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第21話「初タッグ!ロマンと剛力の共鳴、そして夜の大惨事」


ギクシャクする初タッグ


 ゴレリンピック強化合宿の第二日。宮廷騎士団の演習場に、タクトたちの五人が集められた。


「ルッコ、君は素晴らしい実力を持っている。だが、このチームで戦うのは初めてだ」


 合宿の監督役である宮廷騎士団員のリディアは、真面目な顔でルッコを見つめた。ルッコは、地下闘技場優勝という輝かしい実績を引っ提げてはいるものの、タクトの「超高速戦術」に付き合う連携は未経験だ。


 そこでリディアが提案したのが、即席チームによる模擬戦だった。


【タクト・ルッコチーム】 対 【ニクス・クローナチーム】。ローニャはフィールドの外で、両チームの戦闘データと魔力効率を詳細に記録する役割を担う。


 ルッコは、タクトと隣り合って立つことに、極度の緊張と照れを感じていた。顔はほんのり赤く染まり、悪魔族の誇りたる角の先端が微かに震えている。


「べ、別に、あんたと組むのは、戦術研究のためよ!感謝しなさい!」


ルッコは、ぷいとそっぽを向いて毒づいた。


「ハハッ、わかってるよ!ルッコのパワーと俺のスピードが組めば、最強だ!」


 タクトの無邪気な笑顔に、ルッコの心臓はさらに激しく打ち鳴る。


 一方、フィールドの反対側では、クローナが、「タクトくんとルッコちゃんのタッグ」という事実に、目に見えない嫉妬の炎を静かに燃やしていた。


試合開始のホイッスルが鳴る。

 

 タクトとルッコは、お互いの戦術は理解しているが、コンビネーションはまだ全く出来ていない。タクトは【爆風】ブーストで先手を取ろうとするが、ルッコの【クリムゾンヘイト】は、その速度に追従する事ができないでいた。


「ルッコ、ニクスを拘束してくれ!」


タクトが【光剣】を飛ばして牽制する。


 ルッコは、ニクスの【アサルトフェリス】を捕らえようと、【黒血呪縛】の鎖を放つが、ニクスは【超高速】と【回避】スキルで紙一重でかわし、ルッコの視界から一瞬で消え去る。


(くっ……!あの猫人族、タクトの変態戦術に慣れすぎてるわ!)


 ルッコがニクスに翻弄されている間に、クローナが動いた。


 クローナの【ゲイルハルト】は、心の底から生まれたようなどす黒いエネルギーを魔力に変えたかのように、異常なほどの気迫を纏っていた。


「ルッコちゃん!タクトくんは、私が、守るんだから!」


 クローナは、【剛力】と【狂化】を発動。さらに、タクトとの共同作業によって習得した【紅月纏】を同時発動するというリスクを無視したコンボを敢行。耐久力の最大値を削りながら、凄まじい耐久力を同時に手に入れた。


 そして、「ルッコとタクトのタッグ」に対する不満と独占欲を、全てその拳に込めた。


「ゲイルハルト!【餓狼牙廊(グローリー・ファング)】!」


 人狼の遠吠えにも似た雄叫びと共に、【ゲイルハルト】の巨大な拳が、【クリムゾンヘイト】に叩き込まれる。それは、「タクトくんを奪おうとしないで」という、クローナの心の叫びそのものだった。


ゴォン!


 ルッコの【クリムゾンヘイト】は、クローナの想像を絶する全力の一撃を受け、体勢を大きく崩した。


「くっそ!あのポワポワ女……一撃重すぎんのよ!」


ルッコは呻いた。


 ルッコは追い詰められていた。このままでは、クローナの耐久力とパワーに押し切られ、タッグの初戦で敗北してしまう。


「ルッコ!俺を信じろ!」


タクトの熱い声が、ルッコに響いた。


「ニクスとクローナの連携は、一瞬でも距離のバランスが乱れると脆い!ルッコの【黒血呪縛】で、クローナとニクスの距離を無理やりコントロールするんだ!」


ルッコは一瞬戸惑ったが、タクトの冷静な戦術眼を信じた。


「わ、わかったわよ!タクトのロマン、試してあげる!」


【クリムゾンヘイト】が、全身の残存魔力を絞り出し、【黒血呪縛】を発動。鎖は高速機動のニクスを捉えることはできないが、その鎖を【ゲイルハルト】の巨大な腕に巻き付けた。


「こんなもの…!ルッコちゃん!」


クローナが叫ぶ。


 【紅月纏】の効果で【黒血呪縛】の魔力妨害効果は効かないが、そのまま鎖を操り、ニクスがいる方向とは真逆に【ゲイルハルト】を力ずくで引きずり倒した!


 連携が断たれ、ニクスは孤立。彼女の【アサルトフェリス】は、最高速度を保ちつつも、サポートを失ったことでわずかに機動が乱れた。ニクスの頭脳は、「極めて危険な状況」だと即座に警告を発する。


「今よ、タクト!【追尾光弾】で孤立したニクスを狙うわよ!」


 ルッコの指示は、勝利への最適解だった。タクトは迷いなく、【アブソルトレイル】に魔力を集中させる。


【追尾光弾】が発射され、白い光の粒子が【アサルトフェリス】の周囲を奔る。ニクスは、【回避】スキルで光弾をかわすが、光の奔流は彼女の猫人族の鋭敏な視界を一時的に奪った。


「くっ!【光塵】の応用か!」


 タクトは【追尾光弾】に続いて【光塵】をニクス目掛けて散布していたのだ。


ニクスは一瞬の視界不良に陥る。


その一瞬の隙を、タクトは見逃さなかった。


【アブソルトレイル】の右腕に持つ槍杖が、灼熱の光を纏う。ルッコとの魔力同調により、タクトの魔力は集中力を増し、【収束】された【熱閃】は、細く鋭いレーザーとなってニクスを襲う。


ニクスは、視界がゼロの中で、【アサルトフェリス】の鋭敏な感覚器官と経験則に頼り、【回避】を最大出力で発動!


ビッ!


【熱閃】は、【アサルトフェリス】の胴体をわずかに逸れたが、機体を支える左脚の接続部を直撃した。


ジュッ!


【アサルトフェリス】の脆い装甲は熱線によって瞬時に溶け、接続部が半壊。ニクスの【アサルトフェリス】は、超高速の機動を維持できなくなり、その場で大きく体勢を崩した。


ニクスは、崩れ落ちる相棒を見て敗北を悟る。


「積み…か…。」


 タクトの一撃離脱と、ルッコの力による連携破壊が、見事に【ニクス・クローナチーム】の連携の核を打ち砕いた瞬間だった。


 模擬戦終了のホイッスルが響き渡り、タクト・ルッコチームの勝利が告げられた。


「やったぜ、ルッコ!俺たちのロマン、完璧に通用したな!」


タクトは心底嬉しそうに、ルッコに声をかけた。


 ルッコは、タクトの喜びを共有する熱い感情に包まれ、悪魔族の角の付け根がジンと熱くなった。


「フ、フン!別に、あんたのロマンが良かったわけじゃないわ!私の【クリムゾンヘイト】の性能が高かっただけよ!勘違いしないでよね!」


 ルッコはいつものツンデレムーブで照れを隠すが、その瞳は達成感に満ちていた。


 その頃、ローニャのデータ記録機は、タクトとルッコの魔力同期率が、戦闘終了間際に異常な数値に達したことを示していた。


 クローナは、タオルで顔を覆いながらも、ルッコとタクトの親しげな様子を観察していた。


(ルッコちゃん……タクトくんの新しいロマンを、私より先に手に入れたなんて……)


 クローナの心には、ルッコの存在が、「タクトくんを奪うかもしれない最大の脅威」として刻み込まれた。彼女の瞳には、静かで重い嫉妬の炎が燃えていた。


 ニクスは、いつものクールな表情で、自身の【アサルトフェリス】のログを解析していたが、ルッコの自分勝手な行動に、冷たい殺意を覚えた。


(あいつ……タクトの連携を乱した……。非効率極まりない。次回、もし私のタクトサポートを妨害するなら、『いつか処理するリスト』の最上位に格納するしかない)


 ニクスは、ルッコの「性能」ではなく「行動」に対して、初めて個人的な敵意を抱いた。


 ローニャは、誰もいない場所で、自分の魔術刻印研究ノートを広げていた。


「タクトとルッコの魔力同期率……戦闘中に異常値。これは、『競争心』?または『恋愛感情』?…が魔力回路に与える影響の可能性……。ふむ。精神操作系魔術について、本気で研究してみる必要がありそうです。」


 ローニャのメガネの奥の瞳は、タクトを巡る女たちの戦いという、新たな研究テーマを見つけ、静かに輝いていた。




時刻は夜。合宿所の風呂は交代制だった。


 この世界では「メンズファースト」の精神が貫かれ、タクトが一番風呂。宮廷騎士団の施設だけあり、広大な大理石造りの浴場に、タクトは感動していた。


「うわー、すげぇ!この広さ!これもまたロマン……!」


 タクトは広い風呂場で念入りに体を洗い、巨大な大理石の湯船にのんびりと浸かった。至福の瞬間だ。


その時、天井裏から、騒がしい物音が聞こえてきた。


バシャン!


 次の瞬間、タクトが入る湯船の上部天井の一部が崩落し、二つの影が、湯船の中に勢いよく飛び込んできた!


「ぶっは!な、なによこれ!?」


「うぎゃあああ!」


 そこにいたのは、ルッコと、全身をスパイのような黒いタイツで固めたチュニだった。


「チュニ!?なんでお前がここに!?」


タクトは驚愕した。


 どうやら、チュニは王国の陰謀を暴くために、単身でこの宮廷騎士団の演習場に潜入してきたらしい。彼女の陰謀論への執念は、もはや常軌を逸していた。


 ルッコは、隣のシャワー室で密かに汗を流していたところ、排気口付近から不審な魔力(チュニの隠密魔術)を感じ取り、チュニを捕捉。不審者を捕らえようと、排気口の狭いダクトの中まで追跡し、超接近戦での追いかけっこになっていたらしい。


 そして、タクトが入る風呂場の真上に来た時、排気ダクトの床が崩落。チュニが落下し、チュニに手首を掴まれたルッコもそのまま湯船に真っ逆さまに落ちてきたのだ。


タクトは、湯船の中で驚愕に目を見開いた。


 目の前には、水しぶきと湯気の中には一糸纏わぬルッコ。まだ幼いながらも、陶磁器のように白く、美しい紅い刻印が奔っている。そんな悪魔族の少女の裸体が、一瞬でタクトの視界に飛び込んできた。


 ルッコもまた、タクトの全身を至近距離から見てしまった。


「ひいいい!!きゃあああああ!!」

「うわぁあああああ!!!」


2人の悲鳴が、合宿所に響き渡った。


 一方、チュニは、落下時にメガネを失い、湯気で何も見えていない。


「くそっ、これが宮廷騎士団の認識阻害魔術か!何も見えん!」と的外れなことを叫んでいる。


 悲鳴を聞きつけ、クローナ、ニクス、ローニャが、急いで風呂場に駆けつけた。彼女たちは、お風呂に向かう直前だったようだ。


 クローナは、両手で顔を覆いながらも、指の隙間からタクトの全身を、必死に観察している。彼女の豊満な胸元は、純粋な好奇心と羞恥で激しく上下していた。


 ニクスは、何でもないように振る舞いながらも、精密機械のような目でタクトの裸体を興味津々に観察する。彼女の黒い猫耳は、タクトの存在を「計算外の脅威」として、新たなデータ解析に全力を注いでいた。


 ローニャは、湯気で曇ったメガネを必死で拭きながら、タクトの身体をその目に焼き付けようと、ゴーレムの魔力効率解析と同じほどの集中力で頑張っている。


 こうして、前代未聞の大惨事が、強化合宿の夜に発生したのだった。


 その後、ルッコは湯船の中で気絶寸前になりながらチュニを捕まえ、事態は収束した。


 女子全員は、風呂場から連れ出され、リディアの前で正座させられる。


「いいか、お前たち!騎士団の施設で、男子の入浴中に突入するなど言語道断だ!特にルッコ!なぜすぐに我々に知らせなかった!」


リディアの厳しいお説教が、夜の演習場に響き渡る。


一方、タクトは、宮廷騎士団の数少ない男騎士たちに毛布をかけられ、優しく慰められていた。


「タクト君。怖かったね。いきなり裸の女の人が上から降ってくるなんて、精神的なショックは計り知れないだろう。」


「本当に可哀想に。あの悪魔族の子にはよく言っておくね。」


 タクトは、「いや、結構綺麗な体でしたけど」と謎の擁護をしたくなったが、黙って騎士たちの優しさを受け入れた。


 タクトとルッコの新たな関係は、共同作業と大惨事という、二つの大きな出来事を経て、さらに複雑な様相を呈していくのだった。


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