第43話「鬼ごっこと魔女の巣:ロマンと絶望の交錯」
爆塵輝流:タクトの新たなる閃光
ゴルディアスチームは二手に分かれ、国の運命を賭けた最終決戦に臨んでいた。
タクトとニクスは、高速で中央に位置する竜人族のゴーレム、【オーブシェイド】へ向かって、移動を開始した。
「さあ、本番だ!【爆塵輝流】!ブースト!」
タクトは【アブソルトレイル】の噴射口に刻印されている、新たな魔術刻印を発動させた。
【爆塵輝流】は、ルッコたちの父、アルヴィンからの助言を基に、ローニャとタクトが共同で完成させたオリジナル魔術だ。
以前の『【爆風】ブースト』は、荒れ狂う【爆風】の力を【光塵】の反動で無理やり制御する強引な手法であり、魔力の消費が激しく、操作にも多大な集中力を要した。
しかし【爆塵輝流】は、二つの魔術刻印を複雑に融合させ、一つの流体のような刻印として作り上げられている。魔力の流れが飛躍的に滑らかになり、燃費は比較にならないほど改善。高速機動中の小回りも、格段に向上した。
(ローニャには、感謝してもしきれないな。俺が寝てしまった後も、ずっと刻印の調整をしてくれていたしからね。この一戦の勝利を持って必ず、最大限の感謝を伝えなきゃ!)
タクトは心に誓い、【アブソルトレイル】の全ての力を引き出す。タクトの【爆塵輝流】を【模倣】したニクスの【アサルトフェリス】と共に、サフィラに向けて、ステージを漆黒と純白の閃光が駆け抜けた。
「ひぃぃ!…【龍鱗防護】!最大出力!」
サフィラは恐怖に顔を歪ませながらも、【オーブシェイド】に搭載された防御魔術を最大出力で展開させた。
凄まじい速度で接近した【アブソルトレイル】と【アサルトフェリス】は、間髪入れずに攻撃を仕掛ける**。【アブソルトレイル】の【光剣】と【アサルトフェリス】の『オルタヴァリス』が、同時に、【オーブシェイド】の周囲に展開された防御ビットに叩きつけられた。
ガギィィィン!!
鉱石を叩き割るような、甲高く嫌な音が、スタジアム全体に響き渡った。
タクトとニクスは愕然とした。それぞれの最速の一撃が、【オーブシェイド】のビット装甲に僅かな傷すらつけることなく、まるで、堅い岩にぶつかったかのように弾かれてしまったのだ。
目を固く閉ざしていたサフィラは、ゴーレムとの同調によって、自身に届くはずの衝撃が予想より遥かに小さいことを知り、恐る恐る、目を開けていた。
(((効いてない?)))
タクト、ニクス、そしてサフィラの三者の認識が奇妙に一致した瞬間。
サフィラの様子が一変した。
肩を震わせ、抑圧されていた感情が噴出する。
「…ふふ。ははは!ハァーッハッハッハッ!」
突然の高笑い。先ほどまでオドオドとしていた面影は消え、高慢な竜人族の誇りが蘇った。
「そうだ!お前たちのような矮小な存在から、この我が傷を負うことなどない!あの小僧がおかしかったのだ!」
サフィラは竜人族の持つ、生まれながらの強大な力と矜持を思い出した。ゴレリンピック1回戦でゼノンに手痛く敗北し、萎縮していた心が、タクトたちの攻撃を跳ね返したことで覚醒したのだ。
「小童ども、先ほどの礼だ、受け取れ!」
【オーブシェイド】から膨大な魔力が迸り、複数の魔術が同時に展開された。
「【宝晶弾】!並列多重発動!」
一斉に射出された数多の鉱石の礫が、タクトたちに向けて、まるで、嵐のように降り注ぐ!
ズガガガガガガガ!
タクトは【爆塵輝流】の高い操作性をフルに活かし、ニクスと連携しながら弾幕の間隙を縫って、逃げ切る。
「おにごっこか!良いだろう!付き合ってやろ……、おにご…、鬼子…。」
サフィラが急に動きを止め、ブツブツと呟き始めた。ゼノンに敗北した記憶がフラッシュバックし、僅かな隙を晒す。
タクトはこの隙を逃さず、【収束】した【熱線】を【オーブシェイド】に放射した!
正面から熱線を受けてしまう【オーブシェイド】。
しかし、【黒碧玉曜】の遠距離魔術耐性が発動し、致命的なダメージは入らない。
「ふぅ…、いかぬいかぬ、取り乱していたようだな…。【黒碧玉曜】は正常に機能している…。恐れるものなど何もない…。」
サフィラが呟いた、次の瞬間。
ドンッ!
【オーブシェイド】を中心に魔力を伴った、尋常ならざる突風が吹き荒れる。
「【暴風】、操作開始…。」
荒れ狂う暴風を纏いながら、【オーブシェイド】は凄まじい速度でステージを駆け上がり、空中へと飛び立った。
竜人族の規格外の能力を誇示するように、タクトとニクス対サフィラの三次元での超高速戦闘が開始された。
一方、ルッコとクローナはステージの隅へと後退し、ミラリスの【イゴールクネア】と対峙していた。
【イゴールクネア】が仕掛ける【粘糸】のトラップが、ルッコとクローナの行く手を複雑に阻む。地面だけでなく、空中にも目に見えにくい糸が張り巡らされ、移動を制限していた。
埒が明かないと判断したクローナは、【紅月纏】を発動。【ゲイルハルト】に紅月のオーラを纏わせ、【剛力】と合わせて発動し、無理やり【粘糸】を焼き切り、突っ切りながら、前へ進み続ける。
その無様な突進に、ミラリスは猫背のまま、暗く粘着質な笑みを浮かべる。
(…短絡的。その程度の症状緩和では、私の糸の生成は止められない。このまま…無力化する…。)
ミラリスはこっそりと鋼の強度を持つ【斬糸】を生み出しながら、【千変操糸】でクローナの四肢への拘束を試みた。
「そんな事!やらせるわけ無いでしょ!」
クローナの後ろから、ルッコの【クリムゾンヘイト】が凄まじい勢いで現れた。【ゲイルハルト】の背中を踏み台にして跳躍し、【イゴールクネア】に向けて、文字通り飛びかかった。
すぐさまに反応したミラリスは、【千変繰糸】を総動員し、鋼の強度を持つ糸で【クリムゾンヘイト】の四肢を拘束しようと試みる。
しかし、それと同時にルッコが放った【黒血呪縛】により、【クリムゾンヘイト】と【イゴールクネア】は魔力で接続された。
【黒血呪縛】の魔術撹乱効果により、ミラリスは繊細な糸の操作が覚束なくなる。
「覚悟しなさい!」
ルッコが鎖を鳴らしながら肉薄する。
追い詰められたミラリスは、チラリとレオニス王子を見る。まだ、修復術式で回路接続を行っている最中だ。時間を稼ぐ必要がある。
ミラリスは奥の手として温存していた、試合開始からずっと生成を続けてきた濃厚な【毒弾】を【クリムゾンヘイト】に向けて射出した。
咄嗟にルッコは大鎌で弾くが、毒を受けた大鎌は見る見るうちに溶けて、崩れ落ちる。ルッコはこの毒の恐ろしさに一瞬、戦慄した。
怯むのも一瞬。ルッコは鎖を一気に手繰り寄せ、武器を失った【クリムゾンヘイト】で【イゴールクネア】に肉薄する。
「スーサイドコンボ発動!喰らいなさい!」
【超剛力】と【犠牲】を発動し破壊力を最大にし、大鎌を落とされて空になった巨大な右腕で、ルッコは【イゴールクネア】を渾身の力で殴りつけた。
咄嗟に【千変繰糸】で防御したミラリスだが、【クリムゾンヘイト】の途轍もない破壊力の前には、鋼の糸は紙くずのように敗れ去った。
武器ではなく、直接右腕で破壊力を介抱してしまった【クリムゾンヘイト】は、その腕も破壊の反動を受け大破してしまう。
【イゴールクネア】は、中枢付近まで届くような大ダメージを受けてしまう。ボディの一部が軋み、瀕死とも呼べるような損傷を受ける。
その時、ステージの向こう側で、レオニス王子の【マギウスカイザー】が最低限の魔力回路の修復を完了し、再起動した。
レオニス王子は激しい憤慨の表情で宣言する。
「ふん、まあこのくらい治ればいいだろう。貴様ら、よくもやってくれたな!」
レオニス王子は両腕の刻印【爆裂光弾】と【超光閃】を同時に、ルッコとクローナに向けて、解き放った!




