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第1話 カイル・ファフニール


「……え?」


 車椅子に座って、食事をしていた俺は、思い出していた。


 俺の考えが正しければ、ここは【ドラゴンハート・エイジ】の世界だ。

 世界でかなり売れて、神ゲーとしても名高いファンタジーゲーム。

 

 剣と魔法の世界といえば分かり易いだろうが……よりにもよって、転生先が……。

 状況が落ち着いて、俺は静かに呟いた。

 

「最悪だ……」


 カイルの父親から責められるような声音で、告げられる。 


「そう嘆くのも無理はないが、情けないなカイル。もう時期に、成人の儀式でもある魔法適性があるのに……」

「憐れなカイルを、そこまで言わなくても……」


 周囲からの憐憫の声に、そういう意味ではないと否定したかった。

 でも、彼らの同情も理解できる。

 

 俺の身体は今、立ち上がることすらできない。

 魔法も使えず、剣も握ることができない。


 俺は転生したんだ、このザコ悪役貴族のカイル・ファフニールとして。


 そのファフニール家の腫れ物のような扱いを受けていた。

 魔法の才能が溢れるファフニール家で何もできない落ちこぼれなのだから。


「……この子はダメだな」


 冷酷に告げる父親の言葉に、誰も否定しない。


 誰もカイルを認めることはないし、慰める対象でしかない。


 その結果として、カイルは『僕を蔑むな!』と主人公たちへ怒り、呪いの力を使って破滅の道を歩むようになる。


「父上。申し訳ございません……少し体調が優れなくて、先に部屋で休んでもよろしいでしょうか」

「……ふん。好きにしろ」

「ありがとうございます」


 近くにした専属従者に目配せをする。

 部屋を出てから、呟くように従者へ問いかけた。


「……俺は、カイル・ファフニールだよな?」

「……『俺』?」

「ああいや! 僕……か?」

「先ほどからどうされたのですか。カイル様らしくございませんよ」


 彼女はウルル・バルハザード。

 かつて剣聖の座についたこともある剣の達人だ。


 ため息を漏らす女性を肩越しに見た。

 美しい金髪を後ろでまとめ、淡麗な顔立ちが凛さを際立たせている。


 ────が、かなりやさぐれているのか……疲れた感じがする。

 

 美しい庭園を見かけて、そこで車椅子を止めてもらった。

 

 そうして、ウルルがジェスチャーをする。


「あの……カイル様、吸っても?」

「構わない」

 

 彼女は一言でいえば美しい女騎士だ。

 そして、最も特徴的なのは隻腕だ。


 魔物との闘いで片腕を失い、露頭に迷っていたところをファフニール家が雇った。

 今ではカイルの専属従者兼剣士教師だが……あまり俺を好いてはいない。


 剣を握れぬ子の、剣士教師なんて飼い殺しだ。


「ふぅ……カイル様も大変ですね。ご当主様もあそこまで言わなくてもいいでしょに」

「タバコ、吸ってるんだな」

「剣聖を辞めてからですよ。まぁ、この腕を失った時からですかね……」


 彼女が自分を守るための、自暴自棄の一つなのだろうな。


 しかも、今の就職先は未来もなければ、才能もない車椅子少年の専属なのだ。

 剣も握れない今を、飼い殺しされている……と本人は思っているのかもしれない。


 ウルルは今度、懐から酒瓶を取り出す。

 俺に向かってポチャポチャと中身を振った。


「それはダメ」

 

 なぜ堂々と酒を飲もうとしているんだこのメイドは……。 

 「あら残念」といって、煙草をふかした。


「すまない、ウルル」

「……? なぜ謝られるのですか」

「君は本来、騎士団や剣を振るう場所に居たいはずなのに……俺のような元で、飼い殺しにさせてしまっている」

「……っ! いえ、利き腕を失ってから、剣を握る意味もありませんので」


 俺の予想は当たっているみたいだった。

 彼女の曇った表情からも、まだ剣への未練は捨てきれていないらしい。


 彼女はそのうち、カイルを捨ててしまう未来だった。


 剣への未練は断ち切れず、ファフニール家に飼い殺しにされていることを強く不満に思っていた。

 

 そこを王国騎士団所属のヒロインから誘われ、再び剣の道を歩むことになる。


 ……彼女は不満を表には出さず、カイルを献身的に支えていた。

 

 ただ、ウルルも己の剣を捨てられなかった。カイルはその道を示してやれなかった。


「ウルルが望むのなら、騎士団への紹介状も書いて……」

「お戯れを。今はご自身のことを心配してください。もうじき、魔法適性ですよ」


 ……そうだった。

 思わず頭を抱えた。


 ────出たな、死亡フラグ。


 これはカイルによって、最初の死亡フラグ①だ。

 

 魔法適性とは、この世界における人間が必ず受けなければならないものだ。


 例えば、神託によるスキル授与や判明に似たものだ。

 その人間が持つ適性を調べ、魔法を使えるようにする儀式だった。


 カイルの持つ魔法適性は闇。

 そしてこれは、代々光属性の家系であるファフニール家にとって、汚点そのものだ。


 闇属性だと判明してから、ファフニール家がカイルへキツくなる。

 より明確に虐めや迫害を起こすのだ。

 

「せめて、光属性の適正さえあればお家での待遇も……」

「ねぇ、ウルル。参加しないって方向性は……ぐっ!」


 ズキンッ、と頭に痛みが走る。


────

 【警告】:『魔法適性試験に参加してください』

────


 なんだこれ!


 頭が割れそうになるほど痛い‼︎

 何だよこの声……。


「……? いかが致しましたか? カイル様」

「き、聞こえないのか?」

「魔法適性には参加しない、と聞こえましたが」


────

 【警告・中】:『魔法適性試験に参加してください』

────

 

 痛みがさらに増す。


「痛───ッ‼︎」

「カイル様!?」

「な、なんでもない……」


 俺にしか聞こえていないようだ。

 どういうことだ? こんなのゲームで聞こえた覚えはないぞ。


 ……そうか、そうか! 本来のゲームストーリーの指示か。

 この世界の人間は、無意識にこの警告に従っているのかもしれない。


 それに逆らおうとしている俺に対して、強い警告が出ている。


 ……ストーリーの正常化か。

 逆らおうとすればするほど、痛みが増す。


「……先ほどの言葉は撤回だ。適性には参加する」

「……それがよろしいかと」

「それで、魔法適性っていつ?」


 それまでに、闇属性がバレないようになんとかする必要がある。


 俺の破滅を回避するために。


「一週間後です」

「一週間後!?」


 oh……ヤバイ。

 たったの残り一週間で、魔法適性をどうしろっていうんだ。

 

 闇属性だとバレたら、ファフニール家から見捨てられる。


 これは権力の喪失と、カイルの破滅ルートが始まる第一歩だ。


 ……選択は二つ。


 俺の破滅ルートを回避するため、闇属性だとバレないように隠し通すか。

 いっそ闇属性だとバレても、問題ないくらい強くなるか。


 しかし、ファフニール家の権力はこの国でもかなり高い。それを捨てるには、今後生き抜く上で惜しいものだ。

 

 車椅子生活では、この世界では剣すら握れない。


 最低でも、この一週間でもっと強くならなきゃいけない。

 幸い、俺にはこれが見えている。


 なぜ、カイル・ファフニールがこんな不自由な体なのか。


──────

【身体状況】

 深影病:進行状態 30/100

 ノクス・レイ(深影の精霊龍)により、徐々に死に至る呪い

 最終的に、破滅をもたらすノクス・レイに至る。

──────


 カイルはこの病に侵され、悪龍に変貌する。

 しかし、その変化は中途半端な龍で、一番最初に死ぬ『ノクス・レイ(深影の精霊龍)』事件の犠牲者なのだ。


 主人公たちはここから、世界を滅ぼす『ノクス・レイ』討伐までの大きなストーリーに挑む……が、俺は死にたくない。


 龍になるなんてもってのほかだ。


──────

【デメリット】

 手足の不自由、および魔法回路障害


【注意】

 魔法を正しく使えません

 剣を握れません


【メリット】

 深影の精霊龍の力を引き出せます


──────


「どちらを選ぶにしろ……まずは、この足か」

「カイル様?」


 ウルルが眉を潜める。


「ウルル、俺に剣を教えてくれないか」


 自分でも驚くほど、なぜかワクワクしていた。



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