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第17話「ゴレリンピックへの試練!至福の悪夢?光と闇のゴーレム」


呪いの少女と、予測不能への一歩


 ギルドホールの薄暗い魔法燭台の下、タクトたちは新たなDランク任務の巻物を広げていた。指導者ティナリスの言葉が、タクトの頭に焼き付いている。


「予測不能な敵にどう立ち向かう? 混沌の中でこそ、真の強さが試される。」


 あの課題を課された後言われた言葉が、タクトを突き動かしていた。


 Dランク任務は、ダンジョンでの素材集めや、街の些細なトラブル解決が中心だ。だが、タクトはこれを単なる雑務とは見なかった。ゴレリンピック——ゴーレム使いたちが技と知恵を競う大舞台——に向けて、チームの弱点を克服する機会だと捉えたのだ。


「ニクス、今回は【回避】禁止!【機動】だけで敵の攻撃をかわしてみよう!」


 タクトの声が、湿ったダンジョンの壁に反響する。


「わかったタクト。やってみる。」


一方、クローナに向かって、タクトは指示を飛ばす。


「クローナ、【頑丈】は封印。素の体術でしのげ。限界を試すんだ!」


 クローナはニヤリと笑い、拳を鳴らす。


「うん、わかったよタクトくん!頑張るからね!」


 タクト自身も、【アブソルトレイル】の【爆風】を最小出力に抑え、魔力制御の精度を磨いた。まるで針の穴に糸を通すような繊細さだ。


 ゴブリンゴーレムや爆走ゴーレム、果ては執拗なスライムゴーレムの大群を相手に、チームは互いの信頼を試す過酷な訓練を重ねた。


 そんなある日、翠緑の地下迷宮「ヴァーダント・ホロウ」の奥で、タクトは見覚えのある少女と遭遇した。


 薄暗い岩陰に佇むのは、クラスメイトのマルノ。気弱だが努力家の彼女は、感情の波が激しく、その影響を受けた人形型ゴーレム【フランソワ】も強さの波が大きい。その【フランソワ】が地面に倒れていた。陶器のような外殻はひび割れ、マナ回路がチリチリと火花を散らしている。


「マルノ?」


タクトが声をかけると、彼女は涙目で顔を上げた。


「タ、タクトさん…ごめんなさい、こんな時に…」


 マルノのゴーレム、フランソワは、攻撃と回復、そして自滅特攻を併せ持つピーキーな機体だ。特に【呪詛】は、一定確率で敵に闇の状態異常(魔術発動阻害)を与える厄介な魔術だ。だが、そのランダム性ゆえ、マルノの不安定な感情と相まって制御が難しい。


「マルノの【フランソワ】、どうしたんだ?」


 タクトは壊れたゴーレムに近づき、損傷を確かめた。マルノは唇を噛み、声を震わせた。


「【呪詛】が…うまく制御できなくて。私の感情が乱れると、マナが不安定になって…ダンジョンで敵に返り討ちに…」


 タクトの脳裏に、ティナリスの言葉がよみがえる。予測不能な混沌。マルノの【呪詛】は、まさにそれそのものだ。敵のスキルをランダムに封じる力は、ゴレリンピックで対峙する妨害型ゴーレムへの完璧な訓練相手になる。


「マルノ、君の心は欠点じゃない。武器だ」


タクトは真剣な目で彼女を見つめた。


「そのランダム性が、敵にプレッシャーをかける。いつ発動するか分からない恐怖こそ、君の強みだよ」


マルノは目を丸くし、信じられないという表情で呟いた。


「私の…強み?」


「そうだ。フランソワを直すの手伝うよ。その代わり、俺たちと模擬戦をやってくれ。【呪詛】をフルに使って、俺たちをボコボコにしてくれ!」


マルノは一瞬躊躇したが、タクトの熱意に押され、頷いた。


「タクトさんの役に立てるなら…やってみる!」


 その後の模擬戦は、まさに地獄だった。フランソワの【呪詛】は、ニクスの【超高速】を不意に止め、グラニテカノンの【砂塵】を無効化し、タクトの【爆風】を封じた。チームの連携は崩れ、予測不能な状況に追い込まれた。だが、そのたびに彼らは即興で対応を編み出した。


「ニクスの【超高速】が使えない!ローニャ、【石砲】でカバーだ!」


「【光刃】が使えない!クローナ、【頑丈】で耐えてくれ!」


 この過酷な訓練を通じて、タクトたちはティナリスの課題への答えを見つけた。予測不能な状況を恐れず、むしろそれを逆手に取る柔軟性。マルノの【呪詛】は、彼らにその力を叩き込んだのだ。





Sideルッコ


 一方、タクトのチームがマルノとの訓練に明け暮れる中、紅髪のツンデレ少女ルッコは独自の道を突き進んでいた。


 彼女の制服のポケットには、ピカピカのDランクギルド証。彼女も何もしていなかった訳ではなかった。


 タクトに差をつけられたくない一心で、こっそりとティナリスに頼み込んで課題に挑んでいた。


「力だけで勝つのは愚か者だ。混沌を制するのは知恵だ」とのティナリスの言葉が、ルッコのプライドを刺激していた。


 ルッコが選んだのは、幻術ゴーレムが巣くう「ミラージュ・デプス」への単独任務。物理的な力だけでなく、精神の強さが試される危険なダンジョンだ。


「タクトの氷結だの状態異常だのの対策で、姑息な策ばかり用意しているわねきっと!」


 ルッコは鼻を鳴らし、ダンジョンの石畳を踏みしめた。


「私の【クリムゾンヘイト】のスーサイドコンボと【黒血呪縛】があれば、どんな敵も粉砕よ!」


 洞窟の奥で、彼女は対峙した。ネームドの催眠粘菌ゴーレム【ムード・ドリーマー】——紫の粘液に覆われた不気味な姿、その単眼が妖しく光る。


「キモいゴーレムね。さっさと片付けるわ!【黒血呪縛】!」


 ルッコのゴーレム【クリムゾンヘイト】から、闇の鎖が飛び出し、ムード・ドリーマーを縛り上げる。だが、ゴーレムは抵抗せず、代わりに全身から紫の霧——【夢幻ノ霧】を噴出した。


「なっ!?」


ルッコは【クリムゾンヘイト】の両翼を操作したが、霧は魔力回路を直接刺激する特殊な波動を帯びていた。


「頭が…ぼーっと…」


【クリムゾンヘイト】と強く結びつきのあるルッコの意識は急速に混濁し、闇に飲み込まれた⋯。




 目を開けると、ルッコは学園の自室にいた。見慣れた天井の下、なぜか体が動かない。隣には、タクトがいた。いつもはふざけた笑みを浮かべる彼が、妙に熱っぽい目でルッコを見つめている。


「ルッコ、目が覚めたか」


彼の声は低く、甘い。


「た、タクト!?なんで私の部屋に!?また変態な『ロマン』とか企んでるんでしょ!」


 ルッコは叫んだが、体は痺れて動かない。タクトは静かに微笑み、ルッコの紅い髪にそっと触れた。


「ロマン、か。確かに、俺のロマンは…ルッコ、お前を独り占めすることだ」


「は!?」


 ルッコの心臓が跳ねた。彼の指が、ルッコの悪魔族の刻印——肩から腕に走る神秘的な紋様に滑る。刻印はタクトの触れ方に反応し、ほのかに光った。


「この刻印…お前の強さの証だ。こんなに美しいもの、見たことない」


「な、ななな!やめなさいよ、馬鹿!」


 ルッコの声は裏返り、刻印の温もりが全身に広がる。恥ずかしさと混乱で、彼女のツンデレ回路はショート寸前だった。タクトはさらに顔を近づけ、囁いた。


「あの時、スカートの留め金を狙った熱線は、本当にごめんな。だが、あれはお前が魅力的すぎるせいだ。俺の制御が…効かなかった」


「み、魅力的!?」


 ルッコの顔は髪と同じ赤に染まった。いつも「超高速」だの「ロマン」だのに夢中のタクトが、こんな甘い言葉を!?彼はルッコを抱き寄せ、悪魔の角に唇を寄せた。


「ルッコ、俺のロマンに、一生涯付き合ってくれ」


 その唇が角から頬へと近づく。ルッコの心は激しく鼓動し、抵抗したいのに、どこかでこの甘い「ロマン」を受け入れたがっている自分に気づく。


(うそ…!私が、あの変態ロマン男に…!?)




 その瞬間、轟音が世界を切り裂いた。


「グガァアア!」


【クリムゾンヘイト】の咆哮が、ルッコを現実へ引き戻した。その装甲は、幻術の間に触手に締め上げられ、ボロボロだった。


「今…私が何を…!?」


 ルッコは冷や汗をかき、目の前のムード・ドリーマーを睨んだ。


 タクトからの告白、刻印への触れ合い、受け入れそうになった自分——その記憶が、羞恥の嵐となって襲いかかる。


「タクト!あいつがこんな夢を!いや、違う!このキモいゴーレムのせいよ!」


ルッコのツンデレ心と乙女心が、怒りと恥ずかしさで爆発した。


「許さないわ!【超剛力】【犠牲】フルパワー!!」


【クリムゾンヘイト】の紅い鉄鎌が、ルッコの全魔力と羞恥のエネルギーを吸い込み、真紅に輝く。


一閃。


 常軌を逸した破壊力がムード・ドリーマーを粉砕し、洞窟を震わせた。任務は達成された。だが、ルッコの心は動揺が隠せなかった。


「『俺のロマンに付き合ってくれ』!?ふざけないで!あいつのロマンをぶっ壊すまで、絶対に付き合わないんだから!」


(…でも、もしあの幻術が続いてたら、どうなってたの…?)


 ルッコは自分の髪以上に赤い顔を隠し、その思考を心の奥に押し込んだ。タクトのロマンに心のどこかで惹かれている自分を、執念で塗り潰しながら。



 タクトたちは、マルノの【呪詛】を通じて、予測不能な状況への対応力を磨いた。ランダムなスキル阻害は、ゴレリンピックの妨害型ゴーレムへの対策となり、チームの柔軟性を飛躍的に向上させた。


 一方、ルッコは幻術ゴーレムの試練を乗り越え、精神的な弱さを力に変える術を学んだ。羞恥と怒りを超パワーに昇華させた彼女は、ティナリスの言う「知恵」を、感情の制御という形で掴みつつあった。


 二人はそれぞれ、混沌を制する力を身につけ、各々の目標に向かって歩み続ける。



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