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第31話「鬼子の戦略と、ルッコの臨界点」


第2回戦開始!貧乳悪魔の屈辱


 ゴレリンピック第2回戦。ゴルディアス王国のメンバーは、タクト、ニクス、ローニャ、そして前日の敗北に雪辱を誓うルッコの四人。クローナは、前戦でのダメージを考慮し、温存された。


 対するは、スティア連合国首長の娘にして森人族次期族長候補のリリエット、小鬼族の天才族長ゼノン、豚鬼族族長の息子ボルグ、そして夜鬼族のルナという異種族連合チームだ。


 リリエットは、背が低いため、タクトたちを見上げているにもかかわらず、腕を組んでまるで高台から見下ろすかのように威張った。


「なーはっはっは!ルッコとやらではないか!その貧弱な胸と同じで技も貧弱なのじゃ!わしらの勝利は確定なのじゃ!」


 その屈辱的な一言が、悪魔族の赤髪少女ルッコの怒りの導火線を焼き切った。彼女にとって、自身のゴレトルを侮辱されること、そして自身の体型を侮辱されることは、最大の禁句だった。


 ルッコの体が激しく震え、【クリムゾンヘイト】から禍々しい紅蓮のオーラが噴き出す。


「余計なお世話よ!あんただって大差ないじゃない!」


 ルッコの【クリムゾンヘイト】の魔力回路が、怒りの感情で暴走寸前となる。


 ゼノンは三本の角の下から、その光景を冷静に観察していた。



審判の合図とともに、試合開始!


 開始早々、ボルグの豚鬼族型ゴーレム【オルクハンマー】が、地響きを立てながら正面から突撃してくる。


 その背後を、【ギガントオニキス】と【ムーンヴェイル】が完璧にカバーしている。


タクトは即座に指示をとばした。


「ルッコ、正面はボルグの最も得意な領域だ、回避しろ!俺が【爆風】ブーストで!」


「うるっさいわよ、タクト!」


 ルッコの怒りの炎は、タクトの声を雑音として処理した。


「私のロマンを侮辱するやつは、全員ぶっ潰す!」


 ルッコは自らの耐久を犠牲にする悪魔族の覚悟を、【クリムゾンヘイト】に叩き込む。


「【超剛力】!【犠牲】!発動!」


 ルッコのスーサイドコンボが臨界点に達し、【クリムゾンヘイト】の大鎌に紅蓮の魔力が凝縮される。その攻撃力は、常識を逸脱したレベルにまで跳ね上がった。


 ボルグの【オルクハンマー】も【超剛力】を込めた大槌を正面から迎え撃つ。


ゴオオオオオオオン!!!


 大鎌と大槌が激突し、フィールドを揺るがす轟音とともに、紅蓮の魔力が衝撃波となって広がる。両者とも仰け反るが、ルッコの破壊力がボルグの突進力を僅かに上回った。


 ボルグの【オルクハンマー】は一歩後退しただけでなく、無骨な装甲にわずかな亀裂が入る。さらに、ルッコの【破滅】が発動し、ボルグの耐久力をで削り取る。


 だが、ルッコの強引な攻撃で、【クリムゾンヘイト】の体勢も大きく崩れていた。


 ゼノンは即座に【ギガントオニキス】を動かし、腕に持った長槍で突撃し、体制の崩れた【クリムゾンヘイト】を刈り取ろうと迫る。


 タクトは一瞬の躊躇もなく【爆風】ブーストを蒸し、超高速機動で【ギガントオニキス】に突撃。槍杖の先に【光剣】を展開し、ゼノンの懐に飛び込んだ。


【ギガントオニキス】は、僅かに身体を反らし、タクトの攻撃を紙一重でかわす。


タクトの注意がルッコに向けられる。


「ルッコ!冷静になれ!敵の連携に巻き込まれる!」


ルッコはハッと我に返り、涙ぐんだ表情で「ご、ごめん…タクト…!」と謝る。彼女の勝利への執念が、冷静さを奪ってしまったのだ。



 ルッコの感情の爆発という要素を一瞬で処理したゼノンは、リリエットに指示を出す。


「リリエット、戦場を支配しろ。その後、ボルグの【オルクハンマー】の亀裂を【森の息吹】で回復させる。」


リリエットの【フォレスタルナ】が、優雅に舞いながら二つの補助魔術を連鎖発動。


「命令するななのじゃ!【樹精召喚】と【花塵嵐】発動なのじゃ!」


 光の蝶や花びらの嵐がフィールド中央に渦巻き、【フォレスタルナ】の周囲には精霊の幻影が召喚される。タクトたちの視界と移動速度は乱され、相手チームの魔力回復速度が上昇し始めた。


 ボルグの【オルクハンマー】も、【森の息吹】によりスーサイドコンボで受けた亀裂を少しづつ修復していく。


 ローニャは即座に、【グラニテカノン】を操作し、魔力を込めた【砂塵】を花弁の嵐にぶつける。


 ニクスも、【アサルトフェリス】の【模倣】で【砂塵】の効果の一部をコピーし、ローニャの援護をする。


 しかし、夜鬼族のルナが、月光の魔力で構成された濃密な霧、【霧幻】を発動。砂と花弁の領域に加勢し、タクトチームの視界を完全に奪い去った。


「タクトさん!押し負けます!ゼノンたちの回復が、こちらの消耗を上回ります!」


ローニャが焦燥の声を上げる。



 視界不良となってしまったタクトは、ゴーレムとの同調率を上げて、ゴーレムのセンサーから視界情報を得ようとする。


 その時、霧と花吹雪が渦巻く中から、地響きとともに【オルクハンマー】が急に飛び込んできた。


「タクト!横!」


 ニクスが、【アサルトフェリス】を盾としてタクトの前に滑り込ませる。


 ボルグの【剛鎚撃】が、カバーに入ったニクスのハルバートを正面から叩き潰した。


キンッ、バキッ!


 ハルバートが砕け散り、【アサルトフェリス】の右腕の関節部も損傷した。ボルグは、リリエットの妨害とルナの霧に自身の存在を隠し、一撃離脱の精密な強襲を成功させたのだ。


 さらに、霧の背後から漆黒の【ムーンヴェイル】が音もなく現れる。


ルナの青白い瞳が、妖しく輝く。


「【影縫】」


 月光の魔力を帯びた鋭い影が、タクトの【アブソルトレイル】を地面に縫い付けるように襲いかかる。


タクトの【アブソルトレイル】は、影に捕らえられてその動きを拘束されてしまった。


「しまった!」


その危機を救ったのは、雪辱に燃えるルッコだった。


 ルッコは、【影縫】がタクト一人にしか効果がないことを見るや、【黒血呪縛】の魔術を【ムーンヴェイル】めがけて射出。闇の魔力が【ムーンヴェイル】に巻き付き、その行動を制限するとともに、ルナの魔術行使を乱す。


 そして、ルッコは【超剛力】を乗せた体当たりを敢行し、【ムーンヴェイル】を弾き飛ばした。さらに、【オルクハンマー】に迫り、顔面に痛烈な一撃を叩き込む。


【ムーンヴェイル】は霧の中へ引いていき、ボルグの【オルクハンマー】も無駄な戦闘を避けるため、一旦引いていく。


「ハァ…ハァ…助かった…」


 タクトが、安堵の息を吐く。ニクスも、砕けたハルバートの柄を握りしめ、ローニャとルッコの連携に感謝の視線を送る。



 タクトチームが一瞬の安堵に包まれたその時、真の脅威が迫る。


 霧の向こうから、ゆっくりと、しかし圧倒的な威圧感を放ちながら、何者かが歩み寄ってくる。


 地響きはなかった。あったのは絶対的な支配を予感させる、重く、冷たい空気だけだ。


そして、霧が少し晴れる。


 六本の腕に剣、槍、斧、鎖、弩弓、盾を持ち、恐ろしい面貌の鬼神型ゴーレム、【ギガントオニキス】が、漆黒の装甲を光に鈍く光らせながら、タクトたちの目の前に現れた。


ゼノンの冷徹な瞳が、タクトを捉える。


「ここで、終わるか?」


 小鬼族の鬼子による戦略と、六腕鬼神の圧倒的な暴力を前に、タクトチームは絶体絶命のピンチに立たされた。

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