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第41話「最終決戦前夜:金色の野心と、砕かれたロマンの行方」


焦燥の公王:アウレリオの冷や汗


 ゴレリンピック、七日目。最終試合の当日の朝になっても、ゴルディアス王国チームが戦場への移動を開始しないことに、ゴルド公王アウレリオ四世は公王宮で焦燥を募らせていた。


「まだ動きはないのか!あの小僧どもめ、何を迷っている!戦時下の王家からの命令を無視するつもりか!」


 公王の背中には冷たい汗が流れる。ゾルディアーク帝国の軍隊を動かし、国際的な非難を招くという禁断の一手を打ったにもかかわらず、タクトたちがもし試合に現れたら、全ての策が水泡に帰す。


「だが、心配は無用…。例え奴らが出場してきたとしても、奴らのゴーレムや戦闘の全魔導記録はこの手にある。ゾルディアーク皇帝からゴーレムを借り受けることもできた。そして、大破していたあやつのゴーレムも、修復は完了している。」


 公王は自室の窓から遠く、未だ緊張が続くゴルディアス王国方面を見つめた。奴らも、国の様子も心配なはずだ。


 負けるはずはない…。公王アウレリオは自分に言い聞かせながらも、焦りを隠せなかった。





 タクトたちは、国の未来をミーサ先輩たちに託し、会場のステージへと向かっていた。


 今回の試合メンバーは、タクトの【アブソルトレイル】、クローナの【ゲイルハルト】、ニクスの【アサルトフェリス】、そしてルッコの【クリムゾンヘイト】である。


 ローニャの【グリニテカノン】は腹部のダメージが大会中での修復が難しく、今回の試合に間に合わないと判断された。ローニャは前夜、皆のゴーレムの武装を弄り倒し、最後の調整に全霊を注いだ。


 ローニャは、戦いに臨む皆にむけて、祈るような眼差しで言った。


「やれるだけの事はやりました!皆さん、どうか、無事で…そして、頑張って下さい!」


 タクトは力強く、仲間の想いを背負う覚悟を込めて答えた。


「やってやるさ!ローニャの想いも、ミーサ先輩たちの想いも、全てのロマンをぶつけるよ!」


 対する、ゴルド公国チーム。彼らはタクトたちを迎え撃つため、ステージ前に整列していた。


 若くして、ゴルド公国宮廷騎士に上り詰めた天才少女、トリス。中背で華奢な体に知性が宿る青灰色の瞳。レオニス王子を尊敬する彼女は、裏で行われている仄暗い取引きなど知らず、戦いの勝利を純粋に信じている。


 その隣に立つのは、猫背にボサボサの金髪、濃い隈が浮かぶ灰色の瞳の少女、「ミラリス・コルト」。ゴルド王族の末席、田舎の侯爵家の娘であり、超陰キャな才能の塊だ。


 中央には、チームのリーダーである公王の長男、レオニス・ゴルド。偉丈夫で、黄金の瞳に野心を宿す彼は、威圧感を放ちながら、傲然と立っている。


 そして、レオニスの傍らには、黒い髪と黒い鱗を持つ長い尾が特徴的な竜人族の幼い少女、サフィラ。小柄な体に不釣り合いな膨大な魔力を秘めた彼女は、ビクビクと怯えた様子だ。


 レオニスは、タクトたちに向かって、嫌味を混じえた簡単な挨拶をした。


「随分と遅いお出ましだ。流石に戦時下ともなれば、ゴルディアスの優秀なゴーレム使いたちも尻込みするようだ。」


ルッコが即座に言い返す。


「誰が尻込みなんか!あんた達なりのやり方に付き合ってやっただけよ!」


トリスが間髪入れずにルッコを咎める。


「殿下への無礼を許しません!これが、ゴルディアス王国の選手の態度ですか!」


 ミラリスは、猫背のまま、へりくだったような笑みをレオニスに向けるだけで、何も言わない。その目には濃い隈と疲労が滲んでいる。


 レオニスはサフィラへ視線を送り、「サフィラ、行くぞ!」と声をかけて、ステージの定位置へ下がった。


サフィラはビクビクしながらそれに応える。


「…はい…。」


サフィラの調子が上がらないことに苛ついているレオニスの様子を、タクトたちは見て取った。


「嫌な奴…。」 

とニクスが低く、呟いた。


クローナは元気に前を見据える。

「最後の試合!皆の想いを背負って、頑張ろうね!」


タクトはそれに勢いよく返事する。

「ああ!」


ゴレリンピック、新人枠リーグ、最終試合、開始!



戦場のティータイム:ミーサの決意

魔導通信を切り、ミーサは静かに息をついた。

(マリー王女の切実な要請を、私の言葉で断らせてしまった…。何という不敬か。)

タクトたちには勇壮に語ったが、戦場は怖くてたまらない。この世界に恒常的な戦争はない。極稀に、今回のようなルールの隙をついての戦いが起こるが、戦闘後には全ての国でゴレトルによる相互契約が結ばれ、同じ理由での戦争が起こらないようにされている。

ミーサはゴレトル学園に入学するにあたり、この国の為に戦う誓いを立てている。それは奨学金のためでもあるが、何より、彼女はこの国が好きなのだ。

ふと、背後から良い香りがしてきた。

ミーサの好きな紅茶の香りだ。別に高級品ではない、一般家庭で飲まれているようなものではあるが、彼女は幼少の頃からこの紅茶の香りが好きだった。この香りを感じると、今は亡き両親と共に、ティータイムに興じた、幼き日の日常が浮かんでくるようなのだ。

紅茶を淹れてくれていたのは勿論、セバスチャン。

「お嬢様、紅茶が入りました。最近オープンしたカフェのクッキーも用意がありますので、こちらにお座りください。」

優雅な出で立ちで着席を促す****セバスチャン。タクトたちへの気丈な態度とは一転し、ミーサはこの時だけは、一人の令嬢に戻る。

「ありがとう、セバスチャン」

紅茶に一口、口をつけた。安茶葉とは思えないような芳醇な香りと舌を転がるような滑らかな渋み。これは恐らく、この執事の紅茶を淹れる腕が途轍もなく高いのだろう。

ミーサは少し呆れながらも微笑んだ。

セバスチャンが静かに話し始めた。

「私はどんな事が有ろうとも、お嬢様についてまいります。どうか、お嬢様の自由なお心ままに。」

その言葉が、胸の奥にあった重しを取り払う。何だか少し気持ちが軽くなったような気がした。

「そうね…、いえ、その通りでしてよ!このミーサ!学園のゴレトルプレイヤーを率いて戦場に向かい!見事この国の誇りを示しますわよ!オーホッホッホ!」

ミーサはいつものように高らかに笑った。その高笑いは、恐怖を打ち消すための、彼女なりの儀式でもあった。

学徒兵の出陣:国を背負う者たち

紅茶を飲み終え、講堂に向かうと、そこには共に戦場へと向かってくれる生徒たちの姿があった。

ミーサは二年生だが、マリー王女とタクトを抜きにすると、そのゴレトルの腕前は学園一であり、今回の学徒兵の代表を務めていた。

一同の前に立ったミーサは、凛とした表情で演説を始めた。

「生徒の皆さま!今、私たちの国は大きな危機に瀕しています!不当な侵略に屈するわけにはいきません!この国の未来を守るため、私たちが最後の砦とならなければなりません!」

彼女の言葉は学徒兵たちの心に響き、皆の瞳に覚悟の光が灯る。

「私たちが戦線を維持している間、タクト殿下たちはゴレリンピックで国の運命を懸けた、最後の勝負に挑みます!私たちは、彼らの背中を守るために戦うのです!」

「全機、発進!ゴルディアス王国の誇りを示しましょう!」

ミーサの号令と共に、講堂に集まった学徒兵たちが操縦するゴーレムが、次々と、戦場へと向かって、出陣していくのだった。

最終決戦、開始

(—ゴレリンピック最終試合開始!—)

ゴルド公国の陰謀が進行し、国の最優秀なゴレトルプレイヤーが戦場へと駆り出される中、タクトたちはゴレリンピックの最終試合へと向かうのだった。



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