第1話「異世界転生、そして隣の席の世話焼き人狼族」
異世界転生!まさかの貞操逆転世界で俺は「オタサーの姫」?
意識が覚醒した瞬間、俺の人生は一変した。自分が異世界に転生したことを、魂の奥底で理解したのだ。
前世では、どこにでもいる冴えないサラリーマンだった。趣味はカスタマイズ系のロボットゲーム。
無骨な機体にゴテゴテと武装を盛ったり、ピーキーなチューニングで敵を圧倒する超高速戦を仕掛けたり——その無限のロマンに心を奪われていた。
地味な日常の中で、俺の情熱は鉄と油とプログラムコードに注がれていた。だが、今、俺がいるのはゴルディアス王国。
この世界には、いにしえの勇者と魔王が残した魔法の掟が存在する。
【人類同士の直接的な戦闘の禁止】
【争い事は小型ゴーレムの勝敗で決着とする】
そう、ここは「鋼鉄闘域」、通称ゴレトルがすべての中心だ。体長1メートルほどのゴーレムを自由にカスタマイズし、戦わせる競技。
まるで前世で愛したロボットゲームのリアル版だ。転生特典なのか、俺の体には魔法の才能が宿っているらしい。これを使えば、ゴレトルで無敵のマシンを作れるかもしれない!
「ゴレトル……!まるで俺のためにあるような世界じゃないか!」
だが、興奮する俺をよそに、この世界にはさらなる「異常」があった。
ここは貞操逆転世界だ。
男はか弱く、守られる存在。女は逞しく、力強い存在。街を歩けば、屈強な女性たちが堂々と剣を振るい、男たちは繊細な刺繍や恋バナに夢中だ。
最初は目を疑った。カフェで筋骨隆々の女性が「彼氏の不満」を大声で語り、隣では華奢な男性が紅茶をすすりながら「彼女の優しさにキュンとした」と頬を染める。
「いや、待て。これ、俺の知ってる男女の役割と真逆じゃん……!」
さらに驚くべきことに、ゴレトルに熱狂するのはほぼ女性ばかり。男性たちは「戦いは野蛮だ」とでも言うように、ゴーレムに興味を示さない。
これはもう、文化の違いを超えたパラレルワールドだ。(実際異世界である)
転生後の俺の名前はタクト、12歳。今日からゴルディアス魔法ゴーレム学園の新入生だ。
入学式の朝、俺は胸を高鳴らせながら校門をくぐった。ゴレトルの世界で、俺のロマンが花開く瞬間がやってくる!
入学式を終え、指定された教室へ向かう。
俺の席は窓際の後ろから二番目——主人公感たっぷりの特等席だ。
外を見れば、青々とした学園の中庭と、遠くでキラキラと輝くゴーレム工房の屋根が見える。最高の気分だ。
ふと隣の席に目をやると、そこには一人の女の子が座っていた。人狼族だ。茶色のロングヘアが柔らかく揺れ、頭にはふわふわの狼の耳がピョコンと生えている。
制服の上からでも分かる、華奢なのにどこか豊満なシルエットに、思わず目が吸い寄せられそうになる。
だが、それ以上に目を引いたのは、彼女の雰囲気だ。真面目そうなのに、どこかふんわりした空気をまとっていて、まるで子犬のような愛らしさが漂っている。
「こんにちは!俺の名前はタクト。隣、座ってもいいかな?」
声をかけると、彼女は少し驚いたように顔を上げた。大きな瞳がキラリと光り、頬にほんのりピンクが差す。まるで絵本から飛び出してきたような、愛らしい顔立ちだ。
彼女は一瞬だけキョトンとした後、柔らかな笑顔を浮かべた。
「あっ、はい!もちろん!私はクローナ、人狼族です。隣の席なんですね、よろしくね、タクトくん!」
その声は、鈴を転がすような軽やかさ。彼女は少し照れくさそうに狼の耳をピクピク動かし、ノートを閉じながらこちらを見つめてきた。なんて人懐っこい笑顔だ。異世界での初友達が、こんな可愛い子だなんて、転生ガチャ大当たりじゃないか?
「よろしく、クローナ!」
俺が笑顔で返すと、彼女はさらに嬉しそうに目を細めた。耳がまたピクッと動くのが、なんだか癖になりそうな可愛さだ。
教室での雑談中、俺がゴレトルに興味があることをポロッと話すと、クローナの反応は一変した。さっきまでのふんわりした雰囲気から一転、瞳がキラキラと輝き出し、まるでスイッチが入ったように身を乗り出してきた。
「えっ、タクトくん、ゴレトルに興味あるの!?ほんと!?珍しい!だって、男の子ってあんまりゴレトルにハマらないんだから!ね、ね、どんなゴーレム作りたい?装甲は重装型?それとも軽量高速型?武器は近接?遠距離?魔術刻印の設計はどうするの?!」
クローナの言葉はまるで機関銃のようだ。興奮のあまり、彼女の狼の耳がピョコピョコと上下に揺れ、頬はほんのり赤く染まっている。ノートにびっしり書かれたゴーレムの設計図らしきスケッチをチラ見せしながら、彼女は止まらない。
「この前、私、試作用のゴーレムに『炎陣刻印』を組み込んでみたんだけど、出力が安定しなくてね!タクトくん、もしよかったら一緒に工房で試してみない?」
その熱量に圧倒されつつ、俺は心の中でガッツポーズ。やっぱり、この世界は俺の天国だ!そして、クローナのこの無邪気な情熱、めっちゃ可愛いじゃないか!その日から、俺の学園生活は一気に色づいた。
クローナはまるで姉のように、右も左もわからない俺の世話を焼き始めた。
「タクトくん、教科書はここにまとめて入れると便利だよ!はい、これ、私のお弁当!ちょっと分けっこしよう!卵焼き、好き?あ、ゴレトル初心者ならこの本、絶対読んで!『ティナリス先生のゴレトル基礎知識』、私が貸してあげる!」
彼女はそう言って、丁寧に包まれたお弁当箱を差し出してきた。中には色とりどりのおかずが詰まっていて、卵焼きはハート型。細やかな気遣いと、ちょっとドジっ子っぽい笑顔が絶妙にマッチして、俺の心を鷲づかみにする。
「クローナ、めっちゃ優しいな……!」
「え、そ、そうかな?ふふ、なんか照れるな!」
彼女はそう言って、耳をピクピクさせながら顔を赤らめた。その仕草があまりにも愛らしくて、俺は思わず笑ってしまう。クローナの影響か、俺の周りにはゴレトルに熱中する女の子たちが集まり始めた。
「タクトくん、ゴーレムのコア選びに悩んでるの?私、工房の素材リスト持ってるよ!」
「ねえ、タクト!次回の模擬戦、私のゴーレムとスパーリングしない?」
気がつけば、俺は女子だらけのゴレトル談義の中心にいた。まるでオタサーの姫だ。
前世では無骨なロボットにしか愛を注げなかった孤独なオタクだったのに、今や異世界で女の子たちに囲まれてゴレトルの話をしまくっている。
「嬉しいけど、なんか……これ、俺の目指してた方向とちょっと違う気がするんだよな……」
だが、クローナはそんな俺の戸惑いも笑顔で吹き飛ばす。
「ふふ、タクトくんってほんと面白い!でもさ、これから一緒にゴレトルで最強のゴーレム作ろうね!私、絶対タクトくんの相棒になるんだから!」
彼女の笑顔は、まるで陽だまりのように温かい。でも、どこか「愛が重い」予感がするその瞳に、この時の俺はまだ気づいていなかった。




