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パルクール・オブ・シティフィールド  作者: 桜崎あかり
ステージ1
1/95

全ての始まり

 それは疾風という一言で片づけられない物だった。その速さは、サイクロンと言う方が正しいだろうか。


 

 西暦2018年3月1日、雲ひとつない晴天、目の前で展開されている光景に疑問を持つギャラリーはいなかった。


 場所は埼玉県草加市の市街地と言うよりは、若干ビルなども目立つ気配がする。草加駅前ではなく、そこから若干離れたエリアと言うべきか。


 そこで行われていたのは、漫画やアニメで見かけるような忍者を思わせるスピードでビルを飛び移っている2人のパフォーマー……。


 厳密には先頭グループと言う表現が正しいのだろうか? 周囲から先頭グループやトップ争いというワードが飛んでいた事による推測だが。


 この光景をネット上では日常茶飯事として特に珍しくない――という意見が半数を占めているらしい。それ程、このパフォーマンスが当たり前の光景だったのだろうか?


「あの調子だと、赤い忍者の方が負けるかもな」


「青い騎士の方も健闘している。レースは最後まで分からないかもしれないぞ」


 近くで見ていたギャラリーが答えてくれる気配もなく、しばらくその光景を見届ける事にした。


 もちろん、周囲のギャラリーは目の前の光景に集中しており、自分が声をかけても聞こえないと思われる。


 彼らの装備は忍者の様な軽装ではなく、SF魔法少女やヒーロー物で目撃されるようなスーツ、脚部にはアーマーが装備されていた。


 これらの装備がサイクロンとも言えるスピードを再現する物に違いない。後続のグループには戦国武将やパワードスーツを思わせるような装備のパフォーマーもいる。


 これほどのスピードを出せば――周辺の建物やギャラリー、パフォーマーも怪我では済まないだろう。下手をすれば、命に関わるのは火を見るよりも明らかだ。


 それに加え、重装甲のアーマーに関しては重さで建造物に亀裂が……と思う部分もある。しかし、思いっきり走っている光景を見る限り、問題はないのだろう。


「あの競技と似たような物に覚えがある。確か、パルクール――」


 パルクールとはフランス発祥の運動方法なのだが、他者の思いやり助ける心を育成する物でもあるらしい。


 それに加えて、動画投稿サイト等で見かけるようなアクロバットはパルクールとは認めていないと言う。


 安全に行われるべきスポーツでもあると書かれているように見えたが、それらが形骸化しているような動画が蔓延しているのは――別の理由があるのかもしれない。


 しかし、目の前で展開されているアレをパルクールと言うには相当無理がある部分も多い。


 特に、ビル等に飛び乗るようなアクションに対し、観客が悲鳴を上げるような事がない。某カードゲームアニメのように教育されているからだろうか?


 色々な意味でも、この街は何かが自分の感覚と大きくずれている可能性もあるのかもしれない。



 実際問題、パルクールに関してネットで調べた事があり、試しに挑戦をしようとした事があった。


 しかし、この時は安易な気持ちで挑むのは危険だとネット上の説明で思い知る。


 そんな不安をしながらパフォーマンスを見るのは耐えられない……そう思った時、隣にいた女性は一言つぶやいた。


 彼女の服装を見ると、何かのサバイバルゲーム帰りを思わせるようなミリタリーコスチュームだった。


 さすがに全身迷彩メイク……という訳ではなく、すっぴんに近い事には驚いた。女性なのに……という言い方も傷つく表現かもしれない。


 それを気にするタイプの人物かどうかは、こちらで判断出来ないが――。サバゲオタクやサバゲ分からずにファッションとして来ている訳でもないので、その辺りは問題がないのかもしれないが。


 仮に迷彩メイクをしていたら、警察に職務質問されるのは避けられない。むしろ、この状況を警察が野放しにしているのもおかしい話である。


 ネット炎上を狙って放置だとしたら、それは超有名アイドル事件再びみたいな光景になる。さすがに、この系統の発言はデリケートに扱うべき、という意見も聞かれる位だ。


「これは、ARゲーム。Web小説にあるデスゲームの様な物ではない。あのスピードを出しても、建造物にダメージがないというのは、これがゲームだからよ」


 一言と言うには、説明口調であり、喋り方も楽観的。つまり、彼女は目の前で行われているARゲームを楽しんでいるらしい。


 周囲のギャラリーも盛り上がっており、一体感と言う物を感じる。まるで、駅伝やマラソンを観戦するような光景だ。


 それ以上に衝撃を受けたのは、周囲の観戦マナーだ。ゴミが散らかっている気配もなく、ヤジや怒号が飛ぶ気配も見られない。


 動画投稿サイトの実況動画でも荒らしコメンがあったり、対立する勢力を煽るようなネット炎上勢等も――このARゲームと言う物には無縁に見える。


 この光景をゲームと表現するには、色々と無茶がありそうな予感はする。体感ゲームと言う物も実在し、アトラクションと言うのもあるが……。


 それでも、目の前の光景を単純にゲームと呼ぶには疑問を感じる。アスリート的な視点でも、スポーツだと言うコメンテーターもいるかもしれない。


「ゲームですか?」


 ゲームと言うには徹底的にリアルすぎる。建造物はCGではなくて本物、道路は自動車が通るような私道、一部のギャラリーは自宅の窓や公園、挙句の果てには歩道橋から観戦している人物もいる、で行われている。そうした状況で、このようなゲームが成立するのか?


 まるでフラッシュモブやゲリライベントの様な物を連想する。つまり、周囲の市民に迷惑をかけている可能性が高い。テレビ番組のロケでも、事前に市役所などへ許可を取るはずだ。


 それを踏まえて、彼女に疑問をぶつけた。おそらく、彼女も自分が疑問に持っている個所を把握しているはず――と思っていた。


「このゲームはARパルクールと呼ばれているジャンルよ。それに、このARゲームは草加市の地域振興対策として行われている――いわば公認よ」


 彼女の方も説明するのが面倒な表情をしているが、ストレートに『ネット検索した方が早い』と一蹴されるよりはマシかもしれない。


 しかし、彼女の言葉からは信じられない言葉が出た。『地域振興対策』と『公認』である。まさか、と思うが……。


「あの、公認ってどういう――」


 質問をぶつけようと思った時には、既に彼女の姿はなかった。それに加え、順位の方も表示されており、ゲームが終わったという状況である。


 結果としては赤い忍者が勝利したようだが、レースタイムよりも観客が盛り上がったのは撃墜数である。パルクールで撃墜数というのも――非常に謎だ。


 

 西暦2018年、数年前に劇的ブレイクで注目されたARゲーム、様々な派生作品がリリースされていく中、そのARゲームに注目した市があった。


 それが草加市である。いわゆるオタク文化においては埼玉県の右に出る市町村は――という気配もネット上であったのだが、その例にもれなかったという事だろう。


 そして、遊戯都市奏歌が誕生し、今では奏歌市と草加市を使い分けている状況だ。


 その中でも草加市で一番知名度の高いARゲームが、先ほど観戦していたARパルクールと言うジャンルである。実際、コンビニにもポスターが貼られており、そこにはトッププレイヤーが写っている。


「パルクールって、まさか?」


 それでも、パルクールと言う以上は――。そこで、自分はネット上のARパルクール情報を検索する事にした。



 すぐに検索しようとしたのだが、ここでは電波状況が悪い為にタブレット端末が使えない。仕方がないので、近くのコンビニまで移動すると、そこでは電波があるようだ。


 コンビニではARゲーム専用の充電機や色々な施設がある。まるで、ARゲームプレイヤーにとってのガソリンスタンドとも言えるかもしれない。


 そうした状況の中、インターネットスペースがあったので、そこにあったベンチに座ってネット検索を始めた。


「10万件以上か。さすがにARゲームが市民権を得ている現状だと、それも当たり前か」


 検索ワードの絞り込みをしたのに、10万件以上。それだけ、ARゲームの市民権を得ているというのは事実と思い知らされる瞬間でもある。


「このサイトが分かりやすそうだ」


 その中の一つ、ARパルクールのアンテナショップ公式をチェックした。そこではARパルクールで使用するガジェットと呼ばれているアイテムがネットで売られていたが……。


「これが、ARパルクールのガジェット? まるで、武器格闘ゲームやFPSの装備じゃないのか」


 この光景には驚くしかなかった。ARゲームがバトル物メインで非バトルが異端と言う状況なので、仕方がないのかもしれない。それでも、この状況は気を失いそうな状況には違いない。銃規制のある国だったら、この状況を見ただけで通報されるレベルなのは間違いないだろうか。


「武器に関しては、ウェポンあり限定か」


 ルールの確認をすると、基本的にARパルクールはランニングのみであり、ウェポンありは相手の同意がないと選択不可能らしい。


 そのルールを確認し、何故かほっと一息ついていた。どういう原理でほっとしたのかは分からないが。


「これだけの装備が必要なARパルクール、気になるな」


 そして、自分はARパルクールに興味を持つ事になり、それから数日後にはアンテナショップへ足を運ぶ事になった。



 自分の名前は、蒼空そうくうナズナ――これでも日々の運動は欠かさない作曲家。曲は主に同人ゲームに収録される物であり、商業作品には収録歴がない。


 単純にマイナー音楽家と言う訳ではなく、自分の関わっている同人ゲームがグレーゾーンに類するカテゴリーのゲームだったというのもある。


 最近では本家に収録される楽曲も存在するが、そうしたケースはレア中のレア。


 アプリのリズムゲームやARゲーム版リズムゲームもある中で、こうしたゲームの楽曲が注目されるのは――相当の奇跡が起きないと無理だろう。

 

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