取り敢えず観察しようと思います。
どもっ。
改めまして。
この度異世界に勇者召喚されました、佐倉空良と申します。
ぴっちぴちの0歳8ヶ月、乳幼児真っ盛りです。
まだあんよどころかたっちもできません。
はいはいはできます。かろうじて。
言葉はあぶー語しか話せません。
因みに黒髪黒目の日本人。
前にも言いましたがネズミの王国がある県に両親共々住んでいました。
ん?
8ヶ月にしちゃ思考が明瞭すぎるって?
答えは簡単。
私はちまたで言うところの転生者なのだ。
前世もやっぱり日本人女性で、22歳で死にました。
その時の名前も覚えているけど今は空良だし関係ないので言いません。
昔はこう言う性格ではなかったんですが、変わっちゃったのは、まあ……仕様?
まっ、問題ないですよね。
赤子だし。
ひとまずの問題は、この目の前の現状をどうするかってことですかね。
とは言ってもできることは何もないので観察――もとい、見守るとしましょうか。
あたしは、絶世の美少女が、黒ローブの首をギリギリと締め上げるのを見やりながらそう決めた。
「勇者様が、召喚されるんじゃ、なかったんですか?」
一言一言区切りながら、その怒りを知らしめるように問い掛ける美少女。
パクパクと口を開閉させ、必死に空気を肺に取り込もうとする黒ローブ。
――うん。
ひとまずその首を絞める手を外さないと答えようにも答えられないのではないかな?
それとそのままだとそろそろ死ぬぞ。
もちろん喋れないので心中で突っ込みはできても忠告出来ないが。
どうしようとあたしが考えている間に、しかし、黒ローブの救援は思わぬところから現れた。
「――姫様。ひとまずその手をお離しくださいませ。
そのままでは、話すこともできませんわ」
「クラリサ……」
地味な黒いエプロンドレスを纏った30代くらいの女性が美少女に話し掛けた。
落ち着いた物腰は、正に淑女と言って差し支えない上品さだ。
侍女さんかな?
それともお姫様をたしなめられるところを見ると乳母とか。
てかやっぱりあの子お姫様だったんだね。
「そうだな。ステアリーナ、手を放しなさい」
「はい。お父様」
黒ローブの後ろで、騎士や兵士たちに囲まれている立派な服を着た男性が言った。
王様いたんだ……
そんな失礼なことを思っているあたしの目の前で、黒ローブは首に手をやってごほごほと噎せていた。
王様はそれに目をやりつつ、あたしを見て解りやすく落胆した目をしていた。
やれやれ、どうなることやら。