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埒外の魔法使いは灰かぶりの少女を見出す  作者: 雲霓藍梨
王都警備隊と近衛騎士団
25/26

狩りの場所は

「ぅ、ぁ、ぁぁ……」

「ぃたい……、いたい……」

「……たすけて、おかあさん……」


 岩肌から滴り落ちる雫が、床に小さな水溜まりを作る。

 反響する、低く唸るような声。

 冷たく濡れた床に肌を擦り付けながら、うずくまる人々。

 身体を震わせ、呻きながら、痛みを忘れるために意識を飛ばそうにも飛ばせず、掠れた声で救いを求めた。


 ——助けは、まだ来ない。



***



「あれ? ライラ、ルナちゃんは?」

「えっと、ちょっとひとりでお散歩に行ってます。賢いので、ちゃんと戻ってきますよ」


 旅の途中、ずっとライラのそばに居たはずの影が見当たらなくて、クレアは辺りをキョロキョロと見回す。

 嘘を吐くたび、胸がツキツキ痛む。でも、クレアを巻き込むわけにはいかない。

 引きつる口元を抑え、精一杯の笑顔を作った。


「ふーん……? まあ確かにルナちゃん、賢かったもんねぇ」


 馬車での長旅にも文句を表すでもないルナの様子を見ていた事で、クレアも一応納得したようだった。


「今日は、ルナちゃんも遊べそうな公園に行こうと思ってたんだけどなぁ……」

「またいつか行けますよ。……きっと」


 それが願望でしかない事は、ライラも分かっていたけれど。




「おーい、ライラちゃん!」


 其処へ商会の従業員の男性が一人、やって来てライラを呼んだ。


「はい、どうしました?」

「今日は例の狩りに行こうと思うんだ。ライラちゃんも来るだろ?」

「ああ!」


 この避暑地遠征の話を聞いた時に、そんな話をした記憶が蘇る。


「そういえば……」

「道中の事があったから、他の奴にライラちゃんの意外な特技はバレちゃったけれど、ライラちゃんも狩りをするの、楽しみにしてただろう?」

「はい。……でも、どこでするんですか?」


 弓を使った狩りを楽しみにしていたのは事実だったが、今は他に心配事もあってそれほど乗り気にはなれなかった……が。


「狩りをするのは、あっちの山だよ。……グラジオラス子爵領との境あたりだな」

「っ!!」


 頭の中で警鐘が鳴り響く。


 ——そこは、“あの洞窟”に近い。


 それは、避暑地のあるテッセン領と、グラジオラス子爵領の間を隔てる山——例の人体実験が行われている場所だった。


「あ、あのっ! ……本当に、其処で狩りをするんですか?」

(どうか、危険な場所へは行かないで……)


 震える心を押し込めて、男に確認するライラ。

 しかし無情にも願いは届かず、あっさりと男は頷く。


「ああ。毎年あの山で狩りをするのが恒例だからな。彼処は良い獲物が居るんだよ」

「そう、ですか……」


 提示する事のできる反論要素が無くて、それ以上何も言えなかった。


(どうしよう……。もし、危険があるなら、私が皆を守るしか——)


「それで、どう? 明日もあるけど、今日からライラちゃんも参加する?」


 尋ねられた参加の是非には。


「——行きます」


 固く握った拳に、決意を込めた。

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