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9話:運命の夜会(後編)

広間の重厚な扉が開くと同時に、鎧の音を響かせて衛兵がなだれ込んできた。


「ハハハ! 往生際の悪いアイリスを捕らえよ!そして この女を地下牢へ叩き込め!」


エドワード殿下が勝ち誇った顔で私を指差す。

だが、剣を抜き放った兵士たちは、私の周囲を取り囲んだものの、そこから一歩も動こうとはしなかった。


「……どうした、さっさと捕らえぬか! 私の命が聞けぬというのか!」


王子の苛立った声が響く。だが、兵士たちは冷徹な仮面の裏で、私の顔色を窺っていた。

私は扇子を閉じ、静かに笑みを浮かべた。


「無駄ですわ、殿下。……彼らは、もう一ヶ月も前からまともな給与を受け取っておりません。それどころか、彼らの故郷の家族を支えているのは、公爵家が裏で融通している食料と生活資金ですのよ? 彼らが従うのは、空虚な王家の命ではなく、『生活を保障する者』の言葉ですわ」


「なっ……貴様、何を勝手なことを!」


私は答えず、ただ高く、澄んだ音で指を鳴らした。

パチン、というその音を合図に、兵士たちは二手に分かれて道を作った。

その中央を、隣国皇太子の正装に身を包んだカイルが、静かな足取りで歩いてくる。


「なっ……隣国の皇太子!? なぜここに!」


「私は、アイリス嬢から『正当な債権』を譲り受けた者として参った。……エドワード殿下。あなたがリルム嬢のために浪費した資金、および王宮の維持費。それらはすべて公爵家からの『寄託金』であり、婚約が解消された今、全額の即時返還義務が生じます」


カイルが提示したのは、エドワードが「アイリスの貢ぎ物」だと思い込んでサインした、あの書類だ。


「この城、あなたが今着ている服、そしてリルム嬢の宝石。すべては返済の担保として、すでにアイリス嬢を通じて我が国への差し押さえ対象となっています。……この会場の蝋燭一本まで、もうあなたの物ではない」


「嘘だ! アイリスは『返せと言わない』と約束したはずだ!」


叫ぶエドワードに、私は冷徹に告げた。


「ええ。私は一度も、返せとは申しておりませんわ。……ただ、私の『債権者としての権利』を、カイル様に正当な価格で売却しただけです。彼がどう取り立てるかは、彼の自由。……商人との契約を甘く見たのは、殿下、あなた自身ですわ」


病床から這い出してきた国王と王妃が、その場で崩れ落ちた。王家に残されたのは、積み上がった借状と、誰もいなくなった金庫だけだった。

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