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「蓮くん、深海凪さんって友達?」
私は蓮くんと2人になると直ぐに凪先輩のことを聞き始めた。
「そうだよ、同じ学部。」
「仲良いの?」
「まぁ…それなりに話すかなって感じ。」
私はもっと凪先輩について聞きたかったけど、蓮くんは「ほら、あっちのテラス席空いてるよ」と、私の視線を凪先輩が去った方角から強引に逸らさせた。
「ひまりの入学祝い、何が食べたい? 今日は俺の奢り。…凪のこと、そんなに気になる??酷いなぁ、俺と一緒にいるのに」
蓮くんのいつもの完璧な王子様の笑顔。でも、その笑顔の奥で蓮くんが何を思っているのか、今の私には凪先輩の瞳と同じくらい、読み解くことができなかった。
「……うん、そうだね。ごめん」
私は慌てて視線を足元に落とした。蓮くんは満足そうに目を細めると、私の手を引いて歩き出す。その手は大きくて温かい。ずっと知っている、安心するはずの体温。
それなのに、私の頭の片隅には、まだあの碧い瞳がこびりついて離れなかった。
深くて深くて、一度嵌ったら抜け出せないような瞳。
——凪。深海、凪。
心の中でその名前をなぞるだけで、鼓動が速くなる。
瞳も、切れ長の目が特徴的な涼やかな顔立ちも、低くて優しい声も、思い出すだけで頬が赤くなる。
「あ、ひまり。ケーキはあそこの限定のやつにしようか」
蓮くんの楽しげな声に、私は「楽しみだね」と精一杯の笑顔を返す。
蓮くんは私の手をさらに強く握って私の手を引いた。握られた手のひらから伝わる熱が、今の私には少しだけ重く感じられていた。
私が知りたいのは、甘いケーキの味でも、蓮くんの優しい言葉でもない。
あの光の届かない海の底で、先輩が一体何を見つめているのか。それだけだった。




