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バカップルのケンカほど巻き込まれたくない物はない~前編~

とばっちりを喰らいますから。

2023/08/17…全体的に修正

「ユウ様とケンカをしてしまったの。わたくしが悪いのだけど。それで、彼の好きな物を作って謝りたいから一緒に“まんまる鳥の卵”を取りに行ってくれないかしら?」


 夜も更けた頃、自宅で一人焼肉を楽しんでいたマリオンの元へ、一人の金髪碧眼、巨乳でありながらも可憐さを損なわない女性が現れた。

 マリオンの親友の一人、ミレディだ。

 彼女は結婚のできる年齢になったらユウという、同じくマリオンの親友で幼馴染みでもある男と結婚した。その程度はバカップルと称されるほどのラブラブさである。


 人妻であり、相手とそんな仲である彼女が夜に一人でここまで来るということは、どれほどのケンカをしたのか。

 はっきり言って関わりたくない。


「そ、そう、“まんまる鳥の卵”ね。ちょっとしたお店になら売ってると思うけど、取りに行かなきゃだめなの?」


 だが、マリオンは人の頼みを断ることのあまり断ることのできない性格であった。そして断れば彼女は一人で取りに行くと決まっている。そうなると今度は旦那(ユウ)の方が訪ねて来て「何故一人で行かせた」と怒られて……。

 なんとか無難に終わらせる方法はないかと考え、ミレディに聞いてみた。


 “まんまる鳥の卵”は、大人が両手で抱えるほどの大きさだ。それに殻も固い。美味しいモノだが普段使いできるような代物ではないので、なかなか普通の店には置いていない。

 しかし“まんまる鳥”は穏やかで友好的な種のモンスターであり、人と共存して暮らすこともあるため、一部の高級食料品店へ行けば値が張るが取り扱っていたはずだ。


「あまり家計には響かせたくないの。うちは育ちざかりの子たちもいるし、マリオンちゃんに渡せるお礼もそこまで多くないのだけれども……」


 これは彼女たち夫婦が子沢山なわけではなく、彼女たちが孤児院の運営をしているために子供たちが多いというわけだ。国同士の戦争がなく比較的平和なグレックス周辺だが、冒険者が多く居る地域のためか、遺される子供たちは少なくない。そういった子供たちを引き取って、彼らは育てている。ちなみぬ当人たちはまだ子供を作る気はさらさらない。

 結局、お礼代わりのミレディのお菓子につられたマリオンが折れて行くことにした。ミレディの作るお菓子は美味しいのである。


「でも、絶対ミレディは私から離れないでね」


 防御力皆無なマリオンとしては、ミレディに何か危険が迫った時は身代わりになるしか手がない。ただそれでも彼女に怪我をさせて怒られることよりはマシである。


***


 マリオンの隣をるんるんしたミレディがスキップせん雰囲気で歩いている。


「ユウ様もいればきっと楽しかったでしょうに。マリオンちゃんはギルさんよね」


 始発の乗合馬車にガタゴト揺られ、近くの村からは歩いてきた。いったい何のために朝から山登りを始めたのか。まんまる鳥の卵を取りに行かなくてもそう言えさえすれば、ケンカ中とはいえユウはあっという間に今日の孤児院の予定をピクニックにでも変えただろうに。|()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ものすごく帰りたくなったが今は我慢した。

 後半の言葉は無視する。


 マリオンたちはグレックスから北側へ広がる山脈に来ていた。この山脈にはいくつかまんまる鳥の棲み処(すみか)があり、今はマリオンが知っている街から一番近い場所にある棲み処へと向かっていた。


「マリオンちゃん見て見て! もふもふした可愛いモンスターがいますわ!」


 ハイキングのように騒ぐミレディを見てため息をつきながら、しかしその“もふもふした可愛いモンスター”を見る。マリオンも女の子。もふもふな可愛い物は大好きに決まっている。

 それは白い毛をした丸い小動物。二本の脚が生え、くちばしがあり、短い羽をぱたぱたさせている。


「……まんまる鳥のヒナ、かな」

「まあ、そうですの?」


 すでにその生物を捕まえ腕に抱くミレディはこてんと首をかしげた。その生物も一緒に首をかしげた。

 マリオンの精神に百のダメージ。マリオンは悶えている!


(可愛い子と白もふのコンボは完璧だ!)


 マリオンは心の中で叫んだ。多少引きたくなることもあるが、親友としてミレディは大好きであるからおおげさに反応する。たとえ能天気でもバカップルの片割れでも友達は好きである。


「マリオンちゃーん、少し言い過ぎでなくって?」


 笑顔で問われ、慌ててマリオンは思考を変える。まずはこの生物を調べなくては。

 ―調査―の魔術を使い、白く可愛いもふもふがまんまる鳥のヒナであることが確定した。

 ヒナがここにいるということは、近くにまんまる鳥の棲み処があるということだ。もともと展開していた―感知―の魔術の効果範囲を広げ、まんまる鳥の棲み処を探す。


「もうすぐだね。あっちに数百メートル」


 そちらの方には小さな獣道が続いている。まんまる鳥はその体型ゆえ羽を使って飛ぶことが苦手だ。人並みの知能があるため大人になれば()()を操り自由に飛ぶことも可能だが、ヒナの頃は難しい。この道がそういったまだ飛べないまんまる鳥たちが使う道であろう。

 ちなみに「魔術」は基本人間が使う学問的に体系化された魔力を操る技術、「魔法」は体感的に魔力を操って何かを起こす技術で、モンスターなども使えるモノだ。微妙に区分が違うのだが、座学な苦手なマリオンは何となくの感覚でしか違いを覚えていない。


 その道を辿れば大した障害もなく棲み処へと着いた。そこらかしこに大小様々な白いもふもふ、まんまる鳥たちがいた。皆が突然現れた侵入者にこてんと首をかしげた。

 マリオンは発狂しそうになるのをなんとか抑え、ふらふらとまんまる鳥の方へ行こうとするミレディを諌める。


「ああ、マリオンちゃん酷いですわ。マリオンちゃんだってもふもふしたいのでしょう?」

「それはしたいけど、今は卵を譲ってもらいに来たんでしょ? そんなにもふもふしたいのならあとでユウに連れてきてもらいなさい。めったなことでは人を襲わないから孤児院のピクニックでも企画して」

「それはいいですわね! 早く仲直りしなくちゃ」


 ずっと思っていたことをマリオンは口に出す。早速楽しそうにピクニックの予定を考え始めたミレディを引っ張りながら、この棲み処で一番大きなまんまる鳥の元へ向かった。

 棲み処の中心でさっき拾ったヒナと同じようなヒナたちに囲まれたそのまんまる鳥の大きさは直径二メートル強。大きいモノは怖いと感じることが多いが、これは可愛いとしか言いようがない。


『あらあら、どうしたのお嬢さんたち? 迷子、ではなさそうねぇ』


 近付くと―念話―という魔術でまんまる鳥が聞いてきた。声の質感がマリオンがお世話になっている近所のおばさんに似ていて、「なんとなく親しみを覚える」という不思議な感覚になった。


「私はマリオン・ブレッカーといいます。こちらは友人のミレディ。実はあるお願いがあってお訪ねしたのですが」


 近所のおばさんに似ていようがモンスターだろうが、相手はマリオンたちよりも数十年多く生きてきた方。必然と丁寧な口調になる。

 そして少し失敗したことを悟った。自分が引っ張ってきたという流れから先にしゃべってしまったが、本当はミレディが頼むべきことなのだ。何で親友夫婦のケンカ話を自分がしなくてはならない。


『そんなに堅苦しくしなくてもいいわよ。さあそこらへんの切り株にでも座って下さいな。今お茶でも出しますから、お話はそのあとでね。あ、お茶菓子はないけど、今朝採ってきたばかりの木の実でも食べる? おいしいわよ』


 どれだけ友好的なんだ! とマリオンは心の中で突っ込んだ。


「ぜひいただきたいですわ、まんまる鳥様」


 ミレディが全く遠慮せず木の実を頼んだ。そういえばミレディは隣国の大富豪の娘だった。もてなされるのは慣れているのかもしれない。

 すぐにお茶の準備が行われた。普段からお茶を楽しんでいるのか、お茶の道具を魔術で器用に操りながら魔力を纏いながら勝手に動いている。その魔力制御の精密さと速さに驚き、いつかお茶の淹れ方でも習おうかなと思った。

 こうしてマリオンは人生初、鳥主催のお茶会は始まった。


『若いっていいわねぇ。羨ましいわ~』


 話を聞き終わったまんまる鳥改めてスフェアさんが最初に発した言葉はそれだった。

 どうも近所のおばさんと話している気しかしない。

 そう思いながらハーブティーに口を付けた。実はこれで五杯目だ。話し始めたミレディの横でずっとお茶と木の実を堪能している。それはそれはおいしく、絶対淹れ方を習おうと思った。


『そういうことなら卵をあげましょう。繁殖期じゃないから必要もないし。……でも、今は手元にないの。次産むのは今日の午後ぐらいだと思うから、それまで待っててくれないかしら?』

「わかりましたわ。こちらも私事で無理を言ってしまって申し訳ありません」


 まんまる鳥は鶏のように繁殖期でなくても卵を定期的に産む。ただその周期は鶏より長く一、二週間に一個といったくらいだ。次に産むのが今日の午後だということは、運が良いのかもしれない。


「でも午後までは時間がありますわね。マリオンちゃんどうしましょうか?」

「え、じゃあお茶の淹れ方でも習おうか――」

『ねえねえおねえちゃんたち、ひまなの?』


 人間という見慣れないモノに興味津々で近寄って来てちょこんと一緒に座っていた一匹のまんまる鳥のヒナが、マリオンたちに尋ねてきた。その無邪気な姿にマリオンはついに陥落したが、ミレディがヒナと目を合わせるようにしゃがんだ。


「ええ、そうですが……どういたしましたか?」

『あのねあのね、ぼくたちのみずあびばにおっきいはっぽんのあしのモンスターがでて、いけないの。あれ、たおしてきてくれないかな? おれいならちゃんとするよ! ほら、ぼくがとってきたきらきらしたもの!』


 つぶらな瞳と上目づかいでは断るに断れない。ちゃんと依頼報酬も提示してくれたのでさらに断れない。ミレディなんか即頷いていた。

 事情をスフェアに聞けば、以前使っていた水浴び場に“水グモ”というモンスターが巣を作り、危険で行けないのだという。水浴び場自体はこの周辺にいくつかあるので問題はないのだが、その水浴び場は綺麗で魔力も良く集まり、ヒナたちの絶好の遊び場もあるのでできれば取り戻したいらしい。


 卵を譲ってもらえる恩もあるのでと、ミレディは改めてヒナの依頼に快諾した。

 マリオンも異存はない。

 ただし、ミレディには絶対に前に出るなと再度伝えた。ここまで上手くいったのに、この後怪我をされては元も子もない。

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