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第20話「決戦の地へ!プロが集うゴレリンピック強化合宿」


ナンバー持ちの戦場、宮廷騎士団演習場


 ティナリスの絶対零度の試練を乗り越え、Cクラス昇格を果たしたタクトたちに、新たな舞台が用意された。ゴルディアス王国の威信をかけたゴレリンピック強化合宿である。


 会場は、宮廷騎士団が所有する森の中の演習場。石造りの壁には厳めしい紋章が刻まれ、その空気は学園のそれとは比べ物にならないほど張り詰めていた。ここに集うのは、タクトたちのような若手候補だけではない。


「あれが、ナンバー持ちの騎士たち…。」


 ニクスが静かに囁く。宮廷騎士団には、国内最強のゴレトルプレイヤーが所属しており、その中でも上位12名にはナンバーと『称号』が与えられている。彼らは、国中の少女少年たちの憧れの的であり、強さの象徴だ。鋼の装甲を纏った騎士型ゴーレムが放つ圧力は、並大抵ではなかった。


「彼らこそ、この国最強のゴレトルプレイヤー。圧倒的な実力差がある。ここでの経験は、世界大会で必ず活きる」


ニクスがタクトに囁いた。


タクトは興奮を隠せない。


「すげぇ!あの強さの壁をぶち破るのが、俺たちのロマンだ!」


 その時、タクトたちの視線の先に、不機嫌そうに腕を組み、そっぽを向いている紅い髪の少女がいた。


「ルッコ!」


タクトが声を上げる。


 ルッコはタクトの視線に気づくと、一瞬で角の付け根まで顔を赤くした。気恥ずかしさと、タクトに会えたことへの微かな喜びが入り混じり、彼女のツンデレ回路は完全にショートしている。


「な、なによ!あんたたちこそ、こんなクソ真面目な場所で何してるのよ!?」


ルッコはわざとらしく鼻を鳴らした。


「そりゃ、ゴレリンピックの合宿だろ。ルッコこそ、なんでここに?」


「フン!別に、あんたたちみたいなロマンバカに会いに来たわけじゃないわよ!」


 ルッコは、早口で毒づいた。しかし、その瞳の奥には、確かな達成感が宿っていた。


「私は、紅月地下闘技場大会で優勝したの!【紅月餓狼杯】の優勝者は、この合宿に参加できる。私の『力』が、あなたたちの『ロマンごっこ』より上だって証明しに来ただけだわ!」


クローナが目を輝かせた。


「ルッコちゃん、すごい!あの大会って、すごく荒っぽいって聞いたよ!」


「うるさいわね、ポワポワ女!別に、褒められても嬉しくないわよ!」


 ルッコはそう言い放ったが、クローナの無邪気な賞賛と、タクトの「すげぇ!」という熱い視線に、頬が緩むのを必死で耐えていた。


 合宿の責任者である、鋼の騎士型ゴーレムを駆るナンバー持ちの騎士が、タクトたちに声をかけてきた。


「よう、学生ども。お前らが今年の新人枠か。私は宮廷騎士序列9位、『鋼鉄の礎』リディア・バレットだ」


リディアは、ゴレリンピックの特別ルールを説明した。


「ゴレリンピックでは、機体耐久力の回復魔術と、状態異常を直接解除する魔術の使用が、極端に制限される。これは、試合の長期化を防ぎ、スピーディでスリリングな試合運びを促すためのルールだ」


その説明に、タクトチームの面々の表情が変わる。


「回復系魔術が制限されるということは、耐久特化型には厳しいルールだね……」


 クローナの表情が曇る。彼女の【ゲイルハルト】の生命線である【自動回復】と【紅月纏】が制限されることになる。


しかし、タクトは即座に表情を一変させた。


「だが、逆に言えば、俺たちの超高速戦術が活きる!」


 タクトの瞳が、データ解析の光を放つ。耐久力が回復しないということは、一度与えたダメージは必ず蓄積する。タクトやニクスの一撃離脱戦術が、長期的な削りという新たな側面で、より有効になるのだ。


「『超高速戦術』で致命傷ではないが痛い一撃を何度も与え、そのまま逃げ切る。相手の回復を許さず、ジワジワと耐久力を削り取る戦術が、世界で通用する。」


 ニクスもタクトの意図を即座に理解し、冷静に分析を加えた。



 合宿最初の課題は、リディアが率いるチームとのチーム模擬戦だった。


「お前たち学生チームは、私のチームと4対4で模擬戦だ。勿論ハンデはやる。私たちは、ゴーレムの重量が2倍になるインスタント刻印を貼る。勝てば、お前たちの実力が本物だと認めよう」


 タクトたちのチームが挑むのは、『鋼鉄の礎』リディアが率いるチーム。その構成は、タクトたちとは異なり、防御と反撃に特化した、極めて堅実な布陣だった。


 試合が始まると、騎士チームは徹底してタクトたちの動きを研究していることを証明した。


【爆風】のブーストを予測し、その着弾点となるであろう場所に、トラップ魔術を先回りして仕掛けてくる。


「くっ!プロの読みは伊達じゃない!」


 タクトは苦戦を強いられるが、マルノとの訓練で培ったランダムな状況への対応力と、ニクスの驚異的な戦術眼がタクトを支える。ニクスは【回避】を使い、トラップの範囲をミリ単位で把握して、タクトに回避ルートを指示していく。


 しかし、騎士チームの防御は鉄壁だった。重量2倍のハンデをものともせず、彼らはタクトたちの攻撃を一切通さない。時間だけが過ぎていく。


 その時、タクトは騎士チームの防御の「ほんの僅かな隙」を見つけた。


(待てよ。彼らの防御は、物理攻撃への対応に偏重している。クローナやニクスの接近戦を警戒しすぎているせいで、魔法攻撃への対応が遅れている!)


タクトは、すぐに攻撃オーダーをチームに送った。


「ニクス、回り込んで翻弄しろ!ローニャ、【石砲】で牽制!クローナは、俺と一緒に……特攻する!」


タクトの【アブソルトレイル】は、再び【爆風】ブーストで騎士チームの防御網を強引に突破。その後を、【狂化】で速度を上げた【ゲイルハルト】が追従する。騎士たちはタクト達の攻撃を迎え撃つ体勢に入った。


その瞬間!


クローナは【アブソルトレイル】の胴体を掴んで急停止させ、そこに、【アブソルトレイル】は【熱閃】を【収束】し、至近距離で防御の薄い、騎士ゴーレムの脚部に照射した!


ドォン!


 灼熱の光が、騎士ゴーレムの装甲を一瞬で溶かし、脚部を貫いた。防御が物理に偏っていたが故の致命的な隙。騎士チームのリーダー機は、そのままリングに崩れ落ちた。


「な、なんだと……!あのタイミングで、魔法攻撃!?」


騎士たちは驚愕し、タクトたちを改めて評価した。


「ふむ、見事な判断力だ、タクト。お前たちには、世界で戦う資格があるようだ」


リディアは、静かにそう評価した。


 こうして、タクトたちは、ゴルディアス王国の代表候補として、ゴレリンピックへ向かう資格を正式に得たのだった。ルッコを含む5人のチームとして、世界中のロマンを背負い、タクトたちの新たな戦いが始まる。


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