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リアルと架空の境界線

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 3月4日午後1時25分、スーパーの駐車場から姿を見せたシヅキ=嶺華れいか=ウィンディーネ――彼女は、ARガジェットを構えていない。


「今回の一件、アカシックレコードを管理する勢力としては都合が悪い。下手にアイドル投資家や他の勢力が圧力をかける為のネタを提供するのも――」


 シヅキの一言を聞き、黄金のガジェット使いは反論をしようとしたが……次の瞬間にはガジェットの機能が急に停止する。


「言い忘れていたが、既に外部ツール及びチートプログラムを停止するフィールドを展開している。その類のARガジェットを含めた全ての機械は、ここでは動作しない」


 彼女の警告を無視し、ARガジェットを構えて攻撃態勢を取っていたのは、黄金のガジェット使いとは別のガジェット使い。彼らはシヅキの警告を聞いていないのだろうか?



 シヅキが指を鳴らすと、周囲から姿を見せたのは無数のソードビットである。エクスシアが使用していた物とは形状が違い、ドローンの様にリモコンで動作する形式のようだ。


 その数は50を超える事もあって、何処に隠していたのか……という疑問も浮上するだろう。


 それをシヅキがペラペラと説明するような様子はない。おそらく、これが黄金のガジェット使いとの大きな差になる事を――この段階の彼は知らなかった。


 彼女は――いわゆる『負けフラグ』を把握しており、それを踏まない事で確実な勝利を得ているのだろうか。


「こちらとしては、騒動を悪化させて逆に炎上させるようなネタにはしたくない。それこそ、向こうの思う壺――挑発に乗る必要性は、一切ないだろう」

 

 シヅキのソードビットを見たガジェット使いは、下手に攻撃して炎上させるのも都合が悪いと判断し、一斉に撤退した。ただし、黄金のガジェット使いとエクスシアは撤退していない。


「貴様の言う勢力とは、週刊誌か? それともフジョシか? あるいは超有名アイドルの――」


「それに答える義理はない。あくまでも、こちらの目的はARゲームを炎上勢力の戦場にしない事だ。例え、何と言われようとも。こちらとしては無抵抗の人間に対し、下手に危害を加える気はない」


 黄金のガジェット使いの質問には、一切答えようという気はない。そして、彼は「覚えてろ!」という捨て台詞と共に撤退した――かに見えた。



 しかし、黄金のガジェット使いはシヅキの一瞬見せた隙を突き、チートとは別の動作するARハンドガンでシヅキに攻撃を加えようとしたのである。


「これでARゲームが炎上するのであれば、この身がどうなろうと――何!?」


 しかし、ハンドガンの銃弾はシヅキに到達する直前で消滅し、シヅキも瞬間的に装着した重装甲ガジェットで反撃に出た。


 重装甲ガジェットのレールガン、その一撃を受けた黄金のガジェット使いはガジェットの機能を停止し、その場に倒れる。致命傷だが、怪我の程度としては軽い。


「その程度の幼稚でその場の勢いだけの不意打ちしかできないのか――炎上勢力の連中はッ! まだ、正々堂々と意見を伝える事の出来るユーザーの方が、よっぽどマシだ」


 シヅキも不意打ちに関しては想定済であり、これが一種の負けフラグなのも分かっていた。それをあえて回収するのはお約束だろう。


「この一撃が命中すれば、それこそ政府は超有名アイドルコンテンツのゴリ押しを加速させ、円高路線の利益回収方法を展開――」


 シヅキの方はガジェットの装着を解除し、今度はエクスシアの方へと視線を向ける。


「円高で利益回収か。大きく出たな――後の政治家や経済評論家も考えないような方法を」


 エクスシアの方はバトルを行う気配はないようだ。そして、シヅキの提案を受け入れる形で撤退する。


 黄金のガジェット使いの方は気絶しており、その後はアキバガーディアンによって拘束された。ARゲームのフィールドをあらそうとした罪は、間違いなく問われるだろうが。


 なお、警察も出動する流れとなったのだが――運営スタッフが警察に何かを見せ、それを確認した後に引き返している。


 警察が何を見て引き返したのかは不明だが、向こうにとって不利な状況に追い込まれるであろう書類なのは間違いない。


「リアルと架空の狭間――それを曖昧にしてしまったARゲームの功罪か。果たして、この連鎖は何処まで続くのだろうか」


 警察が引き上げていくタイミングで、シヅキの方も次の目的地へ向かう為に姿を消した。

 


 午後1時30分、今回の騒動は大規模な事になる事はなく、無事に解決するのだが――それは表向きに過ぎない。


【あの芸能事務所は、金に目がくらんで暴走したに過ぎない】


【動画投稿者を芸能人化する等の行為が、全てにおいてプラスになる訳ではないという事だ】


【政府は、ありとあらゆる分野に対して商業化を推奨する気なのか?】


【そこまで暴走すると――目も当てられない】


【こうなれば、与党の不祥事を週刊誌向けに売り込むか――】


【これは虚構サイトにつられているな】


【超有名アイドル規制法案は似た物が提出された事はあるが、施行されているというのは虚構サイトだ】


【規制法案は全国的と言うのが虚構であり、一部エリアでは実行している噂もある】


 つぶやきサイトでは、今回の騒動に関するつぶやきはホットワードになっていない。


 逆に、何処かの虚構記事サイトの記事を鵜呑みにした情報識別が出来ていないユーザーのつぶやきが目立っている。


「やはりか。高度な情報戦を展開しているのは、アイドル投資家だけではなかったのか」


 別の目的地へ移動中のエクスシアは、バイザーで現在のニュース等を確認し、一連の事件が表面化していないかを調べている。


 しかし、そのニュースを扱っている大手サイトはなく、個人のブログでも扱っていない状況だ。時間経過で変化する可能性もあるが……。



 午後1時40分、蒼空そうくうナズナは運営のビルで状況説明を受けていた。どうやら、チートプレイヤーが失格になり、順位繰り上げがあったらしい。


「今回のレースに関して、ポイント反映は時間がかかりますが――」


「実際の順位と記録上の順位は、どうなるのですか?」


「今回の繰り上げに関しては、即時対応となりますが――」


 ポイントに関しては時間がかかるが、順位は繰り上げ後の順位が即日反映される。


 最下位辺りから上昇したとしても、ベスト10に入るかどうかは……と言うラインだ。



 午後1時50分、状況説明に若干の時間がかかった。それでも、レース内容としては完全燃焼できたとは言い難い。


「現実は、甘くなかったという事か」


 繰り上げで仮にベスト10入り出来たとしても、それは実力で勝ち取った物ではない。その部分に関して、蒼空は悔しい思いをした。


「初レースは、誰だってそう言う物だ」


 蒼空の目の前に姿を見せた女性、外見からして過去に遭遇した事のある人物なのは間違いないが――。


「あれは大和じゃないのか?」


「まさか、小規模レースに大和が参戦するのか?」


 彼女の登場によって、周囲がざわつき始めた。大和やまとという名前が聞こえたが……彼女の苗字か何かだろうか?


「初レースで1位デビューだなんて、他のARパルクールのプレイヤーを兼任している人間位だろう」


 大和と仮定される人物は、激励をしているのだろうか?


「あなたは、一体――」


 蒼空の一言に対し、大和は答えを選んでいるようなそぶりを見せる。


「頑張れ――と言う言葉を期待していた訳ではないだろう。これで、君は後戻りが――」


「後戻り? まさか、アイドル投資家の争いが――あなたの伝えたかった事ですか?」


 大和の後戻りと言う単語に対し、蒼空は疑問をぶつける。そして、大和は――。


「アイドル投資家だけではない。コンテンツ産業がぶつかっている現実。それが一種のループとなっているのだ。超有名アイドル商法が恒久的に続くと本気で思っている訳ではないだろう?」


 再び質問攻めだろうか。大和の一言に対し、どのように答えるべきか蒼空は悩む。


「あなたの名前は一体――大和って聞こえたように思えますが」


 蒼空の言う事も一理ある。そして、大和が何かの端末を操作する。


「今は、動く時ではないと思っているが――情報調べれば、いずれ分かるだろう」


 結局、彼女の口から名乗る事はなかった。しかし、数分後にはショートメッセージが届いた。


「大和――アスナ?」


 大和アスナ、それが彼女の名前でもあった。

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