第30話「鬼子の黎明:ゼノンの前日譚」
プロローグ
小鬼族の集落は、灰色の岩と枯れた木々が織りなす荒涼とした地にあった。
いにしえの時代、魔王の先兵として地を埋め尽くした小鬼族は、勇者と魔王の世界を覆う魔法の影響によって数を減らし、今ではわずかな部族が原始的な生活を強いられていた。
小鬼族は男しか産まれず、子孫を作るには他種族の女性が必要となるが、この世界でそれを調達する事は容易ではない。犬のような獣との生殖で血脈を繋ぐしかない惨状。食料は乏しく、衛生は悪く、未来は暗かった。
そこに生まれた少年、ゼノン。額と両側頭部に赤い角が三本、灰色の肌に筋肉が鎧のように盛り上がる。彼の瞳は、10歳とは思えない老練な光を宿していた。
小鬼族の「鬼子」——始祖たる鬼神の子——と呼ばれる天才は、1歳にして運命を変える決意を固めた。
「この惨状を終わらせる。俺が小鬼族の未来を切り開く。」
ゼノンは1歳の時、初めてのゴーレム【ゴブロード】を創り上げた。小鬼族の骨格を模した小型のゴーレムは、粗野だが機能的。【暗撃】で敵を仕留め、【罠作成】で狩場を仕切り、【高速】【静音】で素早く動く。
ゼノンはこれを手に、森へ飛び出した。そこで出会ったのが、狐人族の少女ミヤコ。純粋で元気な彼女は、狩りに失敗して泣いていた。
「お腹空いたっす…」と呟く彼女に、ゼノンは冷静に狩りの技術を教えた。【ゴブロード】の【罠作成】で獣を誘導し、【暗撃】で仕留める。ミヤコの瞳が輝く。「師匠、すげえっす!」
ゼノンは集落に戻り、仲間に狩りを指導。【ゴブロード】を複数作り、狩りの効率を飛躍的に上げた。食料が安定し、小鬼族の顔に希望が灯る。
ゼノンはさらに、残されていた遺跡を読み解き、農耕と畜産を導入。獣の糞を肥料に変え、簡素な水路を掘り、衛生環境を改善した。
集落に笑顔が戻り、ゼノンの名は「鬼子」として讃えられた。
3歳で成人したゼノンは、ミヤコを最初の妻に迎えた。彼女の元気な笑顔と「師匠、大好きっす!」という言葉が、ゼノンの心に小さな温もりを灯す。
ミヤコは3人の子を産んだ——全員、狐人族と小鬼族のハイブリッド。しなやかな身体能力と器用さを併せ持つ子たちは、ゼノンの改革の礎となった。
「俺の子供たちは、ただの小鬼族じゃない。この世界の未来そのものだ。」
ゼノンはそう呟き、集落の中心で新たな決意を宣言した。
「俺が族長となる。小鬼族を、誰にも馬鹿にされない存在にする。」
5歳で族長に就任したゼノンは、その名をゼノン・ゴブレイブと改め、【ゴブロード】を進化させた鬼人型ゴーレム【オーガロン】を創り上げた。
【超剛力】【撲撃】で敵を粉砕し、【高速】【頑強】【自動回復】で不屈の戦闘力を誇る。集落の守護者として、ゼノンの右腕となった。
その直後、大鬼族の女傑ヒルダが襲来した。姉御肌の彼女は、人食いの本能を満たすため集落を襲った。
「ゴレトルで勝ったら喰わせろ、負けたら好きにしろ!」と豪快に挑んできた。
ゼノンは【オーガロン】を操り、激戦の末ヒルダのゴーレムを粉砕。彼女は膝をつき、驚愕の表情で呟く。
「小鬼族のガキに…負けた…?」
ゼノンはヒルダを妻に迎えた。
「孕み袋にされる覚悟だった」と困惑するヒルダだが、ゼノンの知性と強さに惹かれる。「強い雄は嫌いじゃねえ」と笑い、彼女は男女の双子を産んだ。
ハイブリッドの子供たちは、力と知恵を兼ね備え、集落の戦力を強化した。
ゼノンは教育改革を推進。読み書きと戦術を教え、子供たちに未来を託した。貨幣経済を導入し、交易で資源を獲得。
スティア連合国の中央議会に参加したが、小鬼族は「下賤」と蔑まれた。ゼノンは冷静に立ち向かう。話術で相手を説得し、交渉で利益を引き出し、ゴレトルで実力を示した。
【オーガロン】の圧倒的な力で議会の強豪を倒し、小鬼族の地位を上げていった。
他種族の女性を金銭とゴレトルで確保する政策も開始。忌避されがちな行為だったが、ゼノンは「小鬼族の存続のため」と割り切った。集落に安定的な生活が訪れ、笑顔が増えた。
ゼノンはさらに観光地化を計画。鬼神の遺跡を活用し、他種族を引きつける文化を築いた。
8歳の時、ゼノンは究極のゴーレム【ギガントオニキス】を創り上げた。六本の腕に太刀、槍、斧、鎖、弩弓、盾を装備し、黒鉄と炎・雷の結晶で覆われた鬼神型ゴーレムだ。
その時、領土の隣り合っているエクサリス聖教国の聖騎士セレナが襲来。領土紛争を解決すべく、「小鬼族の全てと私の全て」を賭けたゴレトルを挑んできた。
不公平な条件だが、ゼノンは了承。【ギガントオニキス】の大太刀でセレナのゴーレムの両腕を切り飛ばし、鎖で動きを封じた。
「くっ!殺せ!」と叫ぶセレナを、ゼノンは3人目の妻に迎えた。当初、セレナは「小鬼族の妻など死に値する」と絶望したが、ゼノンの理知的な態度とミヤコ、ヒルダの温かさに心を動かされた。「…悪くはない」と呟き、彼女は女児を産んだ。
ハイブリッドの娘は、聖騎士の精神と小鬼族の身体能力を継ぐ。
9歳の時、ゼノンは森の奥で野垂れ死にかけていた夜鬼族の少女を拾った。サラサラの金髪ロング、青白い瞳の彼女は、血不足で少女のような身体のまま成長が止まってしまったそうだ。
名前を忘れていた彼女に、ゼノンは「ルナ」と名付けた。定期的に少量の血を提供し、彼女の命を支えた。ルナはゼノンに心から感謝し、愛を捧げた。
彼女のゴーレム【ムーンヴェイル】は、漆黒の装甲に月光の紋様、背中に蝙蝠の翼のような真紅のマントが揺れる。
ルナのひ弱な外見とは裏腹に、彼女の愛はゴーレムに無敵の力を与えた。
スティア連合国主催の大会で、ゼノンは【ギガントオニキス】を駆り優勝。ゴレリンピックの切符を手に入れた。小鬼族の名を世界に轟かせるチャンス。
スティア連合国首長の娘、リリエット・シルヴァを妻にし、スティア連合国を支配する野望を抱きつつ、ゼノンはゴレリンピックで2位を狙う戦略を立てた。
リリエットが森人族の族長になれず、ボルグが彼女を得るのを防ぎつつ、自身の力を示す計算だった。
1回戦では圧倒的な勝利を収めたが、魔力を使いすぎた。ゼノンの絶大な魔力も、回復には時間がかかる。「2回戦は抑えめに戦う」と決意。
ゴレリンピック2回戦前夜、聖都エクサリスの宿舎。月光が差し込む部屋で、ゼノンとルナは結ばれた。
ルナの瞳が赤く輝き、「ゼノン様…私、無敵だよ。
」と呟く。ゼノンは彼女の金髪を撫で、「ルナ、君の力は俺の計画に不可欠だ。」と微笑む。ルナの【ムーンヴェイル】は、愛と血で満たされ、戦場で輝く準備が整った。
2回戦当日の明け方、宿舎のベッドでゼノンとルナは寄り添い、未来を語る。「ゼノン様、小鬼族の未来、きっと明るいよ。」と微笑む。彼女の漆黒のドレスが月光に揺れ、左手の月型の指輪が輝く。
ゼノンは静かに呟く。「ミヤコ、ヒルダ、セレナ、ルナ…そしてお前たちの子たちが、俺の夢を未来に繋ぐ。スティア連合国を手中に収め、小鬼族を誰も馬鹿にできない存在にする。」
窓から差し込む月光が、【ギガントオニキス】の恐ろしくも逞しい鬼面を照らす。
ルナが恥ずかしそうに言う。
「ゼノン様、今日…少し歩くの大変そうです…。」
ゼノンは小さく笑う。
「無理はするな。だが、戦場では無敵のルナを見せてくれ。」
ルナは頷き、瞳を赤く輝かせる。
「ゼノン様の為なら…絶対に!」
ゴレリンピック2回戦の幕が開ける。




