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第4話「図書館で出会った陰キャな少女、魔術刻印のプロフェッショナル」


最高のカスタマイズを求めて


 ロボ型ゴーレム【アブソルトレイル】を完成させたタクトは、胸に燃える情熱を抑えきれなかった。


 ピーキーな超高速機動戦を極めるには、実戦経験だけでは足りない。魔術刻印のシナジーや未知の強力な刻印の知識が必要だ。


「【爆風】の反動ブーストを、もっと安定して機動力に変換するには……」


 タクトは授業の合間を縫い、学園の大図書館に足を踏み入れた。古びた書棚が連なる空間は、魔力の匂いと紙の香りが混じる静かな聖域だ。


 この世界では、男がゴレトルに熱中するのは異端だ。ましてや、魔導工学書のコーナーで専門書を読み漁るタクトは、周囲の男子たちから「熱心なオタク男」と遠巻きに囁かれる存在だった。


 それでも、タクトは気にしない。ロマンは視線ごときで揺らがない。


 ある日、分厚い『スカイリー博士の魔術刻印応用辞典』を手に取ろうとしたタクトは、ふと隣で小さな声に気づく。


「うーん、届きませんねぇ……」


 目をやると、華奢な少女が背伸びして棚の上の古びた魔術書を必死に取ろうとしている。確かクラスメイトだ。


 土人族の特徴的な浅黒い肌と、控えめな体躯。一つにまとめた髪と分厚い眼鏡が、どこか陰気な雰囲気を漂わせる。彼女の小さな手は、目標の本にわずかに届かず、かすかに震えている。


「よう、俺、手伝おうか?」


 タクトが声をかけると、少女は「ひゃっ!」と小さく飛び上がり、恐る恐る振り返る。大きな瞳が眼鏡の奥で揺れ、緊張で声が震えた。


「ひゃ、ひゃい……で、でも、いいんですか?その、私……」


 タクトは笑顔で手を伸ばし、彼女が指差した革装の本を軽々と取り、手渡す。


「ほら、これだろ?気にしないで。俺はタクト、ゴレトルの知識を探しに来たんだ。」


 少女は本をギュッと抱きしめ、頬をほんのり赤らめながら呟く。


「あ、ありがとうございます……わ、私はローニャです。タクト、さん……」


  彼女の声はか細く、まるで図書館の静寂に溶け込むようだ。タクトは気さくに続ける。


「ローニャもゴレトルの本を探してるのか?」


その瞬間、ローニャの瞳がキラリと光った。


「はい!……わ、私、実家が魔術刻印師の家系で……魔法具の設計やゴーレムのカスタマイズ計算が好きなんです!」


 魔術刻印師の家系!タクトの心が一気に高鳴る。


「なんだって!?じゃあ、魔術刻印の組み合わせやコスト計算に詳しいのか!?」


「ひゃい!刻印には属性や系統の相性があって、それを計算するのが楽しくて……あ、ご、ごめんなさい!うるさかったですよね?」


 ローニャは慌てて口を押さえるが、趣味の話になると早口になり、陰気な雰囲気は消え、ゴレトル愛が溢れ出す。


「いや、最高だ!実は俺のゴーレム【アブソルトレイル】、【爆風】をブースト代わりに使うピーキーな設計なんだ。でも、反動で機体がブレちゃってさ……何かいい案ないか?」


 タクトが身を乗り出すと、ローニャの緊張がふっと解ける。彼女は眼鏡をクイッと上げ、真剣な目で答える。


「それなら、【爆風】の反動とは逆ベクトルの光魔法【光塵】を刻印するのはどうでしょう?【光塵】は光の粒子の奔流で視界を遮るスキルですが、機体を地面に押し付ける反動も生みます。【爆風】の推進力と打ち消し合えば、ブレを抑えつつ機動力を最大化できるかもしれません!」


タクトの頭に閃光が走る。


「なるほど!相反する反動を制御に使うなんて!ローニャ、めっちゃ頭いいな!」


 ローニャはタクトの賞賛に目を丸くし、頬を真っ赤にしてモジモジする。


「あ、そ、そんな……でも、タクトさんのカスタマイズ、すっごく面白いです!あの、もしよければ……私のゴーレムも見てもらえませんか?土人族型ゴーレム【グラニテカノン】っていうんです。」


 ローニャの【グラニテカノン】は、重厚な装甲と岩のような質感が特徴の砲台型ゴーレム。【砂塵】で身を隠し、【石弾】や【石砲】で遠距離から攻撃する安定したセッティングだ。


「タクトさんみたいな攻めっ気の機体もカッコいいけど、私は地道に相手の隙を突くのが好きで……」


 タクトは確信した。この少女は、ゴレトルの世界で最高の戦術アドバイザーだ。


「ローニャ、ありがとう!最高のヒントだ!君のゴーレムも凄く個性的で面白い。よかったら、これからも情報交換しよう!俺、初心者だから君の知識が頼りだ!」


 ローニャはタクトのまっすぐな瞳に照れながら、眼鏡の奥でキラキラと目を輝かせる。


「は、はい!喜んで!タクトさんのロマン、すっごくワクワクします!」


 ローニャの心は、まるで『勇者と魔王の冒険譚』のクライマックスシーンを読んでいる時のように高揚していた。


(タクトさん、ゴレトルにこんなに本気な男の子、初めて……!)


 これまで、彼女のゴレトル愛は家族以外に理解されず、女の子たちの華やかなゴレトル談義にも馴染めなかった。図書館の片隅で本を読み、ひとりで設計を計算するのが彼女の居場所だった。


 なのに、タクトは彼女の知識を「最高」と呼び、ゴーレムを「面白い」と言ってくれた。


(一緒にゴレトルの話ができるなんて……!タクトさんとだったら、もっとすごいカスタマイズ、考えられちゃいそうです!)


 ローニャの小さな胸は、ドキドキと期待でいっぱいだった。ゴレトルに熱中する男子と友達になれた喜びは、彼女の心を初めての光で照らした。眼鏡の奥の瞳は、静かな図書館の中で、星のように輝いていた。


 タクトのチームに、魔術刻印とカスタマイズの天才、ローニャが加わった。彼の最高のゴレトルライフが、さらなる加速を始めた!


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