第6話「初陣!メスガキ悪魔っ子 ルッコとの模擬戦」
第6話「初陣!メスガキ悪魔っ子 ルッコとの模擬戦」
攻撃特化 vs 機動特化!ロマンの激突
「ハッ、雑魚のくせにいい度胸ね!私の【クリムゾンヘイト】の踏み台になりなさい!」
ルッコの赤い髪が夕陽に映え、悪魔族の尖った耳がピンと立つ。彼女の唇に浮かぶのは、余裕たっぷりの挑発的な笑み。
【クリムゾンヘイト】は漆黒のボディに血のような紅黒い魔力光が脈打ち、防御を捨てた一撃必殺型。スキルは【超剛力】【犠牲】(耐久を消費して攻撃力強化)、そして相手のスキルを封じる【契約】、さらには耐久減少時に発動する【破滅】(相手の耐久を削る)。
その禍々しい姿に、演習場の空気が凍る。
「【クリムゾンヘイト】、【契約】発動!」
ルッコの命令で、【クリムゾンヘイト】の両翼から闇色の魔力が【アブソルトレイル】へ襲いかかる。
【契約】はランダムに1つの魔術刻印を封じるスキル。タクトは心の中で祈る——「頼む、【爆風】だけは無事でいてくれ!」
プツン!
【アブソルトレイル】の魔力光が一つ消失する。
「やったわ!封じたのは【熱閃】!地味な攻撃スキルだけど、まあいいわ!これでアンタの火力は半減ね!」
ルッコの嘲笑が響く。彼女のゴーレムが巨大な鎌を振り上げる。刃に宿る紅黒い魔力は、リングを抉る絶大な破壊力を予感させる。
「遠距離火力を封じられたか……だが、プラン通りだ!」
タクトは舌打ちしたい気持ちを抑え、闘志を燃やす。
「【爆風】ブースト!【光塵】発動!」
ドォン!
【アブソルトレイル】の背と両脚から爆風が轟き、白銀の機体が流星のようにリングを疾走!肩部から放たれる【光塵】の粒子が逆噴射し、機体を地面に押し付け、ブレを完璧に制御する。
「何!?そのバカみたいな機動力は!?」
ルッコの目が驚愕に見開かれる。【アブソルトレイル】は摩擦を無視したかのように縦横無尽に滑走し、ルッコの攻撃の死角を突く。
「当たらなければどうということはない!ルッコ、俺のロマンは全てかわす!」
タクトの声に、まばらな観客席がどよめく。クローナは拳を握り、ローニャは眼鏡をクイッと上げてメモを取る。 ルッコが焦りを滲ませる。
「イライラするわ!【犠牲】発動!耐久なんかいらない!全てを破壊力に!」
【クリムゾンヘイト】の装甲が軋み、魔力光が一層禍々しく輝く。振り下ろされた鎌がリングを抉り、土煙が爆ぜるが、【アブソルトレイル】にはかすりもしない。
「隙あり!【追尾光弾】!」
タクトは低威力の【追尾光弾】を目眩ましに放ち、ルッコの視界を塞ぐ。光の弾丸が乱舞する中、【アブソルトレイル】が懐に滑り込む。
「何!?この光、くそっ、やめなさい!」
ルッコの叫びを無視し、タクトは【光剣】を連射! シュイン!シュイン! 光の刃が、防御を捨てた【クリムゾンヘイト】に浅い傷を刻む。ルッコが歯を食いしばる。
「チクチクと小賢しい!でも、そのバカバカ機動、読み切ったわ!」
【クリムゾンヘイト】が狂ったように鎌を振り回し、広範囲を薙ぎ払う。だが、その瞬間、機体の魔術刻印が禍々しく発光。【破滅】が発動し、【クリムゾンヘイト】のダメージが【アブソルトレイル】にフィードバックされる! ズズズ……! 何も当たっていないのに、【アブソルトレイル】の装甲が軋み、耐久が削れる。
「【犠牲】と【破滅】のコンボか!自滅覚悟のスーサイド戦術だ!」
戦闘を引き延ばせば、タクトの薄い装甲は持たない。
「やるしかない!一撃で決める!」
タクトは最後の命令を下す。
「【爆風】を側面に最大出力!機体を回転させ、遠心力で【光剣】を放て!」
【アブソルトレイル】が高速回転し、風と光の渦を生み出す。リングが震え、観客席が息を呑む。
「お前、自滅する気!?」
ルッコが叫び、【クリムゾンヘイト】が迎撃の鎌を振り上げるが、防御を捨てた機体では渦を捌ききれない。
ゴオォォ!
光と風の嵐が【クリムゾンヘイト】を飲み込み、漆黒の装甲を粉砕!だが、過度な負荷で【アブソルトレイル】も悲鳴を上げ、耐久がゼロに。
両機大破!
「ま、まさか引き分け!?」
ルッコが信じられないと顔を歪める。タクトは汗を拭い、リングに沈む【アブソルトレイル】を見やる。
「良い勝負だった、ルッコ。お前のコンボは強烈だ。だが、俺のロマンは一発も当たらなかったぜ!」
ルッコは歯を食いしばり、地団駄を踏む。だが、その瞳には悔しさだけでなく、別の光が宿っていた。 ルッコの心は、嵐のように揺れていた。
(悔しい……!)
【超剛力】と【犠牲】の一撃必殺が、あのスカスカな機体にかすりもしなかった。引き分けという不本意な結果に、悪魔族の尖った耳がピクピク震える。
(雑魚男子のくせに、なんであんな動きができるの!?「当たらなければどうということはない」なんて、馬鹿みたいに叫んで、恥ずかしい奴!)
なのに、心の奥で別の感情がくすぶる。
(凄い……)
タクトの【アブソルトレイル】の神速な残像、【爆風】を推進力に変える常軌を逸したカスタマイズ。それは、ゴレトルを誰よりも愛するルッコにとって、目を奪われるロマンだった。
彼女はクラスメイト達を「雑魚」と嘲り、女子たちの談義を避けてきた。でも、それはゴレトルへの愛が深すぎるが故。男子で唯一ゴーレムに本気のタクトは、ずっと気になっていた存在だった。
(本当は「そのカスタマイズ、術式制御はどうやってるの?」とか聞きたかったのに……!なんで「潰してあげる」なんて喧嘩売っちゃったの、私!)
タクトの「ロマンは証明された」と熱く叫ぶ姿に、ルッコの胸は悔しさと、ほのかな憧れで締め付けられる。
(あのバカ、もっと私とゴレトルの話ができるかもしれない……)
ルッコは赤くなった頬を隠し、タクトから目をそらす。
「……負けじゃないわよ!次は絶対潰すから覚悟しなさい!」
吐き捨てて踵を返すが、その瞬間——
ピュン!
【契約】の効果が切れたことで【アブソルトレイル】の槍杖から、制御を失った【熱閃】が暴発!ルッコの背後、フリル付きスカートの留め金を焼き切る。
ヒラリ。
紅いスカートが、戦闘の砂塵を巻き上げていたリングの地面に広がる。
「……え?」
ルッコは、スカートが無くなった腰元の異様な解放感に気づき、ハッと下を向いた。そこには、彼女の恥ずかしさに染まった真っ赤な顔に比べると実に仄かな、慎ましいピンク色のインナーが露出していた。
「ひっ……!?」
彼女の絶叫が演習場に響き渡る。タクトは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ご、ごめん!暴発だ!俺のロマンはそういうロマンじゃない!」
ルッコは腰元を隠し、耳の先まで真っ赤にしていた。
「た、タクトォォォ!!この変態ロマン男!次は絶対に、絶対に許さないわよォオオオ!!」
恥辱と怒りに震えながら退場するルッコ。その背中には、ゴレトルへの情熱とタクトへの新たな感情が交錯していた。
タクトの模擬戦は、たまたま見ていた観客達に大きな衝撃を与えた。そして、このバトルを見ていた一人の少女が、静かにタクトたちのチームに興味を示し始めたのだった。




