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埒外の魔法使いは灰かぶりの少女を見出す  作者: 雲霓藍梨
王都警備隊と近衛騎士団
19/26

騎士団長の依頼

「しかし、大きくなったなぁ、ライラ」

「えっと、ニールさんはお変わりない様で良かったです!」


 地に膝をつく息子を放って、騎士団長ニールはライラへ話し掛けた。それに少々戸惑ったライラだったが、自身を知る懐かしい人との再会がケネスに(まさ)った。


「ウィリアム殿下に、君が王都に来ている事は聞いていたが…。まさか息子の初恋を奪っていってるとはなぁ」

「え?………恋?」

「あー、騎士団長。ライラはその辺り、気付いて無さそうだったのですが…」


 親に恋心を本人へ暴露された事を憐れむ視線が、ルーカスからケネスに向けられる。


「おおそうか。まあ、もう終わった事だし構わんだろう。

 ——それよりライラ、」


 スッと細められた視線が向けられて、ライラは姿勢を正す。ルーカスも、ニールの方へと視線を戻した。


「ルーカスとも知り合いだったなら聞いているかも知れないが、近頃誘拐と思わしい失踪事件が相次いでいる。この合同訓練期間から、騎士団と警備隊で合同捜査する事になっている。

 ……無ければ良いとは思っているが、もしかしたら極秘で君の“チカラ”を頼る事があるかも知れない。心しておいてくれ」

「っ、騎士団長、ライラは力があったとしても、まだ少女と言っても良い一般人のはずです…!」


 ライラの身を案じて、反論したルーカスだったが、彼女は「分かりました」と受け入れてしまった。


「ライラ、君は…!」

「……ありがとう、ルーカスさん」


 微笑んだライラは、ルーカスに向き直り、その紫の瞳を見つめた。


「心配してくれるのは嬉しい。けど、私にも出来る事があるって、ニールさんが言ってくれてるから」

「………それなら、無理はしないと、約束してくれ」


 神妙に頷いて、ライラは改めて事件の事を頭に入れておく事にした。



***



「ルーカス隊長の勝利を祝して!乾杯!」

「かんぱ〜い!」


 ガヤガヤとした此処は、警備隊行きつけだという食堂だ。主役であるルーカスに連れられて、ライラも祝いの席にやって来ていた。

 ルーカス曰く、「俺だけでは部下達を萎縮させるかも知れないから」との名目で。——本当は、クリフが居る為そんな事にならないし、ニールの依頼の事があるので警備隊のメンバーと顔繋ぎをしてくれるんだろうと、ライラも分かっているけれど。


「……騒がしいな」

「え、楽しいよ?色んな人と喋りながらご飯食べるの」


 グラスの音と楽しげな声が重なる中、目を細めたルーカスに、ライラは首を捻る。それに彼は「いや、」と首を振った。


「嫌だと思っている訳では無い。ただ、慣れないだけだ」

「家族と一緒に食べる時は、こんな感じじゃ無かったの…?」

「…………父が、厳格だったからな」


 一瞬、表情を無くしたルーカスの瞳に影が出来て、ライラは戸惑った。


(妹さんの話をしている時は、優しそうな顔をしていたのに…)


 それ以上その会話を続けられず、ヒヤリとした空気が流れる間に、クリフの朗らかな声が割って入った。


「お二人さん、楽しんでるかー?」


 皿を片手に、クリフがひょいと顔をのぞかせる。

 ライラはすぐに笑顔を取り戻して、にこりと答えた。


「賑やかな食事は久しぶりで、楽しいです」

「……まあ、騒がしいのは嫌いでは無い」


 先ほど二人でした会話と同じ事を口にして、思わず互いに目を合わせて小さく笑い合う。

 それを見ていたクリフは、心底驚いたように目を見開いた。


「おお……ルーカス、お前、笑ったな?」


 からかうように言ったが、その声音にはどこか感動すら滲んでいた。

 仕事で共に過ごす中、あの硬いルーカスの笑顔を目にするのは、彼にとっても初めてだったのだ。


「おー。以前の隊長、もっと無口で近寄りがたかったのにな。誰とも飯行かねぇし」

「そうそう。なんか雰囲気柔らかくなったよな」

「この前、他の隊のヤツらに聞いたんだけど、隊長が友人だっていう女の子が質問責めにしてても怒ってなかったから、『意外と優しい?』って思ったんだってよ」


 別れたテーブルの方から、そんな声が聞こえてくる。


「お前ら…本人いる所で言うか?普通」

「いや、その“女の子”がライラちゃんなのか確かめたかったというか、な?」


 半目でそちらを見たクリフに、笑ってジョッキを持ち上げる隊員達。気安い態度に、仲の良さがうかがい知れた。


「……そうだな。俺が変わったと言うなら、彼女のお陰だろう」

「おお、素直に肯定されると中々ツッコミ辛いな…」

「?何も間違っていないのだが…」


 ルーカスから恐れられていると聞いていたライラだったけれど、この場の雰囲気は温かく、彼が受け入れられるようになったと聞いて、笑みがこぼれる。


「良かったね、ルーカスさん」

「ありがとう、ライラ」


 微笑み合っていると、「ふーん?」と横からニヤニヤとした顔が覗く。


「仲が良いな。こりゃケネス様に負けられない訳だ」

「あ、そうでした。……あの時は、本当にありがとう、ルーカスさん」


 ふと、ライラの表情に翳りが差す。

 あの言葉——『ルーカスと友達でいるのをやめろ』——を思い出すと、今でも胸が苦しくなる。


「……彼が勝っていたら、どうなっていたのかと思うと、ちょっと怖いよ」

「君の友人を決めるのは君自身だからな。……大体、俺一人を避けた所で、君の周りから男が居なくなる訳では無いし」

「あー、“あの方”も居るしなぁ…」


 ルーカスとクリフの脳裏に浮かんだのは、同一人物だった。いつも彼らを振り回す、それでも憎めない王族——ウィリアム。

 魔法使いである事を隠していればただの町娘だというのに、そんなライラが王子と友人だなんて、誰が信じると言うのだろうか。


(……いつかこの朗らかな笑顔が傷付かなければ良い)


 ルーカスはそっとライラの横顔を見た。

 賑やかな食堂の中、彼の目には殊更眩しく映る。

 改めて巻き込みたくは無いな、と早めの事件解決を決意した。

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