歯車の調整をしよう
学校が終わるとすぐに家に帰り少しの食料を持って蔵に向かった。
「ロボットさんこんにちは」
「ああお帰り」
こんな風に私とロボットとの会話がスタートする。
「何か困ったことありましたか」
「困ったことか…少し退屈だな」
「そうだと思いまして、兄の部屋から使わなくなったテレビを持ってきました」
ジャジャジャジャーンと言うように私は少し小さいテレビを持ってきた。この蔵はただ広い裏庭でも我が家に比較的近く現在は電気も作業をする為として、また昔に一時的に離れとして使っていた為電気は流れているのだ。
「テレビ?テレビとは何なのだ」
「テレビ?うーん…よく説明はできないから観ていて」
コンセントを挿し地域設定はそのままにテレビのチャンネルを入れた。画面に夕方のニュースが映し出される。
「これは…」
「すごいでしょう」
小さなテレビに驚く大きなロボット。
「このリモコンをこうやって…ほらチャンネルが変わったでしょう?退屈しのぎにね」
「すまない」
謝るロボットに謝らないでよ。と言いたくなるのを抑えた。あーこれこそ我が子に買い与える母の気持ちか…可愛いんだな。と思いながらチャンネルボタンに四苦八苦するロボットを眺める。ロボットの指は太いからリモコンのボタンを一気に押してしまう。
「萌え…」
鼻血は出ないが口と鼻を押さえて呟いたのがロボットに聞こえたのか「萌え?」とロボットが首を傾げる。だからそれが萌えなんだよ!と言いたくなった。
ポチポチとはいかないがロボットは私が持ってきた箸を器用に使ってリモコンのボタンを箸の先で押さえていく。器用なものだ。しかし、その箸がなくては私の夕飯前の間食が食べれない。まあいいか
ロボットの指が不意に止まる。私何を観ているのかとテレビを覗きこむと観ているものはドラマだった。しかも有名恋愛ドラマの再放送。運が悪いことに場面はキスシーン。あっちゃーと思う私と「これは人間でいう愛情表現だな」と1人頷くロボット。知っているんかい!と心の中でツッコミをしたのは内緒。
「このドラマがどうかしたの?」
「いや、地球に来る前に仲間から地球の文化をしる為にドラマを見させられてこれを観たことがある」
「このドラマを!?」
おいおいロボットの仲間とやら。このドラマを観せたんかい。よりによってこのドラマを。まだ人間の文化を知るためのテレビ材料は他にあっただろう!
「うむ。ずっと気になっていたのが人間はなぜ愛情表現に口と口を合わせるのだ?」
「あーキスのことね」
「Kiss?」
「発音を正さなくて良いから。なんで口と口なのか私も知らないよ」
「そうか」
ごめんね。と思いながらもロボットに凭れかかりながら箸を使わないで済むおにぎりを口に頬張る。美味しい。今日は鮭入りだ。
「美味しいかその米のボールは」
「美味しいよ。おにぎりいる?」
手をのばしてロボットの手に食べ掛けのおにぎりを置いてやる。ロボットの指にちょこんと乗っている鮭おにぎり。おにぎりがミニの食玩のようだ。おにぎりよさらばだ。今生の別れだ。
「うまいな」
「でしょう?私が握ったんだよ。ちなみにその中身は今夜の私の夕御飯ね」
「夕御飯?」
「そう。両親も仕事でいないし兄も遅く帰ってくるからいつも晩飯は1人なの」
もう慣れっこよ。と言う口を続ける。そういうこともあり猫を飼っているのだ。その猫も最近は外の縄張りを見張りに回っているから家にいないけど。
「悲しくはないのか?」
寂しかったのよ。と丁度よいタイミングでテレビの中の女優が台詞を言う。この女優が幼いころの私の心の中を代弁してくれているかのようだ。
「昔はね。寂しかったんだよ。でもねもう慣れたし今はあなたがいるから寂しくはないよ」
「そうか。良かったな…ん?良かったのか?」
「うん。良かったよ」
笑顔でロボットに答えると少したじろぎ私の頭を優しく触れるか触れないかのあたりで撫でた。あーもうこういうどころが萌えなんだよ。と少し顔が赤くなりながらも頭を伏せて私は叫びたくなった。