落ち込んでいます(姫様が)。
だいぶ間が空いてしまいました。
テンポ悪いです。
楽しんでいただけたら幸いです。
「ほーら、たかいたかーい」
「きゃー!ほにょやりゃー!」
のっけから失礼致します。
あたしはただ今クラリサさんに「高い高い」をされ、その浮遊感と変わる目線を楽しんでいる最中です。
ちなみに「ほにょやりゃー」に全く意味はありません。単なる喜びの声ですので悪しからず。
だってまだ上手く喋れないんだもん・・・・・・
それにしても、異世界にも「高い高い」ってあるんですね。
いいことです。
あたしこれ好き。
・・・・・・なに?「バカと煙は高いところが好き」?
よっしゃいい度胸だ、表に出ろ。
「可愛い子ですわねぇ。
人見知りしない子で良かったですわね、姫様」
きゃっきゃっと機嫌よく笑うあたしを見ながら、クラリサさんも嬉しそうに笑った。
「そうですね・・・・・・」
「姫様・・・・・・」
それとは対照的に、姫様はどん底と言っていいまでに落ち込んでいる。
あの後、王様の「何かの間違いかもしれないから、もう一度儀式を行う」と言う宣言のもと行われた召喚では、結局彼らの望む「勇者」は現れなかったからだ。
その時召喚されたものは、中身が白紙の本やインク瓶や万年筆、旅行先の土産物屋でよく見かける木刀、果物ナイフ等の何処にでもありそうな日用雑貨のみで、その後はうんともすんとも言わなくなった。
そもそも召喚陣が光ることすらしなくなった。
・・・・・・あたし、無機物は「勇者」とは呼ばないと思うんだ。
どうやらその場にいた皆様も同意見だったようだ。
みんな一様にがっかりしていたが、特に落ち込んでいた(現在進行)のがこの姫様だ。
もしかしたら今回の「勇者召喚」の指揮者とか、責任者だったのかもしれない。
なんだか可哀想になってきてるけど、まだ満足に話すことも歩くことも出来ないあたしにできることは何もないし・・・・・・
そもそも、誘拐の犯人な訳だしね。
「溺れるものは藁をも掴む」だったんだろうけど、自国の問題をなんの関係も義理もない第3者に押し付けようとしてあてが外れたからって落ち込まれてもって気分でもある。
「国民たちに何と言いましょう・・・・・・。皆、「勇者」が最後の希望でしたのに・・・・・・」
「姫様・・・・・・。
どうかあまり落ち込まれませんように。
確かに、救世主様が現れなかったのは残念ではございますが・・・・・・それは、姫様のせいではございませんわ」
今にも泣きそうな顔で呟く姫の言葉に、クラリサさんは励ましの言葉を返した。
それになにか答えようと姫の口が開いた瞬間、コンコンと静かなノックの音が部屋に響いた。
「・・・・・・どうぞ・・・・・・」
「はい。失礼致します」
入室の許可を得て、頭を下げながら入ってきた女性は、足がぎりぎり見える長い黒いドレスに白いエプロンを付けてたいかにも「ザ・メイド」といった感じの人だった。
「お寛ぎ中失礼致します、姫様。――クラリサ様、陛下がお呼びでございます」
「陛下が?」
「お父様が?クラリサに・・・・・・?」
驚いた様子の二人に、入ってきたメイドは淡々と答える。
「はい。急ぎ、参るように、と」
「わかりました。姫様、申し訳ございませんが、失礼致します」
「ええ。私も・・・・・・」
「いえ、姫様。陛下はクラリサ様だけでよいと」
腰を上げようとした姫にさっきと同じ抑揚で答える。
なんと言うか、丁寧なのだが、どちらかと言うと慇懃無礼に近い態度の女性だ。
つか話しかけてる途中で遮るとか普通に失礼じゃね?
「そう・・・・・・ですか」
「はい。申し訳ございません」
「いえ・・・・・・」
「姫様、なるべく早く戻りますので」
そう言って、クラリサさんはあたしを抱いたまま歩き出そうとした。
おりょ。私も一緒に行くのかな?それとも途中で別の人に渡すつもりなのだろうか?
だが、それを押しとどめたのはまたしてもメイドだった。
「クラリサ様。勇者様は姫様と共に、と陛下が」
「ですが・・・・・・」
「それに陛下はクラリサ様に「直ぐ」と・・・・・・」
「・・・・・・わかりました。では、あなたは子守りをなさい」
「申し訳ございません。私は、子供に触れはことが・・・・・・」
「・・・・・・では子守りができる者を連れてきなさい。直ぐにです!」
「はい!畏まりました」
いちいち反論してくるメイドに苛立ったのだろうか。
クラリサさんは厳しい声で一喝し、メイドは退出の挨拶をすることも無くあわてて部屋を後にした。
「御見苦しいところをお見せして申し訳ございません。
すぐに代わりの者が参りますので。
一度失礼致します、姫様」
そう言って、クラリサさんはパタンと扉を閉めた。
読了ありがとうございました。
今後も投稿は不定期です。