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Fate Stone  作者: 黒雫しん
1/5

第0話 嵐と始まり

 少し雲の多い今日……一隻の船が海の上を漂っていた。

 その船の甲板には数人の人間が居た。その内の一人の男がタバコを口に咥えて立ち、空の様子を眺めてる。

「―――嵐が来るかな」

 はぁ…と溜め息と共に煙を吐き出すと、灰皿に煙草を押しつぶした。甲板の端に座り、面倒くさいと言いながら頭をかく……余程嵐が嫌なようだ。

「貴方は仕事で?」

 真ん中辺りに立っていた、二十代前半くらいの女性が話しかけてきた。見た目からして、この船で働いている人だろうか。

「まぁ、仕事と言えば仕事ですね。貴女はこの船で働いているんですか?」

「えぇ。おかげで、腕とか足はこんなに筋肉が付いちゃった」

 彼女は、他の男性の船員と一緒に荷物運び等を担当しているそうだ。暇だったので彼女に横に座ってもらい、話し相手になってもらって時間を潰した。話しの中に嵐の話しを入れた所、本当に来るそうだ。まったく…嫌になる。

「仕事の為にわざわざ王都から出てきたのに……ついてないですよ」

「王都からなんて大変じゃないの!だって、あんな遠い所から……」

「いいえ。陸の道は知り合いの召喚士に送ってもらったので、それ程では」

「へぇー……やっぱり召喚士が知り合いにいると便利よねぇ。あっ、召喚士が知り合いって事は、結構凄い仕事してるんじゃないの?」

 この世界には幻想界から幻獣を召喚する、召喚士というものが存在する。幻獣という生物は便利なものだ。その場所から目的の場所までの移動はもちろん、魔物が出た時などには戦闘に使用する事ができる。主に、魔物が出た時に防衛の為に使う人の方が多い。

 召喚獣は力が高い事や、特殊な能力がある事から、憧れて召喚術を習得しようとする者が沢山いる……が、召喚術は習得するのは難しく、世界中からかき集めても数は少ないだろう。普通に生活していたらまず出会う事は無い。

 だから、彼女は世界中を歩くような仕事なのかと言う意味を含めて、凄い仕事をしているんじゃないかと言ったのだ。こんな西南の島を周って行くだけの船に、仕事の為に乗っているのだというから余計だ。

「そんな大それた仕事なんかしていませんよ。偶然仲の良くなった奴が召喚士だっただけですから」

 ハハハと笑って答えると、突然、船の上部に取り付けられていた警報音が鳴り響いた。何事かと思って立ち上がり、上にいる船員の方を見ると、甲板の上に居る船員に向かって血相を変えて叫んでいた。

「でかい魔物が近づいてくるぞー!?甲板に出てる客は早く船内に非難しろ!」

 それを聞いた瞬間に、甲板に居た乗客は一斉に船内へと逃げ込んだ。

「貴方も早く中へ……」

ガァァアァァァァッ!

 大きな咆哮と共に水の魔物が船の上へと姿を現した。同時に、隣にいた彼女は武器を構えていた―――戦う気らしい。

「貴方も早く他の乗客と一緒に中へ非難して、私達船員が魔物を追い払うから!」

「……いいえ。俺が戦いますから、貴女方は客の誘導をお願いします」

 その言葉を聞いて、女船員や他の船員も驚きの表情を見せた。どう考えても男は周りの船員達と比べたらヒョロっとしており、戦いには向かない体付きだ。そんな周りを気にせず、男は荷物の中から一つの『石』を取り出した。

「それは…『ストーン』?」

 『ストーン』……それは不思議な力を秘めた石である。一般的には武器として使われており、石に登録された武器を取り出すことができる。中には魔法の込められた物もあり、術士で無いものがそれを使用し、魔法を使う事もある。

「多少ですが戦えます」

 と、言いながらストーンを使用すると。手にあったストーンは剣に姿を変えた。男は剣を構えると、再び咆哮を上げて向かってくる魔物に向かって走った。

「一人でなんて危険よ!」

「大丈夫です。それに……」

 フッと一瞬の光の閃光と共に、魔物から血が吹き出る。見ると魔物の腕が切り落とされ、船の上に転がっていた。

「仕事の邪魔をされたくない」

 魔物は奇声を上げ、そのまま海に逃げてしまう。仕留め損ねたという気持ちもあったが、海にまで追いかけるつもりなんて無い。その様子を見届けていると、空から大量の雨が降ってきた。

「嵐が来たようです。皆さん、魔物は逃げ出しましたが、この雨の中、甲板に出ているのは危険です。早く中へ入って下さい」

 

 

 船員を何人か外に残し、男と他の乗客達は中に非難した。その中には、先程一緒に話をしていた女船員もいる。彼女は俺の姿を見つけると、また俺の横に座った。

「随分と腕が立つのね。本当に凄い仕事しているんじゃないの?」

 その言葉に俺は苦笑いをした。先程も聞かれたその質問に、どう答えればよいのやら。

「だからしていませんって。只、街の外に出る事が多かったので、自然とこうなっただけです」

「本当かしら?ねっ、さっきのストーン見せてくれない?私、普段ストーンなんて使わないからちゃんと見た事が無いの」

「ああ、いいですよ」

 ストーンの入った袋を取り出して中に手を入れる。そして、先程使用した物を取り出して彼女に渡すと、一緒に別のストーンが袋から零れ落ちてしまう。

「あっ!」

 慌ててそれを拾うと、ホッと安心する。その様子を見て、彼女は落とした方のストーンが気になったのか問いかけてきた。

「そのストーン……こっちのと比べると綺麗な色をしているのね。随分と大事そうだけど、彼女からでも貰った物かしら?」

「からかわないで下さいよ。これは只、今回の仕事で頼まれた物なんです」

 良かったら手に取って見ますか?と、彼女に渡した。彼女は石を上に向けて、光を当てながら覗き込むように見つめた。

「綺麗……石が自分から光っているみたい」

「実際にそれは、自身が光を放っているんですよ」

 石を彼女から受け取り、袋の中にしまいこむ。

「今回は特別な仕事なんです。だから……仕事の邪魔になる奴には容赦しない」

「もしかしてそれを届けるのが仕事?」

「届ける……というか、孤島にあったこれを入手しろと言われたんです。だけど、まだやるがあるので王都に向かわずに遠回りのこの船に乗ったんです」

「へぇ……」

 バンッ!と突然扉が強く開け放たれた。顔を向けると、全身が雨で濡れた男の船員が息を切らして立っていた。

「大変だっ!さっきの…っ魔物がまた船の上に…っ」

 そこまで言うと、船員はバタリとその場に倒れてしまった。よく見ると背中から血を流している。その様子を見て、周りの乗客達は悲鳴などを上げてパニック状態に陥った。隣にいた女船員は倒れた船員の所に行くと、懐から包帯などを取り出し、船員に応急手当を施していった。

 同時に、パニックになっている乗客をなんとか落ち着かせようとしている。

「言ってる傍から…!」

 船内がこんな状況だが、彼女が乗客を落ち着かせてる隙に、俺は甲板へと走った。上からは船員の叫び声や武器を扱う音が聞こえてくる。上に出てみると、先程の魔物が怒りで暴れ狂っていた。

 船内から俺が出てきたのを上で奮闘していた船員が見て、驚いた表情をしながら叫んできた。

「あんた!いくら強くてもこの嵐の中で戦うなんて危険すぎる!」

「こんな所で足止めくらうなんて、嫌なんですっ!」

 言葉と同時に魔物に切りかかり、もう片腕を切り落とす。だが、さすがは魔物。それだけでは静まらず、頭から突撃してきた。その攻撃を大きくジャンプして避けると、剣を魔物の頭の上から振り下ろして、首を切り落とした。

「……この手の魔物は見掛け倒しだから、慌てずに攻撃をすれば倒すことができます。

 次からは気を付けて相手をして下さい」

「す……すげぇ、ありがとうございました!」

 船員がお礼を込めて頭を下げると、先程の倒れた仲間の船員が心配なのか、数人はその後すぐに船内に入っていった。その内にも嵐は強さを増していき、前がよく見えない程にまで雨が降っていた。

「まるで滝みたいだな……これじゃ、周りの様子がよく分からな―――」

 バンッ!

「なっ…!」

 死んだと思っていた魔物の尾が動き、男を弾き飛ばした。

(油断した……っ)

 男は荒波の中にそのまま飲まれてしまう。その様子を見ていた数人の船員が、嵐の海を覗き込むが、男の姿を捉えることはできなかった……。



 どこかも分からない海岸……海に沿って波打ち際を少年が歩いていた。

 散歩中に少年の目の前でチカッと何かが光った。見ると、綺麗な色をした石が砂の中から半分だけ出ていた。その石を手にし、光りにかざして眺めてみる。凄く綺麗だ。しばらくの間その石の光りを見つめた後、石を服の中にしまう。石をしまった後に海岸の先を見ると、そこには人が流れ着いていた。

「大変だ…!」

 少年は急いでその人の所へ走っていく。そこに倒れていたのは二十代くらいの男だった。呼吸をしていたので、とりあえず生きてはいると安心し、その男の体を揺すった。だが、目を覚まさず、少年は何度も声を掛けながら起こそうとした。

 顔色は悪く、体も冷たい。このままじゃ危険だと思った少年は、一人では運べないので村の人を呼びに行こうかと立ち上がった。

「ぅっ……」

 すると、僅かに男に反応があり、再度声を掛けると男は目を覚ました。虚ろな表情をしながら起き上がり、少年の顔を見た。

「大丈夫ですか?」

「ここは……」

 自分の状況が理解できていないという感じにぼんやりとしている。男は立ち上がろうとするが足元をふらつかせて危なっかしい。

「俺の肩に掴まって下さい。町の病院まで案内しますから」

「病院……」

 少年は男の腕を引いて、自分の肩に体重を掛けさせて歩き出した。

 

 ほら…音が鳴り響くよ

 

 しばらく歩いた森の中、男は自分よりだいぶ小さい少年に声をかけた。

「君、俺を抱えたままだと歩きにくいし、疲れただろう…少しそこで休もう」

「でっでも、早く行った方が……」

「少々目眩はするが大丈夫だ…」

 そう言われて少年は男を木陰の下に座らせ、その横に自分も座った。よく見ると、先程よりかは顔色は良いようだった。しばらく沈黙の空気が続いたが、最初に口を開いたのは少年だった。

「貴方は…昨日の嵐にやられたんですか?」

「嵐?」

「昨日は陸も海も凄い嵐だったじゃないですか。覚えていないんですか?」

「嵐……いや、嵐どころか……」

 男の様子が何かおかしい。落ち着いた雰囲気も無くなって行き、男は顔色を変えて目を見開いた。顎に手を当て、目を泳がせる。

「自分の名前すら思い出せない……」

「もっもしかして……記憶喪失?」

「そのようだ……」

 少年が慌てていると、男に落ち着けと言われてしまった。男は自分のことなのにとても落ち着いている。

「何か思い出せそうな事は無―――」

「ガルルルッ……」

 茂みから唸り声の様な声が聞こえた。二人はそちらに振り向くとそこには、見た目は犬の様だが頭に角を生やしている生き物……魔物がいた。魔物は唸り声を上げながらゆっくりと近付いてくる。

「逃げて!」

少年は男の前に立った。

「君はどうするんだ?」

「俺なら大丈夫です。少しくらいなら戦う事ができます!」

 少年は懐からストーンを取り出すと、それを大剣に変えた。剣を大きく上に持ち上げ、魔物目掛けて切りかかろうとする。

「やぁぁああ!」

「いけない!その魔物は―――」

 シュッ!

「ぅぐっ!」

 魔物は突進して少年を突き飛ばした。その拍子に少年は剣を落としてしまう。魔物の動きはとても素早く、少年の攻撃よりも前に魔物が攻撃をしかけてきたようだ。

「今何で魔物の事が……」

 男が考える間も無く、魔物は次の標的である男の方に攻撃を仕掛けてきた。だが、男は素早い魔物の攻撃を反射的に避け、身をかわした後すぐに少年の落とした剣を拾い上げ、両手で持って構えた。

「!」

 少年が見たのは、男が前に踏み出したと思ったら、その先で魔物が真っ二つに切られていた光景だった。何が起こったのか……少年は理解するのに時間が掛かった。

「俺は何で……」

 男は感覚で覚えていた自分の動きに呆然としていた。記憶は無いが確かに自分の体は、戦い方を覚えていた。

 その時、攻撃をした時にでも切れてしまったのか、男の足元にペンダントが落ちた。首元にかけていた物のようだ。男はそれを手に取る。何の変哲も無い、小さな金色の丸い形をし、赤い飾りの付いたペンダントだ。

 金色のペンダント……何故かとても大事な物のような気がしてくる。すると、頭の端で何かが動いた気がした。何か思い出せそう……そう思いながらそのペンダントの裏を見ると、そこには文字が刻まれていた。

「ミチリュウ……そうだ、これは俺の名だ」

 ミチリュウは思い出せる所までを少年に話した。辛うじて記憶として頭に残っていた事は、自分は戦う事ができるということ―――それのみ。ペンダントのお陰で名前を思い出す事はできたが、このままではどうすることもできないと途方に暮れ、これから先どうすればいいのか悩んだ。だが、そんな悩んでる横で少年は目を輝かせていた。なんでも、少年は一人前の戦士を目指しているらしく、ミチリュウに剣などでの戦い方を教えて欲しいと言うのだ。

「駄目ですか?」

 そう言った少年は付け加えて、記憶が戻った時点で終了でも構わないと言った。だから、戦い方を教えて欲しい。それまでの間は自分の家に住んでてもいいと言う。

「行く所も無いし、話に乗るしかないだろう。それで、君の名前は?」

「S・ステアーです」

 二人はよろしくと握手をし、村の病院へと急いだ。

 

 ここでこの出会いをしたのは、偶然だったのか必然だったのか……。

 物語はここから繋がってしまった。


 

 

『呼び音の端から奏でる子守唄よ。僕達を呼び止めて、僕達を眠らせる』


 一人の青年が立ち止まり、星空を見上げた。


『呼び音の中から息づく子守唄よ。僕達の運命が動いて、僕達の未来が見える』

 

 一人の少年が武器を手に、湖の水面を見つめた。


『呼び音から聞こえる子守唄よ。僕達はここにいるから』

 

 二人の青年が夜空に目を向けた。


『僕達はどこに行くのか、僕達にも分からない』

 

 一人の青年が駆ける足を止めて、星に手を伸ばした。


『それが運命だから』

 

 一人の青年が夜空に向かって微笑んだ。


『物語はここから始まるよ』


「………なるほどね…さて、この先の話はどうなることやら」

 一人の青年が水晶玉を見つめて、目を伏せた。

 

『だから恐れないで行こう……』

 

「それは何の歌?」

「ふふっ、内緒だよ」

 二人の男女が不思議に夜空の下に立っていた。

 

 

 ―――これは一人の少年を追ってできた、物語の一部である―――

 

 

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