表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力最底辺の俺が、魔法学園で”戦わない“戦術担当になるまで ― 解析スキルしかない俺が、最前線を支配するまで ―  作者: 天城 ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/34

第34話「正しさの重さ」

 侵攻から三日。


 街は、表面上の落ち着きを取り戻していた。


 壊れた柵は修復され、

 避難民の一部は元の村へ戻り始めている。


 だが、失われた二人の名前は、

 詰所の壁に小さく刻まれたままだ。


 俺は、その前に立っていた。


「……見に来ると思った」


 背後から、セリアの声。


「忘れないためだ」


「忘れないために、見るの?」


「そうだ」


 目を逸らさない。

 これが、判断の重さだ。


 セリアは、壁の名前を見つめたまま言う。


「ねえ」


「何だ」


「もし、あなたが全部決めていたら」

「もっと助けられたと思う?」


 問いは、静かだった。

 だが、逃げ場はない。


 俺は、少し考える。


「分からない」


 正直な答え。


「もしかしたら、もう一人は助かったかもしれない」

「逆に、もっと落ちていたかもしれない」


「……曖昧ね」


「現実は、曖昧だ」


 セリアは、小さく息を吐く。


「でも、あの瞬間」

「あなたが決めたから、動けた」


「それも事実だ」


「だったら」


 彼女が振り向く。


「あなたが全部決める方が、効率はいい」


 ヴァルターと同じ言葉だ。


 俺は、静かに首を振る。


「短期的には、そうだ」


「長期的には?」


「壊れる」


 はっきり言う。


「俺が判断する構造は」

「俺がいなくなった瞬間に、止まる」


 セリアは、黙る。


「昨夜、俺が決めたのは」

「設計が機能しなかったからだ」


「例外ね」


「ああ」


「でも、例外って」

「必ず起きるわよ」


 正しい。


「だから、例外を前提にした設計に変える」


 彼女が、目を細める。


「どうやって?」


「判断者を、複数にする」

「全体を把握できる人間を、増やす」


「全員が指揮官になる?」


「違う」


 首を振る。


「全員が“考えられる”状態にする」


 沈黙。


 やがて、セリアが小さく笑う。


「結局、あなたはそこに戻るのね」


「そこしかない」


 俺は、壁の名前をもう一度見る。


「俺が全部背負えば、楽だ」

「責任の所在も、はっきりする」


「でも?」


「それは、俺の正しさを押し付けることになる」


 声が、わずかに低くなる。


「正しいかどうか分からない判断を」

「一人の視界で決め続けるのは、危険だ」


 セリアは、しばらく考え込んだ。


「……私は」

「あなたが決めてくれた方が、安心する」


 正直な言葉だった。


「でも、それは依存だってことも分かる」


「そうだ」


 否定しない。


「俺も、怖い」


「怖い?」


「昨夜みたいな状況で」

「また迷わず決められるか」


 初めて、口にした本音だった。


「決められなかったら?」


「その時は、壊れる」


 だからこそ。


「壊れない形にする」


 セリアは、ゆっくり頷いた。


「……分かった」


「何が」


「あなたが、英雄にならない理由」


 少し、苦笑する。


「なれない、が正しい」


「いいえ」


 彼女は、首を振る。


「なろうとしない」


 その言葉は、思ったよりも重かった。


 夕方、ヴァルターが詰所に戻ってきた。


「街は持ち直した」


「はい」


「次の侵攻もある」


 当然だ。


「例外は、また来る」


 俺は、頷く。


「その時も、判断するのか?」


 問い。


 少しだけ、間を置いて答える。


「必要なら」


「必要でなければ?」


「させる」


 ヴァルターの目が、わずかに鋭くなる。


「誰に?」


「現場に」


 沈黙。


 やがて、彼は小さく笑った。


「……面倒な設計だ」


「承知しています」


「だが」


 彼は、窓の外を見た。


「昨夜のような例外を、減らせるなら」

「試す価値はある」


 それは、承認ではない。

 だが、否定でもない。


 夜が来る。


 街は、静かだ。


 壁に刻まれた二つの名前は、消えない。


 それでも。


 俺がやるべきことは、明確になった。


 正しさは、重い。


 だが、その重さを、

 一人で抱える必要はない。


 戦えない戦術担当が選んだのは、

 勝ち続ける道じゃない。


 迷いながらでも、考え続けられる構造を残す道だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ