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驚くべき結果

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 3月4日午前12時45分、レースが開始されたのだが――その様子は何かがおかしいように思えた。


 全てがエクスシアの言う結末通り――ある意味で予言通りなのだろうか。


『貴様たちはARパルクールと言うゲームを炎上させたいのか? そうでないというのであれば、レースで証明して見せろ!』


 レース開始前、エクスシアはこのような事を言っていた。


 蒼空そうくうナズナは、あまり考えないようにしていたのだが、レースの進み具合を見て、何かの不安を感じている。


「エクスシア――何処かで聞き覚えのあるような」


 エクスシアと言う単語自体、さまざまな媒体で聞く事がある。エクシアという場合もあり、そちらの方が有名かもしれない。


 それでも、エクスシアに関してはアカシックレコードでも登場頻度が高い理由がある。


 それに気付いた時、レースの方は思わぬ方向へと動き出そうとしていた。



 2分後、バイザーでマップを確認していた蒼空はリタイヤ者が出現したという情報に驚く。


「確か、今回のルールはバトルではなかったはず――」


 バトルありの場合はARガジェットによる攻撃に限り認められ、その場合はHPが設定されるが――そうしたデータは確認できない。


 アクシデントでリタイヤになるというケースも存在するのだが、こうしたケースは特殊としてカウントされており、滅多には起こらない。


 データ送信トラブルだとしても、電波障害の類が周囲に確認されていない以上、純粋に転倒等でリタイヤと考えるしかない。



 1分後、蒼空が中間ポイントを通過した頃にはトップ集団は2周目に突入寸前だった。


 最下位グループは自分より後ろなのだが、ショートカット等で逆転をする事も可能である。それがARパルクールの世界。


 実際、最下位のプレイヤーは隠しコースの存在を見つけ出し、上位集団へと迫ろうとしている。


「そう言う事か。怪我人が出ると言う理由は、ショートカットのコース取りに――」


 蒼空はバイザーの右上に表示されているマップを見ながら、通常コースを進み続ける。


 ホバー移動の様な手段を使う事も可能だが、蒼空はガジェットを装着した状態で走っているのだ。そのスピードは200メートルを10秒弱で走る。


 それだけの速度が出れば、観客も衝撃波等で被害を受けそうな気配だが、それが杞憂である事をコースの周囲に設置された光の壁が証明していた。



 蒼空が走っている場所から若干離れた場所、そこでは一人の女性がレースを観戦している。彼女の外見は、何処かで見覚えがありそうな気配もした。


「駅伝やマラソンで観客が乱入しないように作り出した壁、それがARフィールドと言う事か」


 観戦していた瀬川菜月せがわ・なつきは、別のARゲームでは有名なプレイヤーだが、ARパルクールには参戦していない。


 実は、黄金のガジェット使いが例の発言をする事になった原因、その発言を彼女はしていたのだ。


「ARフィールド、ARガジェット、ARアーマー――それらがARゲームを日本一安全なスポーツと言う、誤った認識をさせるまでに至った」


 瀬川はARガジェットに表示された試合速報をチェックしながらつぶやく。その様子に関して周囲の観客が突っ込むような気配はないようだ。


「ARゲームはスポーツでもなければ、無差別破壊行為の道具でもない。あの技術を人が扱う事――それこそが、最初から無謀だと言うのに」


 そして、瀬川はレースの状況をある程度把握した後に、別の場所へ向かう。その途中で、彼女はある人物に遭遇した。


桜野麗音さくらの・れいね――」


 その人物とは、彼女とは考え方が違うとも言えるかもしれない桜野麗音さくらの・れいねだった。


「瀬川菜月、あなたに会うとは予想外でした」


 冷静を装う桜野だが、本心は穏やかではないはずだ。


「ARパルクールに参戦するつもりなのかしら?」


 早速、瀬川がジャブ代わりに質問をする。しかし、それに回答するとは到底思えない。


 そこから別の質問を用意していたのだが、瀬川が驚くべきリアクションを桜野は行う。


「まさか。パルクールには興味はあったとしても、あの魔改造された安全性を強調する体感ゲームに――」


 これが桜野の本心なのかは不明だが、魔改造と言う部分は瀬川の認識も同じである。


「本来のパルクール、それは心身を鍛える目的の物であるはず。怪我に関しては自分が未熟だったという戒めにも出来るかもしれないが――」


 瀬川の発言も本心なのかは不明な一方で、怪我と言う概念のない安全なパルクールに関しては疑問しか浮かばない。


「コンピューターゲームのパルクールを、アニメ作品の舞台化と同じようなノリで具現化したのが――ARパルクールかもしれない」


 それだけを言い残し、桜野は姿を消す。一体、彼は何を語ろうとしていたのか。



 午後1時15分、経過は覚えていないが――何とか完走する事が出来た。順位としては最下位ではないが、12番目である。


「最終的には、13人が完走――これを正常と言えるのか」


 バイザーを脱いだ蒼空、その顔には汗らしきものも輝く。それだけ初レースに苦戦した証拠だろう。


『ただいま、審議を行っております。レース順位に変動が出る可能性がありますので、しばらくお待ちください』


 運営からのアナウンスを聞き、驚いたのは黄金のガジェット使いだろう。


「何が起きたというのか――これもアカシックレコードを見ている連中からすれば、想定内と言うべきなのか」


 レースの流れをタブレット端末で見ていた桜野は、今回の結果に関して何も言う事はないという表情で、レースの審議結果を待つ。


「リタイヤになった人物がどれ位か――それ次第で全てが変わる」


 受付に足を運んだ瀬川は、今回のレースとは別に何かを運営へ伝えようとしていた。残念ながら、チート対策班を捕まえる事は出来なかったが。



 午後1時20分、審議結果が出た。チートの疑いが出たプレイヤーは5名、しかも上位5名全員である。


『チートの疑いで調査した結果、1位、2位乃プレイヤーを失格処分に相当すると――』


 この結果に納得がいかないのは、黄金のガジェット使い――1位のプレイヤーだ。


「島風や榛名、それ以外の一部ランカーが、これで違法ガジェットを使っている事が証明できた」


「あの力は――我々が扱うべきではない!」


「これでネットを炎上させ、超有名アイドルコンテンツが唯一無二の――」


 黄金のガジェット使いが何かを話そうとした矢先、エクスシアの放ったソードビットがガジェットの装甲に傷を付ける。


「そう言う事か!」


「やはり、アフィリエイトまとめサイトで稼ごうという連中だったか」


「これがアイドルファンのやる事か!」


「お前のやった事は、ARゲームに更なる規制を生み出す――」


「アイドルファンのモラル低下、それを生み出したのは間違いなく超有名アイドルファンだ――」


 黄金のガジェットが剥がれ、そこから見せたのは超有名アイドルのCDジャケットである。


 どうやら、CD宣伝の為にシティフィールドを悪用していたようだ。


 どうやってCDジャケットを写しだして宣伝を行おうとしていたのかは、この際どうでもいい。


 超有名アイドルファンが推しアイドル宣伝の為、無差別破壊行為を含めた犯罪行為以外で便乗宣伝を行い、アフィリエイト収入を得ている方が問題である。


『双方とも、ここはARゲームフィールド内だ。チラシ裏や週刊誌報道に該当する話題は、ここで行うべきではない』


 周囲は黄金のガジェット使いを追放すべき、超有名アイドルファンを全てARゲームから締め出すべきという流れになっており、エクスシアだけでは停められそうにない。


「お前達の行動こそ、ゴシップ連中にとっての金づるになっていると――その発言がコンテンツ流通に不要の炎上商法につながると、何故自覚しない!」


 エクスシアとは別の場所――スーパーの駐車場から姿を見せたのは、シヅキ=嶺華れいか=ウィンディーネだった。


 彼女の装備は私服+白衣に、ARガジェットを複数装備しており、更には別口で大型ガジェットも持参している雰囲気さえある。


「一体、何が起こるのか――」


 レース結果の前に、大きな事件が起こってしまうのか……遠目で様子を見ていたのは、受付へ向かおうとしていた蒼空だった。

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