6話:国王の焦燥と静かな離反
卒業パーティーまであと一週間。王城の空気が目に見えて冷え込み始めた。
廊下のランプの油は質が悪く煤け、給仕されるワインは安物に変わっている。異変を感じ取った国王が、ついにエドワードを執務室へ呼び出した。
「エドワード、城内の物資が滞っていると報告がある。商人たちが現金を要求して納品を拒んでいるというではないか。公爵家からの資金はどうなっている!」
病に伏せがちな国王の叱咤に、エドワードは余裕の笑みを浮かべて答えた。
「父上、ご心配なく。アイリスはすでに、私の自由にしていいという書類にサインしております。商人が騒いでいるのは、単なる一時的な手続きの遅れ。あるいは、アイリスが私を困らせようとして小細工をしているだけでしょう」
「だが、現に城の食卓から肉が消えているのだぞ!」
「ふん、女の浅知恵ですよ。パーティーで彼女を断罪し、公爵家の資産を王家の直轄にしてしまえば済む話です。アイリスは口では強気でも、最後には私に縋り付いて金を出す……。今までもそうだったではありませんか。すべては順調ですよ」
エドワードがそう豪語して執務室を出た後、国王は側近の財務官を振り返った。だが、そこにいたはずの忠実な財務官は、すでに「病欠」を理由に姿を消していた。
城内の有能な官僚や貴族たちは、すでにアイリスの手引きにより、自らの私産と家族を安全な場所へ移し終えていたのだ。
王家に残っているのは、現状を理解できない無能な側近と、虚飾に溺れる王族だけ。
その時、王家が発行した手形は市場で「紙屑」同然の扱いを受け、すべてがカイルの手元に集約されていた。




