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がんばれ美鈴!

作者:役満九太郎
東北地方太平洋沖地震で被害に遭われた全ての皆様にお見舞い申し上げます
 幻想郷ー。

 霧の湖に浮かぶ小島に建つ洋館には、幼き吸血鬼の姉妹が住むと言う。
 その館、幼き吸血鬼姉妹が食べ残した血肉が滴る如く、その身を真紅に染め上げていた。
 人々はその館を『紅魔館』と呼び、幻想郷に住む多くの者が恐れた。

「…はっ!はっ!…たぁーっ!!」
 その声は、紅魔館の中庭から聞こえた。繰り出される拳、風を切る蹴り、そして舞い踊る紅の長髪…その1つ1つは、見る者全てを魅了するだろう。彼女の動きは疾く、力強く、そして美しかった。
 彼女の名は紅美鈴。華人小娘と呼ばれる、紅魔館の門番である。彼女は今、日課とも言える鍛錬に汗を流していた。
 そんな美鈴の背後に、音を殺した一筋の銀の光が、風を切りながら襲いかかった。研ぎ澄まされた銀の光は、美鈴の心臓を的確に狙っている。
「はっ!!」
 だが美鈴は冷静に、そして振り返る事もなく、右脚を振り上げて銀の光を蹴り払った。銀の光は弧を描き、主の手の中へと戻った。
「流石ね、美鈴」
 紅魔館のメイド長・十六夜咲夜は、蹴り返されたナイフをホルスターに収めながら、笑顔で声をかけた。その傍らには、紅魔館の主レミリア・スカーレットの親友パチュリー・ノーレッジの姿も見える。
「ふぅ~…脅かさないで下さいよ、咲夜さん」
 美鈴は振り返り、咲夜とパチュリーに笑顔を向けた。
「ふふっ…ごめんなさい。それにしても、精が出るわね」
「もちろんですよ!いつ、太歳星君が幻想郷に攻めてくるか、わかりませんからねっ!」
「アンタ…まだ、そんな事言ってるの?」
 意気込む美鈴に対し、パチュリーは溜め息を吐いた。咲夜も苦笑いを浮かべている。
「でも、パチュリー様。私が戦った太歳星君の影は、私が見た夢だったかも知れません。けど、私はあの日、たしかに見たんです!そびえ立つ、太歳星君の巨大な影をっ!!」
 美鈴が言うには、太歳星君とは幻想郷に災禍をもたらすと言う。特に、美鈴が戦った太歳星君の影を名乗る大ナマズは、幻想郷に大地震を引き起こそうとしていたというのだ。もっとも、それらの話は全て、活劇漫画に影響された美鈴が見た夢の中での出来事に過ぎないのだが。
「その話…レミィにもしたでしょ」
「えっ、あぁ、レミリアお嬢様にですか?もちろんですよ。お嬢様だけでなく…」
 そこまで聞いて、パチュリーはまた溜め息を吐いた。
「おかげでさぁ、レミィったらすっかりビビっちゃって。やれ館の耐震強度はどうだとか、今度ここでも避難訓練をやるとか、そんな事言い出したんだけど」
「私も、非常食や防災グッズを万全にしておくように言われて。今から里に見に行く所よ」
 パチュリーに続き、咲夜も再び苦笑いをこぼす。
「まったく。アンタがどんな夢見ようが勝手なんだけどさぁ…」
「お言葉ですが、パチュリー様。備えあれば憂いなし、という言葉もあります。ですので…」
「あ~はいはい。それ言われたら、返す言葉がないじゃない。もう、いいわよ。別に、その事自体は悪い事じゃないんだし。それより…」
 それまでの呆れ顔から一転し、パチュリーの表情がやや厳しくなった。
「アンタがここで鍛錬に精を出していて…門は誰が守っているのかしら?」
「あ…」
 美鈴は、背中に嫌な汗が一筋、流れ落ちるのを感じた。慣れている、いつもの事なのだ。
「いつもの黒いのが来て、勝手に本を持っていったわ。防災意識を持つのは結構な事だけど、防犯の方もしっかりやってもらいたいもんだわ。門番なんだから。というわけで、アンタ…後で説教ね。今夜、私の所に来て」
「アイヤ~」
 ガックリと肩を落とす美鈴。そんな美鈴に背を向け、パチュリーと咲夜はその場を後にした。
「はぁ~」
 美鈴は大きく息を吐き出し、ゆっくりと上体を起こした。
「今日の鍛錬は終わり…仕事に戻ろう」
 そう言って、美鈴は本来の持ち場に戻っていった。

「…どう思います?パチュリー様」
 歩きながら、咲夜は隣を歩くパチュリーに話しかけた。
「どうって…何が?」
「あ、いえ…美鈴が言ってた事です。太歳星君とかいう、巨大な影…」
「ん~私、思うんだけどね…」
 そう言いながらパチュリーは、遠く、高くへと視線を向けた。その先には、妖怪の山が見える。
「ほら。こないださ、みんなで河童のバザーに行ったじゃない。その時、非想天則…だっけ?大っきなアドバルーンがあったじゃん。アレってさ。紅魔館からも見えてたぐらいだし、あいつはアレを寝ぼけ眼で見て、太歳星君と思い込んだんじゃないか?って思うのよ」
「ん~…」
 咲夜は腕を組み、考え込んでしまった。
「どうしたの?」
「実は先日。神社で霊夢から気になる話を聞いたものですから…」
「霊夢から?」
 ここで、咲夜の口から意外な人物の名が飛び出した事にパチュリーは反応した。美鈴が見たという夢の話であれば捨て置くのだが、博麗霊夢から聞いた話となるとそういうわけにはいかない。パチュリーは、咲夜の話に真面目に耳を傾けた。
「湖に棲む氷の妖精が、巨大な妖怪だいだらぼっちを見た…と。だいだらぼっちと戦って、命からがら逃げてきたそうなんですが…霊夢が言うには、氷の妖精の必死な様子を見るに、いつものような悪戯で担いでるようには見えない、と」
「あぁ…その話ね。そういえば、魔理沙もそんな事言ってたわね。アリスが万が一に備え、だいだらぼっちと戦えるだけの大きさの人形を作り始めたって」
「はい。それも、美鈴が太歳星君を見たって言っていたのと、丁度同じ頃みたいなんですよ。…何か、感じませんか?」
「う~ん…」
 パチュリーは腕を組んで唸った。
「氷の妖精が戦ったって言うなら…あのアドバルーン、そこまでの動きが出来るようには見えなかったわ。だいだらぼっちか太歳星君、あるいはそれ以外の別の何かが幻想郷に現れ、何らかの異変を起こそうとしているのかも知れない」
「はい…」
「まぁ、その時は霊夢が動くでしょ。私達は…美鈴も言っていたけど、備えあれば憂いなしってね。あなたは、レミィに言われたお使いの方をお願い。私は、もう少し調べてみるわ」
「かしこまりました」
 それぞれの目的に合わせ、咲夜は人間の里へ、パチュリーは紅魔館地下の大図書館へと足を向けた。

「そう言えば…」
 持ち場に戻ってきた美鈴は、懐から1冊の本を取り出した。事の発端となった、活劇漫画である。
「今日はもう来たって言ってたわね。じゃあ、今日はもう来ないわね」
 そんな事を言いながら正門に着いた美鈴は、腰を下ろして門柱にもたれ、手にした本を開いた。
「本当、面白い漫画だなぁっ!」
 美鈴の指が、次々にページを捲っていく。
「でも…」
 美鈴は本を閉じ、妖怪の山に目を向けた。
「漫画だから面白いで済む。けど、これが現実だったら…太歳星君が姿を見せた今、本の中だけの話ではなくなるかも知れないわ。あるいは、もう間もなく…」
 美鈴の目が、いつになく厳しさを増していく。
「…そんな事は私がさせない!幻想郷一の門番が、この幻想郷を守ってみせる!!」
 改めて心に誓い、美鈴は再び劇画本を読み始めた。

 その日の夕方。紅魔館に帰ってきた咲夜が一番最初に目にしたのは、大事そうに劇画本を抱いたまま横向に眠る美鈴の姿であった。その勇ましい寝顔から察するに、美鈴は夢の中で太歳星君と戦っているのだろう。
 咲夜はナイフを投げて美鈴の眼前に突き立てると、そのまま紅魔館の中へと消えていった。その後、夢から覚めた美鈴は、目の前で光を放つ銀のナイフに驚いて飛び起きる事になる。

 がんばれ、美鈴!
 太歳星君の魔の手から幻想郷を守れるのは君しかいない!!
 けど…美鈴はそれよりも眠気に打ち勝ち、咲夜やパチュリーから説教とお仕置きを食らわないようにする事から始めよう!

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