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埒外の魔法使いは灰かぶりの少女を見出す  作者: 雲霓藍梨
王都警備隊と近衛騎士団
22/26

報告

 野営地へ持ち帰った犬の死体に、夜番の二人は目を丸く見開いた。


「それ、どうしたんだ?」

「何かあったのか?」


「森の中で襲って来たんです。犬種的に元は人に飼われてた犬だと思うんですけど、様子がおかしくて……。ずっとこちらを狙ってくるから、倒してしまいました」


 焚き火の光がある所で、犬の身体を確認する。

 触れると、胸の辺りに傷跡と、中にしこりのような物がある事が分かった。


「……これ、なんだろ」

『——切り開いて、中を確認しなさいな。絶対ロクなモンじゃ無いと思うけど』


 ルナの言う通りに、真っ直ぐな傷跡をそのままなぞるように死体の胸を切り裂く。


「っ!?」

『これ……』


 そして出て来た“しこり”の正体に、息を呑む。

 焚き火の赤い光に照らし出されて、“それ”は強く赤い光を反射した。


「ライラちゃん? どうした?」


 動きを止めたライラを訝しく思った見張りの片方が、彼女に近付く。


「あの、これが犬の中から……」

「はっ?! いや、いやいやいや……」


 ライラの手の中の物を見た男も動揺して、もう一人も見に来る。


「なんだ? ………それ、魔石じゃねぇか」

「ああ……。犬の身体から出て来たらしい」

「はぁっ?! 魔石は魔物にしかないだろ?!」


 ——そう。魔物にしか無いはずの魔石が、動物である犬から出て来たのだ。

 しかも丁度、魔石を出し入れできそうな大きさの傷の下から。


「……誰かが、この犬に魔石を埋め込んだみたい……」

「なんだって?!」

「そりゃ穏やかじゃねぇな……」



 男達はその夜、交代時間になっても寝ることをせず、焚き火の傍で剣を膝に、静かに警戒を続けた。


「魔石を埋め込まれた犬なんて、聞いたことがねぇ……」

「ありゃあ、“魔物を作ってる”って事じゃねぇのか?」


 焚き火の明かりに照らされる顔には、静かな恐怖が宿っていた。



 しかし朝になり全員が目覚める時まで何も起こらず、警戒は杞憂に終わり。


「——そうか。夜中にそんな事が……」

「とりあえず、ライラちゃんが無事で良かったよ。何があるのか分からないんだから、夜の森に入るのは控えてくれ」


 報告後、ルプスとラルフに注意されたライラは、心配をかけた事に気付き、「……はい」と小さく肩を落とした。


(……でも、誰かが魔物か“何か”を作ろうとしてるのは、確かかも知れない)


「この辺りは何処の領地だったかな?」

「グラジオラス子爵だね。……あまり良い噂は聞かないが……」


 どうも横暴で、金にがめつい領主の治める土地らしく。魔石の埋め込まれた犬が出たという話をしても、対処してはくれないだろう、という事だった。


「え、じゃあどうするんですか?」

「誰か早馬で戻らせて、騎士団に報告かな。王都警備隊は、王都が管轄だろうし」


「あ、あの、ナハト村で行方不明者がいるって噂も聞いたので、その事も伝えてくれませんか……?」

「ほう……? 何か心当たりがあるのか?」


 ルプスの目が、細まる。

 危険はなるべく避けて、旅する必要があった。


「ルーカスさんに、王都でも行方不明者が増えてるって聞いてて、騎士団と合同調査するって話なんです。だから……」

「……分かった。早馬に行ってもらう者には、伝えておこう」


 ——そうして、乗馬が出来て野生動物が出ても対処できる者達を三人ほど選び、早馬で来た道を引き返させたのだった。




***




「——何? ファング商会の旅中に、魔石持ちの野犬が出ただと?」


 騎士団との合同調査中、連絡役の騎士からもたらされた報告書に、ルーカスは眉間に皺を寄せた。


「はっ。グラジオラス子爵領で発見し、明朝すぐに早馬で三人ほど報告に戻らせ。残りは元の予定通り旅を続けている、との事です」

「そうか……」


 その場に居ただろう、旅を楽しみにしていた友人の姿を思い起こす。

 ファング商会にとっては仕事でもある為、戻って来いとも言えなかった。

 ——現在は王都も、あまり治安が良いとは言えない。

 駆け付けられぬ立場と状況に、強く拳を握った。



 ゆっくりと近付く悪意に、今はまだ何も対処する事が出来なかった。




***




 ——旅は続く。

 森を抜け、またひとつの村を抜けて。

 ファング商会一行は、あの後問題に出くわす事も無いまま、昼過ぎ頃に目的の地、テッセン領都へと辿り着いた。


「ん〜! 王都の夏よりやっぱり涼しいわねぇ……」

「そうですか? 少し暑いくらいだと思いますけど……」


 都会っ子のクレアは馬車から降りて大きく伸びをすると、街路樹が多く、王都より幾分涼しげな街並みに息を吐いた。

 ライラは《禁じられた森》の中のスターチス村より、若干暑いこの領都に、王都で夏を過ごしてたらどうなっていたのか、と恐ろしくなる。


「……とりあえず、荷物を置いて観光しましょ! 避暑地の領都だから、夜でも開いてる店は多いと思うけど」

「はいっ!」



 観光を楽しみにしていたライラは、これから巻き込まれる事になる運命を、まだこの時は欠片も感じていなかった——。

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