白景色
雪が降っている。
白くて儚いそれは、僕に当たって消える。厚手のウィンドブレーカーを着ていてもまだ寒い。息を吐くと白く濁っては消える……その繰り返し。ただ一人、暗い闇の中をとぼとぼと歩いている。
ふと横を見ると、いつの間にか小さな女の子が僕に並んで歩いている。遅れないように、追い越さないように、ただ並んで歩いている。
――どうしたの?
僕が尋ねても女の子はこちらを向き、白くて可愛らしく、そして何処か悲しげな笑みを返すだけだった。
――小雪
その女の子の名前だった。
小雪と、しばらく並んで歩いた。雪は尚しんしんと、止むことを忘れたかのように降り注ぐ。手足は凍え唇は震えるが、何故か寒くは無い。むしろ、どこと無く温かい。
……何故? さっきまで僕は寒いと感じていた筈なのに、何故温かい?
小雪がいるから? 体を動かしたから? 何処を探しても、何を探しても、答えは見つからない。……まぁ良いか。
こうして歩いていると何だか幸せな気持ちになる……と言うのは大げさだろうか? いつの間にか繋いでいた、小雪のこの小さな手のぬくもりに癒されている自分がいる。
相変わらず小雪は喋らない。しかし、暇ではない。ただ小雪と二人で歩いている時間が心地良い。もうすぐ僕の家だ、紅茶でも入れてあげよう。
そのとき、急に袖が引っ張られた。
振り向くと小雪はこちらに笑みを浮かべた。あの悲しげな笑みではなく、もっと温かい子供の見せるような満足気な笑み……
……目を開くとそこには誰もいない。僕の袖を引っ張っていた女の子もいない。
さっきまで尽きること無く降っていた白く儚い雪は、もう降っていない。
悲しくなんてない。だって、僕の傍にはいつも小雪はいるから。姿は見えないけど、確かにいるような気がするから。
気が付くと、僕は家の前に立っていた。
本当、力不足ですみません。ほのぼのとした感じを表現してみました。短い小説ですが、これを読んでくださった方たちの『幸せの器』が少しでも満たされれば良いなぁ…と思って書きました。