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埒外の魔法使いは灰かぶりの少女を見出す  作者: 雲霓藍梨
王都警備隊と近衛騎士団
24/26

救援要請

 月明かりのない、新月の夜。

 月の魔力に頼れず、もっとも魔力の消費が激しい時だ。だが、事態は急を要する中、そんな事をライラは気にしていられなかった。


 ルナを召喚した時と同じように、持って来ていたペンとインクで魔法陣を描く。


 新月から満月、 二十五夜月(逆三日月)まで——八つの月相で円をかたどった。


 塗り潰された月の部位が光源となるのは同じだが、あの時より随分と光が弱い。


 ナイフで指を傷付け中心に血液を零すと、其処から浮かび上がった何十もの光がふわりふわりと立ち昇る。


 描いた月相が満月から順に明滅し一周すると、最後に新月を表わす縁取りが他より強く輝きを放った。



「我が血、我が魔力を捧げ、ライラック=セレーネ=スターチスの名に於いて命ずる。我が契約精霊ルナよ、我が命に従い帰還せよ!」


(お願いっ、どうか間に合って——!)



 月から借りれない魔力の分を自身の魔力で補い、ライラは魔法陣に魔力を注ぎ込む。


『——行ってくるわね、ライラ』


 ライラの逆召喚呪文と共に、魔力が満たされた魔法陣が青白い光を放ち、その上に飛び乗ったルナの姿がフッと消える。


「ッハァ……。ルナ、どうかお願い……。これで駄目なら、もう誰も助けられないかも知れない……」


 間に合って欲しい。

 多くの人の命が(もてあそ)ばれる、その前に。






『っふぅ……』


 逆召喚により、《禁じられた森》へ転送されたルナは、伏せていた身体を起こすと、ブルリと身を震わせて気合を入れた。


『——よし。見られないように魔法を使って、一気に駆け抜けるわよ』

(ライラ。アンタの努力を、きっと無駄にはしないわ)


 走り出したルナは、黒い矢のように速い。

 その速度は猫の数倍大きな馬の走りと同等で、王都までは四半日ほど掛かるかと思われた。


「……あら? ルナの声がしたと思ったのだけれど……。帰って来た訳じゃ無かったのかしら?」


 村のとある家から出てきた紫髪の女性——ライラの母アネモネは、月の無い夜空を見上げ、呟く。


「何か、悪い事が起こって無ければ良いのだけれど——」




***




『ルーカスッ』

「……ん?」


 明朝早く。

 周囲に誰も居ないはずの詰め所訓練場で、ルーカスは聞き覚えのある声に、剣を振る腕を止めた。


『ルーカス、アタシ。ライラの契約精霊、ルナよ』


 その言葉に声の主を思い出し、視線を下へ向ける。

 早朝の風が、拭っていない汗を冷やし、身体の熱を冷ましていく。


「——君は、ライラと一緒に避暑地に行っているのでは無かったか?」


 「なぜ此処に?」と眉間に皺を寄せ、ルーカスは訝しむ。


『ええまあ、そうだったのだけれど、大きな問題があってね……。アナタに助けを求めたくて、アタシだけ戻って来たの』


 ルナは辺りを見回して、人が居ない事を再度確認すると、告げた。


『グラジオラス子爵が、“人間”を魔物化する実験をしようとしているわ。その背後には、ダリア侯爵も居るみたい』


 ルーカスは自分の顔が強張ったのを感じた。思った以上に悪い事態に、眉間に皺を寄せる。


(最悪だ。被害は王都が中心では無かった訳か……)


 直ぐに助けに行けない事が、とかく歯痒い。


「……場所は、何処だ?」

『グラジオラス子爵領の北の洞窟よ。街の外れ、銀の採掘場跡地として知られているわ』

「……部隊の編成と移動を合わせると、二日掛かる。——それでも持ちそうか?」

『どうかしらね……。動物実験が成功した、という話だったけれど、人間は意思があるから魔石との融合は時間が掛かるはず……』


 動物に埋め込まれた魔石が、どれくらいで融合したのかも分からない今、憶測を述べるべきでは無い。


「分かった。至急、警備隊長と騎士団長に報告して、向かえるようにする」

『——よろしく頼んだわよ、ルーカス』


 しっかりと頷いたルーカスは、ルナに背を向け詰め所内へと早足で去って行く。

 その足取りには、強い覚悟が宿っていた。





 ——とさり。

 使命を終えたルナは、よろよろと茂みまで移動すると、その全身から力を抜いた。


(はぁ……はぁ……。流石に六時間も魔力を使い続けて走るのは、疲れるわね……)


 身体を丸めて、休息を取る。


(本当、ライラの事を人任せにしなくちゃならないなんて、契約精霊として失格だわ……)


 ——それでも。

 彼女の願いを叶えるのも、契約精霊の定めだから。


 ルナは両前脚に顔を伏せると、意識を飛ばした——。

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