスマルクだった。
今回はARアーマーを装着しており、そのトライアルも兼ねていたのだが――。
「どちらにしても、超有名アイドルコンテンツの暴走は見過ごせないか」
装着しているARアーマーはシティフィールドに使用するガジェットであり、以前に使用していた重装甲ガジェットではない。
「ARサバイバル等と違って、装甲が軽いように思えるが、大丈夫か?」
装着しているアーマーは、今までの重装甲とは10キロ近くは軽い印象である。
アーマーはARを使用した拡張現実映像なので、実際に30キロ近いアーマーを装着している訳ではないのだが。
それでも、ランニングガジェットやARマシン等は拡張現実映像部分がARガジェットと違う事もあり、100キロオーバーもあるらしい。
「ARパルクールは一部以外では軽装甲で耐久力の高いガジェットが好まれる。重装甲は――さすがに厳しいだろう」
男性スタッフの話によると、ARパルクールの場合は運動量的な関係で重装甲は好まれないようだ。
そして、軽装甲のガジェットや特殊なシステムを導入したガジェットがパルクールでは使用されている。
サバイバーに関してはランニングガジェットを使用している為、こちらのガジェットを運用するケースは少ない。
「どちらにしても――このガジェットを使えるようにしておかないと」
ビスマルクもARパルクールへの参戦を本格化させようと考えている。一連の超有名アイドル事変とは別件で――だが。




