2−3
胸の奥が、熱い。
初めて名前を呼ばれたこと、図書館の奥で陽の光が当たりながら本を読む凪先輩の姿…
脳裏に焼き付いてる。
嘘をついてまで、来てよかった。
そんな幸福感に浸りながら、人気のない旧館の廊下を足早に歩いていた、その時だった。
「ずいぶんと楽しそうな顔してんじゃん、ひまりちゃん?」
階段の踊り場、手すりに背を預けていた人影が、私の行く手を塞ぐように動いた。
「……朝霧くん」
そこにいたのは、一年の朝霧結弦だった。
昨日会ったときと全く同じ場所。
「結弦で良いよ。2限が終わってから姿を消したと思ったら、図書館にいたんだ? 今日ランチ誘おうかなとおもってたのに」
凪先輩や蓮くんとは違う、綺麗な顔で笑いながらそういう彼に、好きとは違うが少しどきっとした。
「図書館で勉強? 勉強だけにしては、凄く楽しそうに見えるけど」
結弦くんが意地の悪い笑みを浮かべて、一歩、私に近づいてくる。
逃げようとした私を壁に手をついて逃さないようにする。
幼なじみ2人で美男子耐性はできていたはずだけど、さすがにこの美男子に、少女漫画展開をされると私も少し頬を赤らめた。
「……別に、誰とも。一人で勉強してただけだよ」
咄嗟に横を向きながら私がそう答えると、結弦くんは「ふーん」といい視線が、私が今出てきたばかりの図書室の扉へと向けられる。
すぐに私へと視線を戻し、ぱっと壁から離れる。
私は一度深呼吸をして、凪先輩と別れてからの胸の鼓動を落ち着かせようとした。
私が落ち着く間もなく、結弦くんはすぐに話しかけてきた。
「俺ひまりちゃんと仲良くなりたいな」
「え?」
私の驚く声に、結弦くんは面白そうに目を細めながら耳元まで顔を近づけ、「なんか気になるんだよね」と囁く。
くすぐったいような、恥ずかしいような、何とも言えない感情で私は耳まで真っ赤になっていた。
結弦くんは「少しからかいすぎたかなぁ」と笑いながら私から離れた。
「もう何よ」
私が怒った顔をすると、「ごめんごめん」と悪びれなく言う結弦くん。そういうとスマホを取り出し、何かを確認する。
「ひまりちゃん、15時から1年全体の集まりあるから行こうか」
凪先輩との図書館での待ち合わせですっかりわすれていた。時計は14時45分を示していた。
「時間、結構ギリギリじゃない?」
ここは旧館なので、本館のさらに先の講堂まではかなり距離があった。私は少し焦っているが、結弦くんは
「まぁ大丈夫でしょ」と余裕の返答をした。
結弦くんは特に急ぐ気もなく歩き始める。
私は結弦くんの後をついていくように講堂へ向かった。
「旧館って結構広いよね、あと出口が少ない」
と結弦くんは話すも迷う様子なく進んでいく。
5分ほど歩いて、ようやく旧館を出た矢先、 そこに立っていたのは、肩で息をし、冷や汗を流しながら私を見つめる——蓮くんだった。




