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第49話「王国の旗:ロマンの結実」


決勝の舞台:スティア連合国との激突


 午後。ゴレリンピックのアリーナには、昨日の激戦と今朝の皇女の衝撃的な声明を乗り越え、決勝戦を見届けようと集まった観客の熱気が満ちていた。


 ゴルディアス王国の控え席では、タクト、クローナ、ニクス、ローニャの四人が並んで立っていた。


「…ルッコ、ごめん。」


 タクトは、少し離れた場所で待機するルッコに向かって声をかけた。ルッコの【クリムゾンヘイト】は、ゾルディアーク帝国戦での損傷が甚大で、一夜の修理では決勝戦に耐えうる状態に戻すことができなかった。


「気にしないで、タクト。前の戦いで、私は全てを出したわ。今日はあなたたちのロマンの結末を見届けてあげる。」


ルッコの眼には、確かな信頼が宿っていた。


 スティア連合国チームも入場するも、彼らのチームには、エースたるゼノンとルナの姿は無かった。


 ゾルディアーク帝国戦での想定外の激しいダメージにより、二人のゴーレムの修理が間に合わなかったのだという。 


 ステージに立つのは、リリエット・シルヴァ、ボルグ・グラント、そして、ゼノンの妻、ミヤコとヒルダ、の四人だった。


 狐人族のミヤコと大鬼族のヒルダは、補欠として参加していたゼノンの妻たちだ。ローニャからの情報によると、二人とも強力なプレイヤーなのだという。


 森人族のリリエット・シルヴァは、翡翠の指輪を輝かせていた。【フォレスタルナ】は傷付いているようだが、ここで勝てばリリエットの次期首長の座が確定する。


「今度こそ勝つのじゃ!ワシが森人族の名誉と自由を掴むのじゃ!」


 隣に立つ豚鬼族のボルグ・グラントは、がっしりした体格で静かに構えていた。族長の息子として、許嫁候補であるリリエットのわがままに相変わらず振り回されているが、彼女の成長を信じていた。


「リリエット、お前の望みがこの大会での優勝なのなら、俺がお前を支えよう。」


 彼のゴーレム【オルクハンマー】は、ゾルディアーク帝国戦でのダメージにより、脚部に深刻な影響が出ているそうたまが、その闘志は全く衰えていない。


 ゴルディアス王国は、【アブソルトレイル】、【ゲイルハルト】、【アサルトフェリス】、【グラニテカノン】の四体で挑む。


ゴングが鳴り響き、決勝戦が開始された。


 リリエットの【フォレスタルナ】は素早く【樹精召喚】を発動し、戦場に光の蝶と花びらを舞わせた。ゴルディアス王国のゴーレムの移動速度が微減し、スティアのゴーレムの魔力回復速度が上昇する。


【フォレスタルナ】の狙いは、タクトの【アブソルトレイル】の機動力を削ぐことだ。


 ボルグの【オルクハンマー】は、【超剛力】を発動した大槌を構え、タクトたちに向かって地響きを立てて突進する。その様はまるで動く山脈のような様相だ。


 それを抑えるためにクローナが前に出るが、昨日のダメージが残り動きが鈍い。タクトの【アブソルトレイル】が【追尾光弾】で牽制をかけながら、クローナをサポートする。


 ニクスの【アサルトフェリス】がクローナの前に出て、ボルグの突進に対峙する。ニクスは『オルタヴァリス』で迎え撃つが、【オルクハンマー】の大槌で防がれてしまう。


 ミヤコのゴーレム【コン】が、【幻術】と【擬態】で【オルクハンマー】の周りに幻影とコピーを生み出し、ニクスの視界を塞ぐ。


 その隙に、ヒルダの【ギガオーガロン】が、凄まじい【超剛力】を纏った拳で【ゲイルハルト】に向かって突撃する。


 ヒルダの【ギガオーガロン】のパワーは圧倒的で、クローナは魔術発動する間もない。


「くっ…、避けろ!」


 タクトは叫ぶが、クローナのゴーレムの反応が間に合わない。


 その時、リリエットが勝負を決めようと大技を繰り出す。


「拘束するのじゃ!【蔦縛】!」


【フォレスタルナ】から、蔦が【アブソルトレイル】に向かって高速で射出される。タクトの動きを封じ、ボルグの【剛鎚撃】を叩き込ませる作戦だ。


 しかし、ローニャの【グラニテカノン】が間一髪で【蔦縛】の軌道に【石壁】割り込ませ、【蔦縛】を受け止めた。


「タクトさん!私の【グラニテカノン】が攻撃を防ぎます!その間に!」


 このローニャの献身が、タクトの疲弊しきった心に再び火をつけた。


(そうだ。ローニャの、みんなのロマンを、俺が終わらせるわけにはいかない!)


 タクトは、全身の疲労を無理やり魔力の力で抑え込み、【アブソルトレイル】をフル稼働させた。


「【爆塵輝流】!ブースト全力だ!!」


 タクトはボルグとヒルダに向かって突進し、その推進力で両機をステージの端へと押し出した。


 タクトの一撃で流れが変わった。


 リリエットは状況を打開しようと奥義【精霊ノ加護】を発動する。戦場に光の葉が舞い、味方の被ダメージを軽減し、タクトたちの魔力消費を増やす。


 しかし、ボルグの【オルクハンマー】は前の試合のダメージで速度が極端に落ちており、リリエットのサポートも虚しくタクトの【アブソルトレイル】の高速な連携に追いつけない。


 ニクスは【模倣】で【幻術】を再現し、ヒルダの【ギガオーガロン】の動きを封じる。クローナは体に鞭を打ちながら【紅月纏】を発動し、残るミヤコの【コン】の幻術を打ち破る。


 最終的に、スティア連合国の補欠メンバーは善戦したが、タクト、クローナ、ニクス、ローニャの四人が連携を取り、ボルグの【オルクハンマー】、ヒルダの【ギガオーガロン】、ミヤコの【コン】を次々に撃破する。


 リリエットの【フォレスタルナ】は最後までステージ中を逃げ回りながら抵抗したが、タクトの収束した【熱閃】が【精霊ノ加護】の結界を破り、ゴーレムを機能停止に追い込んだ。


ゴングが鳴り響く。


ゴルディアス王国の優勝が決定したのだ!


タクトは全身の力が抜けるのを感じながら、歓声の中で、誇らしげに勝利の旗を掲げた。彼のロマンの物語は、ついに頂点に達した。






 ゴレリンピックの決勝戦が行われていたのと時を同じくして、スティア連合国チームのエース、ゼノン・ゴブレイブは、聖都の喧騒から遠く離れたゴルド公国の公王宮を進んでいた。


 ルナを引き連れたゼノンは案内の者に通され、公王であるアウレリオ4世との対談に臨んでいた。


 アウレリオ公王は一昨日の屈辱的な敗北、そしてゾルディアーク帝国皇女ヴァイオレッタによる公開の場での糾弾により、顔色は土気色で憔悴しきっていた。


 ゼノンは豪華な玉座に座る公王を見上げ、静かに、しかし冷徹な声で切り出した。


「約束を、果たしてもらいに来た。」


 アウレリオは口元を引き攣らせ、部下に指示を送る。その表情は、深い苦渋を押し殺しているようだった。


 扉が開かれ部屋に入ってきたのは、ゴルド公国チームのメンバーだった竜人族のサフィラだ。しかし、彼女は普段の華美な衣装ではなく、首には黒曜石の首輪が嵌められ、鎖で引かれていた。サフィラの両目には、ゼノンと公王への恐怖と絶望が満ちていた。


 サフィラはゼノンの姿を認めると、全身を震わせ、怯えに満ちた悲鳴をあげた。昨日、タクトに敗北し、ゼノンによるトラウマが再発した彼女の心は既に限界だったのだ。


 ゼノンはその光景を無感情に見つめ、公王に向かって静かに宣言した。


「約束通り、サフィラを貰っていく。」


 サフィラは、自分の存在が知らぬところでとんでもない取り決めが成されていた事実に、余りのショックで顔を真っ青にした。


「いや…!嫌です!嫌だぁ!」


 彼女は鎖を引く公王の部下に抵抗し、アウレリオに助けを求めた。


「小僧!いえ、公王様!助けてください!私は公国の宝でしょう!どうか、どうか…!」


 竜人族のサフィラは、ゴルド公国が代々継承する最強の一族の一人だ。その竜人族を失うのは、ゴルド公国にとって凄まじい損失であり、軍事力と威信の崩壊を意味する。


 しかし、アウレリオは、苦渋に満ちた表情で、サフィラに対し絶対的な命令を下した。


「竜人族サフィラよ、いにしえの契約に基づき命令を下す。」


 公王の声は震えていたが、その言葉には抗うことができない魔術的な力が込められていた。


「…その所有権の全てを、ゼノン・ゴブレイブのものとする…。」


 この言葉を聞いたサフィラは余りのショックに目を見開き、体から力が抜け、その場に崩れ落ち気を失ってしまった。


 ゼノンは、無造作に倒れたサフィラの鎖を部下から受け取り、ルナに向かって頷いた。ルナは何も言わず、意識を失っているサフィラを抱えた。


 そのまま踵を返し、ゼノンが部屋の扉に手をかけたその時、アウレリオの震えた声が響いた。


「貴様…、無事に帰れると思っているのか?」


 部屋の四方から、多数の公王の部下と、彼らのゴーレムが一斉に姿を現し、ゼノンとルナを取り囲んだ。アウレリオは玉座から立ち上がり、その目に怒りと狂気を宿らせた。


「勝負だ、ゼノン・ゴブレイブ!お前とサフィラの所有権をかけてゴレトルだ!貴様はこの私の下で永遠に働くのだ!」


 ゼノンは薄い笑みを浮かべ、この茶番に付き合う姿勢を見せた。


「良いだろう。俺が勝ったら、そうだな…。ゴルディアス王国との国境沿いのダンジョンを一つ頂こうか。そちらは全てを失うが、俺は何も失わない。」


 アウレリオは既に理性を失っており、ゼノンの条件を受け入れた。


 ゼノンは金の指輪から、恐ろしい相貌のゴーレム【ギガントオニキス】を召喚し。その瞬間、【ギガントオニキス】から凄まじい魔力が解き放たれ、部屋の空気が一変する。


 勝負は一瞬だった。ゼノンは一切の手を抜かず、取り囲んだ部下たちのゴーレムを、一撃で全て機能停止に追い込んだ。


 玉座の間には悠然と佇む【ギガントオニキス】と、床に転がる部下たちのゴーレムの残骸だけが残った。


「約束通り、サフィラとダンジョンを頂くぞ。」


 ゼノンは、ルナとルナが抱える気絶したサフィラを連れ、公王宮を後にした。


 アウレリオ公王は、全てを失った絶望に膝をつき、力なく床を叩いた。ゴルド公国はこのゴレリンピックの敗北と陰謀、そしてこの裏の契約の履行により、決定的な衰退の道を辿ることになった。

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