歯車を間違えないように
ロボットとの会話はいちいち萌えるから厄介だ。かっこいい部類のロボットが私にかかれば萌えに部類されるのはなぜなのだろうか。
その日私は月に一度の女の子のイベントに悩まされていた。
しかも日頃痛まないお腹が今回に限って「お前普段は痛くないから今回だけは特別に痛みをプレゼントするYO」と言っているかのように憎たらしげに痛みがやってくる。
だが私は蔵に行きたいのだ。痛みと萌え。バカバカしいにも結果が判りきっているものを天秤にかける。断然萌えじゃバカ野郎と脳内で言いながらも根気だけで蔵に行った。私偉いわ!
「こんにちは…そしてただいま」
「ああ、お帰り。顔の色が普段の君より幾分か暗いぞ。もしかしてフラれたのか?」
「フラれてなんかいません。好きな人いませんし…痛たたた…」
日に日に顔は真顔だが口だけは人間くさくなるロボット。なんだこいつこんなに人間臭かったっけと頭を傾げる。いや、人間くさいというよりそこらのオッサンぽいか…口だけは。
しかし今は痛みが波のように襲ってくるのでそんなことに構っていられない。これでもお腹に使い捨てカイロを貼っている為にジンワリと暖かく痛みも少し和らいできているのだ。
「お腹が痛いのか?何か変なものを食べたのか」
「変なものも…食べていませんよ」
少しロボットの動きが止まる。
「何もできないが何か痛みを和らげるものは…」
慌てたようにロボットがキョロキョロと辺りを見渡す。キョロキョロ見渡してもこの蔵には生理痛を和らげるものや薬は何も出てこないない。
「この蔵には何もないみたいだな。力になれなくてすまない」
「いえいえ、そんなロボットさんには…萌えを…」
語尾がだんだんと消えそうになる。
「前々から気になっていたが、萌えとは一体何なのだ」
「えっと…さあ…なんでしょうねえ…」
サッとロボットから目を逸らす。ロボットさんよすまない。そう思いながら目をそらしたところで、私はあれ?と気がついた。
この蔵にこんなものあったっけ?というものがある。テレビは私が持ち込んだ物だ。
しかし、テレビ以外に私が持ち込んだ物はクッションとお茶セットだけだ。そのお茶セットの隣にコーヒーメーカが置いてある。きちんとお砂糖も置いてある。なんでコーヒーがあるのかな。
「あのさ、ロボットさん。私以外にここ誰か来た?」
「ああ。侑美子殿が参られた」
「母さん?母さん以外は?」
「誰も来ていないぞ」
侑美子は私の母の名前だ。やっぱり母さんが来ていたのか。
「ん?ロボットさんもしかしてそのお尻に敷いている絨毯はもしかして母さんが?」
こくりと頷きながらロボットの口角が上がる。たぶん笑っているのだと思う。ちくしょう。やられた。母さんめ私がやろうとしている事、したこと事ばかり私より早くにしてしまう。絨毯はちょうど私が部屋で使わなくなったのがあったのでそれを持ってこようとしていたのに…
「でも、母さんは日ごろ仕事だからいつ持ってきたの?」
「昨日の昼間だ」
昨日の昼間か。私は学校だな。母さんめ、そんな時間に置いていくなんて…あれ?でも仕事じゃないのかな?
「昼間に忘れ物を取りに帰ったついでならしいぞ」
「そっか」
素っ気なく返してしまうが内心昼間にこうしてロボットと会える母が羨ましかった。
ロボットと話していたら夢中になっていたのか、いつの間にか私は自分のお腹の月ものの痛みがないことに気がついた。カイロをお腹に貼っているおかげかもしれないが。
「痛みも和らいだようだな」
「へ?」
間抜けた返事をしてしまう。ロボットが私のお腹を擦っていた手を眺めながらも少し戸惑ったが口を開いた。
「ずっと腹を擦って労っていたようだが痛みも和らいだのか」
「ん?まあ、ちょっと痛みがあるけどマシになったよ。心配してくれたの?」
心配をしていてくれていたのかと私はニコリとよりかもはやニヤニヤとしながらロボットを見上げる。
「まあな。心配もあるが、人間の体の仕組みはできるかぎり学びたいからな」
「ん?」
「人間の仕組みも学びたいし君の腹痛を取り除く方法も知りたい。だがどうもよく解らん。どうしたら取り除くことができる?」
「うん?知らないね」と瞬時に微笑みながらロボットに答える。真顔でうーん。うーんと悩むロボットを眺めながらも解決法は痛み止めを飲むかそれ専門の病院に行くか妊娠するしかないな。と変に狼狽えもせずに脳内で回答をする私であった。