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8話:運命の夜会(前編)

卒業パーティー当日。大広間は、かつてないほどの熱気に包まれていた。

天井のシャンデリアは、カイルが市場価格を操作して「王家にだけ高値で売りつけた」最高級の鯨油で、皮肉なほど明るく燃え盛っている。

私は公爵令嬢としての矜持を崩さず、背筋を伸ばして会場の中央へと歩みを進めた。

その瞬間、音楽が止まり、エドワード殿下がリルムを伴って壇上に現れた。


「アイリス・フォン・ベルシュタイン! 貴様を不敬罪、ならびにリルム嬢への執拗な嫌がらせの罪で捕らえ、今この場をもって婚約を破棄する!」


エドワード殿下の高らかな宣言が、広間に響き渡った。

彼の隣で、リルムは勝ち誇ったように私を見下ろしている。彼女が纏っているのは、公爵家の資産を横流しして誂えさせた、身の丈に合わないほど豪華な刺繍のドレスだ。


「……婚約破棄、ですか。殿下」


私の静かな問いかけに対し、会場の一部からは無責任な歓声が上がった。

事情を知らない下級貴族や、王子の権勢を盲信する若い令嬢たちは、「真実の愛が勝ったのね!」「高慢な公爵令嬢もついに年貢の納め時だわ」と、扇子の陰でくすくすと笑い合っている。

だが、それとは対照的に、会場の「重鎮」たちは異様なほど静まり返っていた。

以前、私の呼び出しに応じ、密かに救済の手を握り合った実務派の貴族たち。

彼らは真っ青な顔で、震える手でグラスを握り締めていた。

彼らは知っているのだ。アイリス・フォン・ベルシュタインがこうして泰然と微笑んでいる時、それはすでに「詰み」の合図であることを。


〈……笑うなら今のうちですわ、皆様。この後、皆様が『真実の愛』と呼んだものの対価が、どれほど高くつくかを知ることになるのですから〉


私はエドワード殿下の罵声を、まるで無能な部下の進言を聞き流すかのような、冷ややかな視線で受け流した。


「殿下、一点だけ。その『婚約破棄』というお言葉……。一方的な契約解除として、受理してもよろしいのですわね?」


「ふん、往念の悪い! 貴様のような醜い女に、もう一分たりとも婚約者の座は与えん。今すぐここから去るがいい!」


エドワードは私の問いの「法的重み」に気づくこともなく、傲慢に言い放った。

私は優雅に、深くカーテシーを披露した。


「承知いたしました。では、これより『清算』を開始いたしますわ」


私のその一言を合図に、広間の重厚な扉が、地響きを立てて開け放たれた。

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