表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

邂逅 2部 Phase1

 すっかり長くなった陽もようやく暮れて、街路沿いに並んだ魔法灯がその使命を十全に果たすようになった頃――

 魔法学院の正面に(そび)え立つ白い城館風の建物へ向けて、草臥(くたび)れ果てた中年男がとぼとぼと重たい足取りで歩んでいた。


 各関係省庁に頭を下げまくって、事後処理になんとか一段落をつけた院長(ガストン)である。


 もともと学院の敷地は、より広大なフォルチュンヌ家の敷地の一部にある。

 学院校舎も魔法文化の発展のために――と、

 その昔ラ・リューヌ王妃が私塾として建造した別館を、隠居後に寄贈したものが起源となっていた。

 院長(ガストン)一家の住まう瀟洒な居館も、王妃がこよなく愛した離宮を改装して現在に至ったものである。


「あ~~~~疲れた…………」


 玄関口に入り、出迎えた妻―メールに鞄を渡しながら、吐き出すように院長(ガストン)が云った。


「やあ、父さん―お帰りなさい」


 黒塗りの木刀を片手にラフなスウェット姿で通り掛ったクレールが声をかけた。

 日課の素振りをこなすべく庭に向かっているのだろう。


「リューヌは……? 部屋か―」


「ええ……帰ってすぐ部屋に閉じこもって、何かやっているようですわ」


 ネクタイを緩めながら問いかけるガストンに、にこやかな表情でメールが答えた。


「なぁに……早速魔力充填(チャージ)でもやっているんでしょう。


 いくらリューヌの魔力が桁外れでも、九個はちときついでしょうから――」


 肩を木刀でトントンと叩きながら愉快そうにクレールが口を挟む。

 とたんにメールが心配そうに顔を曇らせた。


「今度は何をしでかしましたの……?」


「んん……いや、その……なぁ…………」


 ガストンが『余計なことを云ってこの~~』と言いたげな顔付きをして、クレールを横目で睨む。

 強面顔に似合わず妻に弱く娘に甘いガストンは、メールにはできるだけ内密に事を処理するつもりだったのだ。


「……まあ、ちょっとしたアクシデントですよ。ほんの些細なね――」


 ガストンから視線を逸らし、わざとらしい笑みを浮かべて、クレールが誤魔化した。 

 父親の意図するところを理解して韜晦したのである。

 メールに弱いという点ではガストンと全く変わりがない。


 もの問いたげなメールを押し切ろうと、ガストンがさらにフォローする。


「いずれにしろだ…………これで休みの間くらいはおとなしく――」


 ドオォォォォォォォォォン ―――


 凄まじい音とともに館全体が振動した。


 ガストンの楽天的な観測をぶち壊すかのような絶妙のタイミングである。


 家具が倒れ、窓枠が激しく鳴り、ガラスに亀裂が入る。

 細かい埃が舞い落ちる中、三様の表情で固まっている三人――


 強張った笑顔を張付けたままのガストン、

 やれやれまたかといった感じのクレール、

 頬に手を当て困った顔をしたメールは、

 はたっと我に返り、二階のリューヌの部屋を目がけて走りだした。


「今度は何事だ――っ!?カップ焼きそばか……?」


「地震が起きたということは、地竜でも呼び出したんじゃないでしょうか」


「ベッドから落ちたにしては大きな音ですわねぇ……」


 不安を紛らわそうとする心理が働いているのだろう。


 三人はあまり噛み合わない会話を交わしながらリューヌの部屋の前にたどり着くと、勢いよくドアを開けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ