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短編・随筆集

通勤地獄考

作者: 流山治満
掲載日:2025/11/01

 アメリカが人種のるつぼなら、満員電車は悪意のるつぼである。


 私は日々、貴重な人生の時間を低賃金でこき使われるために、

 現代の奴隷船こと満員電車に揺さぶられている。


 仕事は嫌だ。

 微塵も楽しくないし、真面目な人間が損をするばかりである。

 別に結婚などに興味はない。

 結婚したところで労働から逃れることはできないからだ。

 ましてや子どもなどもってのほかだ。

 本当に愛があるなら、

 こんな苦しみに満ちた世の中に産み落とすことなど、

 絶対にしてはいけない。


 酒もたばこも女遊びも興味がない。

 高い車に乗りたいわけでもない。

 ただ本でも読んだり真理について思惟できれば良い。


 だから生活費はそこまでかからないので、

 働く理由は世間一般並みにはないのだ。

 生活保護の人間がすこぶる羨ましい。


 なぜ私がここまで辛い思いをしなければならないのか。

 苦しみと怒りのあまりこんな随筆を書いてしまう始末である。


 そんな憎むべき労働の苦痛の大きな一端を担っているのが、

 この満員電車だ。

 元来男という生き物はパーソナルスペースが広く、

 あまり他人と近づきたがらないという。

 私もその例に漏れず、トイレで言えば、

 隣の小便器を他人が使っているだけで気が散るレベルだ。

 そんな私がぎゅうぎゅう詰めの満員電車で不快感を覚えないはずがない。


 だがそれは些細な問題だ。

 私が本当に不快感を覚えるのは、人間の、

 あるいは東京人の冷たさにである。


 いつも疑問に思うのだが、

 なぜ人々は悪びれもせずにタックルをして人を押しのけながら乗車してくるのだろう。


 遅れることのできない行きの電車であれば、

 100歩譲って理解できなくもないが、

 帰りの電車でそれをするのが甚だ理解に苦しむ。

 せめて「すみません」の一言でもあればまだ良いが、

 たいていは何も言わずに無理矢理に人を押しのけて入り込んでくる。


 なぜ1本待たないのか。

 なぜそんな身勝手な人のために苦しい思いをしなければならないのか。


 私は決して無理に乗り込むことはなく、1本待つ。

 これが日本人として当たり前の思いやりの精神ではないのか。

 彼らははたして本当に日本人なのだろうか。


 よくアナウンスで「中の方にお詰めください」とあるが、

 まったく理解できないし協力する気もない。

 時間に余裕を持って先に乗っていたのは私の方なのだ。

 ギリギリの電車に乗ってくる無計画で無礼な人間に譲って、

 窮屈な思いをしなければならない理由がどこにあるのか。

 もっと言えば、それだけのキャパを作らない運行会社の怠慢を客に押し付ける行為でもある。


 要するにこれもまた「真面目な人間が損をする」の一例という見方さえできるのだ。

 せこいことを言うな、譲るのが日本人だろうと反論する方もおられるかもしれない。

 だが、それこそが言ったもの勝ちの風潮を作る一端なのだ。

 いわゆる「大人の対応」とはただ単に臭い物に蓋をするだけである。

 何も根本的な解決策になっていないということを、

 重々理解したうえで再考してほしい。


 先日、とある動画投稿サイトで動画を見た。

 道路を横断するゾウの群れを撮影したものだったが、

 その群れが横断するのに30秒ほどかかった。

 横断の終わり際に、最後尾にいた群れのリーダー格と思われるゾウが、

 車内の撮影者に向きなおり、

 お礼の意思を示すように鼻を高く掲げたものだった。


 ゾウでさえ、

(※私は自然を愛する者なので、

 基本的に動物たちは人間よりも純粋で美しく尊いものだと

 思っているのであしからず)

 礼をわきまえているというのに、

 同じ状況でお礼を言う人間がどの程度いるのだろうか。


 電車内の話に敷衍してみても、

 やはり人間が醜く見えてしまう。

 近年はテレワークの浸透により、

 多少は混雑が緩和されているかもしれない。

 だがそれでも地獄であることには変わりがないのだ。


 運良く座席に座ることができても何も安心はできない。

 むしろこのときにこそ私は東京人の冷たさを強く感じる。


 サラリーマンは常に疲れている。

 日本人の平均の睡眠時間は世界各国の平均よりも低いという。

 そんなサラリーマンたちが座ることができようものなら、

 薬を飲んだごとく睡魔に襲われるのは必然だ。


 体幹を鍛えているため普段はそうなることはほとんどないのだが、

 疲労が著しいときにはどうしても、

 体の制御を失って徐々に傾いてしまうことがある。

 当然、私はそうならないように努力するし、

 気付いたときにはすぐに姿勢を正す。


 が、そこで冷たき東京人は牙を剥くのだ。


 ……そう、押し返してくるのである。


 無論、大幅に寄りかかるようになってしまったときには、

 そうするのが自然なことだろう。

 だが、冷血の東京人はわずかに触れただけで押し返してくる輩が一定数いるのだ。


 ひどいときには、電車の発着の際の揺れで触れただけで発狂してくる者さえいる。

 彼らは慣性の法則というものを知らぬ土人と見える。


 私は程度こそあれ多少であれば寄りかかられても、

 押し返すようなことはしない。

 ああ、疲れているんだなと思うくらいが普通の人間ではないのか。


 東京人には人情などないことを顕著に示している。

 そんなにコンクリートジャングルが好きならコンクリ詰めにでもされればよい。


 また、私自身の体験ではなく、

 目の前で見た光景だがこんな出来事もあった。


 1人の50代くらいの男性が疲労に負けてウトウトし、

 隣の学生に寄りかかっていた。

 学生は特に気にする様子もなくスマホいじりに熱中している。

 顔からして誠実で優しそうな人間であった。

 ちょっとのことで押し返す冷血人ども特有の、

 何を楽しみに生きているかわからない渋柿のような顔つきとは違う。


 が、電車が都心に近づくにつれて、

 学生もまた睡魔の前にひれ伏した。

 器用にも前に掲げたリュックの上にスマホを握った手を落としたまま揺られ始めた。

 そうして、姿勢か崩れていくと、

 隣の同じくウトウトしていた男性の方に寄り始めた。

 やがて男性は睡魔から解放され、

 意識を取り戻した。

 得てして人は突然目覚めるものである。

 覚醒すると今度は、

 自分が学生に寄りかかられていることに気付く。


 するとそれをさも迷惑そうに押し返したのである。

 自分が同じことをしていたのにも関わらず、だ。


 悟空もびっくりの身勝手の極意だ。

 私はすべての自己中心的な人間が憎い。無論悟空も憎い。


 この他にも割り込み、電車内での過度な音漏れ、

 あるいはイヤホンなしで直接音声を垂れ流すキ〇ガイなど、

 不快な例はいくらでもある。


 こんな愚物どもが跋扈しているから世の中は悪くなる一方なのだ。

 彼らは人間ではない。

 理性のない畜生である。


 子どもに胸を張って夢を語ることのできない大人は害悪だ。

 そんな礼節のかけらの無い人間がどうして胸を張ることができよう。

 すべて死滅すればいいと思う。



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