第11話「本戦開幕!超高速戦術の華麗なる勝利」
上級生の壁と、ロマンの突破力!
ゴレトルトーナメントの予選を勝ち抜いたタクトたちは、ついに本戦の舞台へ駒を進めた。ここからは学園の上級生チームとの戦い——経験と技術の厚い壁が立ちはだかる。
「上級生は魔術刻印の数も質も段違いだよ。特に3年生チームは、ゴーレムの設計から戦術まで隙がない。気を抜いたら一瞬でやられちゃうよ!」
クローナが、いつになく真剣な表情でタクトに警告する。彼女の狼の耳がピクピクと緊張で揺れ、普段のふんわりした雰囲気とは裏腹に、闘志がキラリと光っていた。
初戦の相手は2年生チーム。彼らが操るゴーレムは、亀人型ゴーレム【グラウンドレイ】。
重装甲のボディに長距離砲を備えた、典型的な陣地防衛型だ。リングにそびえるその姿は、まるで動く要塞のよう。
タクトは一目見て、胸の高鳴りを抑えきれなかった。この世界のゴレトルは、俺のロマンそのものだ!
「相手は動きが遅い。ローニャ、作戦通り、砂塵で視界を奪え!」
タクトの号令の下、ローニャの【グラニテカノン】がリング中央に【砂塵】の嵐を巻き起こす。
砂嵐が戦場を覆い、視界は瞬く間にゼロに。観客席からどよめきが上がる。
「ふん、そんな小細工で我々の【感知術式】は欺けない!」
2年生チームのリーダーが自信満々に言い放つ。彼らのゴーレムは、魔力の微細な揺らぎを捉える高度なセンサーで、砂塵の中でも敵の位置を正確に把握できるはずだった。
「感知術式?そんなの関係ない!アブソルトレイル、【爆風】ブースト!ニクス、先導を頼む!」
タクトはニヤリと笑い、砂塵の奥へ突進する指示を出す。
視界ゼロの戦場で、勝利の鍵はニクスの【アサルトフェリス】だ。このゴーレムは【機動】スキルで機体動作を極限まで強化し、ニクスの鋭い体感と魔力感知で、砂塵の中でも自由自在に動ける。
彼女こそ、この戦術のナビゲーターだ。
「タクト、3時の方向。敵の長距離砲、射線軸は把握済み。」
ニクスの声は冷静そのもの。砂塵の中で、タクトの【アブソルトレイル】は神速の機動力を発揮し、まるで風の刃のように敵陣を切り裂く。
相手チームは長距離砲を撃てず、ゴーレムの重い足音と微かな魔力反応を頼りに迎撃を試みるが、すべて空を切る。
「くそっ!感知術式が振り切られた!どこだ、あの突撃馬鹿どもは!」
焦る2年生チーム。その瞬間、砂塵を突き破り、クローナの【ゲイルハルト】が雷鳴のような咆哮を上げて現れた。
「ここだよ!【剛力】発動!」
クローナのゴーレムが、敵の長距離砲の冷却タイムを完璧に捉えた一瞬の突撃。彼女の拳が、【グラウンドレイ】の急所——キャタピラの駆動部——に炸裂する!金属の悲鳴が響き、亀人型ゴーレムの巨体が傾ぐ。
ゴオォォン!
「今だよ、タクト!一気に決めちゃって!」
クローナの突撃で砂塵が晴れた一瞬、タクトの【アブソルトレイル】が動く。チャージした【熱閃】が、高熱の光線となって【グラウンドレイ】の装甲の薄い連結部を貫く!
ゴウッ!
「バ、馬鹿な……!あの速度で、視界ゼロの中で、正確に急所を……!」
2年生チームは、タクトたちの超高速連携——ニクスのナビゲーション、クローナの突撃、そしてタクトの精密な一撃——に為す術なく敗れ去った。
観客席は歓声と驚嘆の渦に包まれる。2回戦の相手は、金髪縦ロールに豪奢なドレスをまとった、絵に描いたようなお嬢様、ミーサ率いるチームだ。彼女の登場に、観客席は一際大きな盛り上がりを見せる。
「オーホッホッホ!あなたがタクト様ですわね!学園一の超高速ロマン、このミーサが華麗に打ち破って差し上げますわ!」
ミーサのゴーレム【ノーブルルージュ】は、フリルの装甲に彩られた優雅な外見とは裏腹に、【縮地】と【超高速】で近距離戦を支配する攻撃的なゴーレムだ。さらに、レイピアを強化する【突剣】スキルで、鋭い一撃を繰り出す。
彼女のチームメイトは、執事型ゴーレム【セバスチャン】と2体のメイド型ゴーレム【メイド・ロゼ】。
全員が【高速】や【機動】スキルを持ち、ミーサのスピードに追従する鉄壁の布陣だ。
「タクト、相手も速度を重視してる。特に【ノーブルルージュ】の【超高速】と【縮地】のコンボは、君や私とも互角以上。しかも【異常耐性】が刻印されてるから、ローニャの【砂塵】が効きにくい可能性がある。」
ニクスの分析に、タクトは頷く。彼女の冷静な声は、戦場の熱を一瞬冷ます。
「よし、オーダー変更だ。俺の【アブソルトレイル】は陽動に徹する。ニクスとローニャは、チームの核を叩け!」
試合開始のゴングが鳴り響く。リング中央で、タクトの【アブソルトレイル】とミーサの【ノーブルルージュ】が激突!神速の機体同士の戦いは、観客の目にも残像しか捉えられない光の軌跡となる。
タクトは【爆風】の反動を巧みに操り、動きに不規則性を加え、ミーサのレイピアをギリギリで回避し続ける。
「オーホッホ!お見事ですわ、タクト様!ですが、【幻影】発動!」
ミーサが叫ぶと、【ノーブルルージュ】が瞬時に2体に分裂。どちらが本体か、判別不能だ。観客席から驚きの声が上がる中、タクトは冷静に指示を飛ばす。
「クローナ、右側のゴーレムを【ゲイルハルト】で受け止めてくれ!ニクス、残像の裏に回り込め!」
クローナの【ゲイルハルト】が、右側の【ノーブルルージュ】に突進。だが、その瞬間、執事型ゴーレム【セバスチャン】が動く。
「お嬢様をお守りするは、わたくしの務め!」
【セバスチャン】の【千変操糸】が発動し、無数の魔力糸が蜘蛛の巣のように広がる。クローナの【ゲイルハルト】の動きを封じ、まるで操り人形のようにその巨体を絡め取った。糸は魔力を帯び、ゴーレムの装甲を微細に削りながら、動きを鈍らせていく。
「オーホッホ!さすがセバスチャン!その狼娘を絡め取って差し上げなさい!」
ミーサの笑い声が響く中、【セバスチャン】はさらに活躍を見せる。糸を操りながら、流れるような動きでローニャの【グラニテカノン】の射線を回避。まるで優雅なダンスのように、リング上を滑る。その一挙手一投足が、観客を魅了するほどの洗練された美しさだ。
「くっ、クローナがピンチだ!ローニャ、メイド型ゴーレムを【石砲】で狙え!」
タクトの指示に、ローニャが動く。【グラニテカノン】が、リング後方で魔力供給を担うメイド型ゴーレム【メイド・ロゼ】に、巨大な岩石弾を放つ。
だが、【セバスチャン】が再び立ちはだかる。【千変操糸】を盾のように展開し、岩石弾を絡め取り、空中で粉砕してしまう。
「セバスチャン!メイド達を援護なさい!」
ミーサが焦りの声を上げる。その一瞬の隙を、タクトは見逃さない。
「ニクス、今だ!」
ニクスの【アサルトフェリス】が、残像と幻影が入り乱れる混沌の領域に潜り込む。彼女は新技【音響裂断】を発動。超音速の刃が、【ノーブルルージュ】の背後に忍び寄り、魔力供給源である魔術刻印を一瞬で切り裂く!
ガキィン!
「オーホッホッホ!?馬鹿な!このミーサの超高速部隊が、裏をかかれた!?」
【ノーブルルージュ】が機能を停止。主機を失ったメイド型ゴーレムも戦意を喪失し、【セバスチャン】は糸を操る手を止める。
タクトチームの勝利が確定した瞬間、リングは歓声に包まれた。
「タクト様……私の完敗ですわ。あなたのロマンは、個の速度ではなく、チームの絆で完成していたのですね……!オーホッホ、素晴らしいですわ!」
ミーサは最後までお嬢様らしい誇りを崩さなかったが、その瞳にはタクトへの敬意が宿っていた。後ろでは、クローナがローニャに耳打ちしている。
「ミーサ先輩の家、実は代々駄菓子屋なんだよ!小さい頃、よくお菓子もらって遊んだな〜!」
戦いの余韻に浸る中、そんなほのぼの情報はどうでもいい気がした。タクトのロマンは、上級生の壁を打ち破り、華麗なる勝利を掴み取った。だが、彼らの戦いはまだ始まったばかりだ。




