サンキューヒーロー街角ヒーロー編
サンキューヒーロー街角ヒーロー編
この話は優しさと感謝の無くなりつつある時代に自分だけは誰にでも親切で優しくあろうとする不器用で一途な高校生雨宮直也の物語である
登場人物紹介
• 雨宮 直也
静かな優しさを貫く高校生。誰に頼まれなくても人助けに奔走し、「ありがとう」の一言に救われると信じている。親切を“趣味”と語るその姿勢は、周囲に理解されないことも多いが、誰よりも人の痛みに寄り添うことができる青年。
• 陽向 凪
明るく芯の強い少女。口は悪いが、誰よりも直也の人柄に共感し、そっと寄り添う存在。照れ隠しの言葉の裏に、まっすぐな思いやりが隠れている。何気ない一言で、直也を支え、導く“風のような”ヒロイン。
• 氷室 玲
一見クールで辛辣だが、その言葉の奥に揺れる想いを抱える少女。世間の視線を気にして直也を遠ざけつつも、過去の出来事を胸に秘めている。気まぐれな行動の裏には、誰かに感化された心の揺らぎがそっと顔をのぞかせる。
一章 優しさの行方
金を払っているだけで、思いやりを押しのける人がいる。
「金払ってるんだからお客様は神様だろ?」
「いただきますなんて要らない。給食費払ってるんだから当然でしょ?」そんな声を聞くたび、胸の奥に冷たいものが流れる。
昔はもっと、人と人とのあいだに、優しさがあったはずだった。
感謝の一言が、誰かの一日を温めていた。今は誰かに親切にすれば「偽善」だとか「点数稼ぎ」と笑われる。それでも、なお。
誰かの「ありがとう」に救われたいと願うのは、
こんな冷えた世界に抗おうとする、最後の祈りなのかもしれない。
──春の雨模様。
雨宮直也は、いつもの通学路を歩いていた。
ふと、歩道の隅に目を向ける。
制服の裾を濡らしながら、じっと立ち尽くす少女がいた。傘を持っていないらしく、小さく身をすくめている。
直也は足を止めると、何のためらいもなく声をかけた。
「どうした? 傘……持ってないのか?」
少女は驚いたように顔を上げた。
直也は黙って、自分の傘の片側を差し出した。
そこへ突然、母親らしき女性が現れた。
状況を誤解したのか、険しい声が雨の空気を裂いた。
「ちょっと! うちの子になにしてるの!」
少女は一瞬、怯えたように直也を見つめる。
母親は直也を睨んで、少女の腕を取り、その場を去ろうとした。
通行人たちは、その様子に見向きもしない。
誰も立ち止まらず、誰も何も言わなかった。
雨が、人々の無関心を包んでいた。
そのとき、少女がうつむきながら、小さな声でぽつりと言った。
「……お兄ちゃんありがとう」
直也は目を見開いた。
その言葉は誰にも届かないくらい、か細くて、小さな音だった。
けれど、彼には確かに届いた。
通り過ぎる誰の目にも映らない、ただ一言の「ありがとう」。
それだけで、胸の奥が少し、温かくなった。
「誰にも気づかれなくていい。
でも、“ありがとう”がもらえたら——それだけで、救われる。」
雨は止みかけていた。
直也は静かに傘を閉じると、足元に残る小さな水たまりを踏みながら、歩き出した。
その背には、誰も気づかない優しさが、そっと寄り添っていた。
「誰にも気づかれなくていい。
でも、“ありがとう”がもらえたら——それだけで、救われる」
2章:学校で
校庭を1人掃除する直也
教室の窓からそれをみている凪と玲
玲「あいつ世間でなんて言われてるか知ってるおせっかい親切の押し売りウザイって」
玲「そんなこと言われてるのに親切続けるなんて馬鹿じゃないの
今も1人で掃除
あんなの点数稼ぎのカッコつけじゃない
凪の表情が少し険しくなる
凪「あいつがなんでそんなことやるのかって他に誰もやらないからじゃない
誰かがやらなきやならないなら俺がやればいいってそんなあいつがカッコつけですって
じゃああんたカッコつけられるの出来ないでしょ
できないのにやってる奴馬鹿にする資格なんかない
笑顔になって校庭の直也に手を振りながら
凪「直也今からあたしが手伝ったげるから感謝しなさいよ
駆け出す凪
凪が手伝いに来て嬉しそうな直也
凪「ねぇあんた世間でおせっかいとか言われてるのしってるの
街の人も最初は感謝してたけどだんだん親切にしてもらって当たり前してもらえないとなんでしてくれないんだみたいな雰囲気になってきて今じゃあんたのこと気にしなくなって無関心じゃないそれなのになんで続けるの」
直也「だって人助けは俺の趣味だから誰かが幸せになればいいそう思ってやってたけど
最近わからなくなってきたんだ」
直「なあ凪聞いて欲しいことがあるんだ」
いつになく真剣な顔で凪に話しかける
戸惑う凪
凪心の声「なによいつになく真剣な顔して告白でもしてくるんじゃあないでしょうね
まあ受けてあげてもいいけどね」
直「なあ凪俺が親切は、趣味って言ってたの覚えてるか」
凪「覚えてるに決まってるでしょあんたの口癖じゃない」
直「誰かが幸せになればそれだけでいいって思ってたけど最近親切にしてもお礼言われることが減って来てさ
お礼が欲しくてやってるつもりないのに
それがなんだか辛いんだ
誰かが幸せになればそれだけでいいなんて言いながら結局は感謝してもらいたかっただけじゃないのかって考えたら
なんだか苦しくて」
凪「何言ってるのよ何かしてあげたら報酬が発生するのが当然何かしてもらったら報酬を払うのが当然なのよ
お店でサービスうけたら料金が発生するじゃない
それがぼったくりじゃなければなにも
問題はないじゃ無い
しかもあんたは感謝の言葉が欲しいだけでしょ
誰も損しないし傷付きもしない
なにが悪いのよ
誰もあんたに感謝しないって言うならあたしがあんたに感謝したげるわよ
あんたには昔助けてもらったからね
辛いならあたしが横にいたげるから頼りなさいよあたしが面倒見たげるから」
直「ありがとう凪
直「やっぱりお前は最高の友達だよ」
凪「友達かぁやっぱりそうだよね
友達としか見られて無いよね
少し寂しそうに凪は呟く
三章変わる心
教室で1人俯く玲
玲「何よ世間の意見を言っただけなのに私が悪者みたいじゃない」
凪と直也見ながら
玲「あーあ見せつけちゃってやる気無くなっちゃったなぁ帰ろ」
学校から帰路に着く玲
何かにつまづく空き缶だ
玲「なによ邪魔ね」
八つ当たり気味に缶を蹴る玲
カーンと乾いた音を立て壁にあたり足元に戻ってくる空き缶
もう一度蹴りかけて何か思い直す玲
玲「そうじゃないわね」
そう呟くと空き缶を拾い上げ少し離れた、ゴミ箱に捨てに行くと
玲「ただの気まぐれよあいつに感化されたんじやないからね」「誰に言うでもなく呟く玲
玲「でも街が綺麗になるのは悪い気分じゃないわね」
四章直也の受難
次の日
慌ただしくどこかに向かう直也
直「凪と玲に公園に呼び出されたけどなんの用だろう」
早く行かないとまた怒らせてしまうあいつら怖いんだよな」
直「商店街抜けた方が近道だよな」
商店街に向かう直也
すさまじく荒れたゴミ捨て場を見つける
直「うわっ今日は特に酷いな
なんとかしたいけど凪たち待たせてるしな」
直「しゃあない大急ぎで片付けるか、なりふり構わずすごい勢いで片付ける直也
身体中ごみの汁やなんだかよくわからない汚れに塗れていく
直也「よし終わった
ちょっと遅れたな急がないと」
公園に向かう直也
公園で待つ凪と玲
玲「あいつまた遅刻よレディ2人待たせるなんて紳士的じゃないわね」
凪「あいつが遅刻するなんていつものことじゃない
あいつに紳士性を求めるなんてカブトムシに紳士性求めるようなもんよ」
玲「ずいぶん辛辣ね」
凪「それより自分でレディって恥ずかしく無いの」
玲「誰も言ってくれないんだから自分で言うしか無いじゃん」
そうこうしてるところに少し間の抜けた聴き覚えのある声がした
直「ごめんごめん遅くなった」
玲「あんたまた遅刻よレディを待たせるなんて失礼よ」
直「え!レディ?どこに?」
玲「目の前にいるだろうが」
直「おお怖えレディースの間違いじゃ無いのか
ドロドロの直也を見て
顔をしかめながら凪が言う
凪「いつも汚いけど今日は特に酷いわね身だしなみには気をつけなさいっていつも言ってるよね
直「こっちは説教かよやっぱり怖え、すいません総長」
凪「レディースじゃ無いって」
凪「しかも汚いだけじゃなく臭いわよ
凪「銭湯の回数券あげるからお風呂入って来なさい」
直「ええ、いいよめんどくさい」
玲「臭いのはあんたよ」
直也「おまえら俺に用があったんじゃないのかよ」
凪玲「そんなゾンビみたいなやつとまともに話なんかできないわよ
凪「それにあんたのことだからまだ人助けするんでしょ
ゾンビに助けられる人が可哀想だわ」
直「俺が迷惑かけたら本末転倒だよな」
わかった行ってくる
玲「凪あんたこいつの扱いうまいわね」
凪「じゃあこれ回数券
人間に戻ったらまた集まりましょ」
直「人間あつかいしてくれないのは流石にひどくない」
凪玲」いまのあんたはそれぐらい酷いってことよ
回数券を受け取る直也
直「ありがとうございます総長ありがたく使わせてもらいます」
凪「まだ言うか」
銭湯に向かう直也
その後をつけて行く2人
凪「見張ってないとまたすぐ脇道に逸れるんだから」
玲「あんたなんだかんだいいながら世話焼きだよね
凪「ほっといたら何しでかすかわからないからよ」
玲「そう言うことにしといてあげようかな
凪「ちょっと行くとこあるから見張りたのむわね」
玲「どこ行くのよ」
凪「あいつの家この近くだから着替えとって来てやろうかと
玲「やっぱり世話女房じゃん
銭湯前
直「よかった無事
銭湯についたぞ
銭湯のおばちゃん「あら兄ちゃん珍しいねあんたが風呂入りに来るなんて
いつも忙しいから風呂入ってる暇ないって通りすぎるのに
直「今日は汚れすぎたから風呂入ってこいってレディースの総長が回数券くれたから」
おばちゃん「総長?
直也の背後から声がかかる
凪「まだ総長なんていってるのいい加減にしなさいよ」
いつのまにか背後にいた凪と玲に驚く直也
直「なんでお前らここに
あんたがちやんとお風呂入るか見張りにきたのよ
それに着替え持ってきてあげたわよ
直「わざわざ家までいったのかよ」
凪「おばさん言ってたわよあんたのことよろしくおねがいしますって
あんまり心配かけるんじゃないわよ」
凪「はい着替え早く人間に戻ってらっしやい
直「ありがとうございます総長
ありがたく使わせてもらいます
凪「まだ言うかいい加減にしなさい」
直「はいおばちゃん回数券」
おばちゃん「あんたたちほんとに仲良いわね」ゴミ捨て場掃除してくれたからドロドロになったんだろう今日はタダでいいよ」
直「駄目駄目
親切に見返り求めないのがおれのポリシーだから」
直「それに掃除はおれの趣味みたいなもんだから好きなことやって報酬もらえないよ
おばちゃん「やっぱりあんた変わってるねじゃあせめてお礼いわせとくれありがとう」
直「おばちゃんそれで充分だよ
はい回数券」
久しぶりにゆっくり風呂に入ったなぁ
シャワーでサッと流して終わりばっかりだったもんな湯船に浸かるのってこんなに気持ちよかったんだな
身体が気持ちいいのはもちろんだけど、さっきのおばちゃんのありがとうが嬉しかったなぁ」
見返り欲しくてやってたんじゃ無いけど喜んでる気持ちが直接わかるありがとうは嬉しいよな最近ちょっと辛かったけど凪とおばちゃんのおかげで少し心が楽になった
銭湯から出る直也
外で待っている凪と玲
直「なんだ待ってたのかよ
凪「見張ってないとあんたまたどっか行っちゃうでしょ
さあ公園行くわよ
公園に着きベンチに座る三人
夕暮れの公園にて
直「で用ってなんだよ
玲
「ちょっとあんたに言わなきゃならないことがあったのを思い出したのよ
なかなか言い出せなかったけど今の1人で孤独に戦ってるあんたみたらちゃんと言わなきゃって思って
玲の回想(小学生時代)
• 四年生の春、人気者だった陽向凪に憧れていた玲
優しくて元気で勉強も運動もできて
そのうえ可愛いとか反則でしょ
凪はすぐ2組の人気者になった
あたしも仲良くなりたかったけどあたしの持ってないもの沢山持ってる彼女が少し嫉ましくて眩しくてうまく接することができなかった
休み時間の度にちょっとからかうような接し方しちゃって
いつのまにか休み時間になると凪ちゃんは教室からいなくなるようになってた
自分が悪いことしてるなんて思って無かったから私のこと避けるなんて酷いって思ってた酷いのは私なのにね
ある日つい凪ちゃんに強くあたっちゃって
そしたら凪ちゃん泣き出しちゃって
ほんとに自分が悪いなんて思ってなかったからこの子なんで泣いてるんだろうって考えてたら突然教室のとびらがあいて直也が入って来たのよね
わたしと凪の前に立って
直「いじめなんてカッコ悪いことやめろよ」っていったのよね
玲「いじめてなんかない遊んでただけよ」直也に言われて凪ちゃん傷つけてたことにやっと気がついたけど
意地になっちゃってみとめられなかった
直「でもその子泣いてるじゃないか」
その言葉には
なにも言い返せなかった
黙って俯いていた凪が顔をあげて不思議そうに直也に聞く「あなただれこのクラスじゃないよね
少し胸を張り得意げに
直「俺か俺は三組のものだ
凪「なにその言い方
思わず吹き出す凪
「直「お、笑ったなもう大丈夫だな」
チャイムが鳴る
直「やばいやばいもどらなきゃ」教室を駆け出す直也
廊下から先生の声が聞こえた
先生「廊下を走るんじゃない
凪と玲は顔を見合わせて呟く
凪玲「なにあれ」
なんとなくぎこちないがニ人のあいだには優しい雰囲気が漂っていた
それから直也のやつしょっちゅう休み時間にニ組にくるようになったのよね
三組違う階なのに
玲「あんたなんでいるのよ」
直「いじめがないかパトロールだ
玲「もうやらないわよ」
違う誰かがやるかもしれないだろ
凪が聞く
凪「聞きたかったんだけどなんで
クラス違うのにあたしが悲しんでるってわかったの」
直「俺誰かが辛そうにしてるのが我慢できないんだ」
直「休み時間毎に一人で寂しそうにしてるおまえ見かけてほっとけなくて
玲「それでずっと見守ってたんだ
まあ凪可愛いもんねいじめの見張りとか言ってほんとは今も凪に会いにきてるんじゃないの
直「馬鹿やめろ人のことストーカーみたいに言うんじゃねえ」
直也のモノローグ
最初は寂しそうにしてる姿がほっとけなかっただけだった
でもいつのまにかいじめを見張るなんて理由つけて会いに通ってた
誰にも言えない秘密だけどな
玲回想
直也のやつしょっちゅう来るからいつのまにか凪と三人で遊ぶようになったんだよね
現在公園
現在玲「あんたのおかげで凪となかよくなれたありがとね
直「おまえが俺に礼なんて珍しいな」
玲「でもあんたも凪と仲良くなれたんだからよかったね
直「だからそういうのやめろって
玲「でもほんとに感謝してるだからちゃんと御礼言っときたくてこの場を設けたのよ
直「仰々しいなでもお前の誠意はうけとったやっぱりありがとうは嬉しいな
玲「それから凪あんたにもいっとかなきゃならないことがあって今更だけどあの時はごめん」
凪「ほんとに今更ね 遅いって」
言葉はきついが怒りの感情は感じられない
直「さて帰るか
暗くなってきたし送って行くよ
玲「カブトムシにも紳士性はあったんだ
直「なにカブトムシって
凪「気にしなくていいよ」
吹き出す凪と玲
優しい風が三人に吹いていた
直「最近ちょっと辛くて落ち込んでたけど今日はいっぱいありがとうもらったからまた頑張れそうだ
凪「頑張るのもそこそこにしときなさいよ暴走して人に迷惑かからない程度にしときなさいよ
玲「私もゾンビに助けられるのは嫌だからね
誰かを助けたからって、世界が劇的に変わるわけじゃない。
だけど、誰かの小さな『ありがとう』が、僕の心をじんわりと温めてくれる。
見返りを求めたくなる日もある。
誰かに誤解されたり、否定されたりすることもある。
それでも、僕は優しさを信じたい。
信じたくなる自分がいる限り、きっとそれは僕の中に灯ってる希望なんだ。
誰にも気づかれなくていい。
ただ、一人でも笑ってくれるなら、
この手を伸ばす理由は、ずっとここにある
これからも誰かのヒーローになれるように
街角ヒーロー 完