トーナメント:クリフの戦い
「それでは、これより騎士団と第三警備隊のトーナメント戦を開始する!第一試合の者は前へ!」
午後の合同訓練は、その日参加している騎士団と警備隊の実力上位四名ずつを選出して、トーナメント形式の試合を行うらしい。
いくらお飾り騎士と言われようと、上位者はちゃんと強いし、騎士団にも保たなければならない面目がある。
ケネスは二試合目で、ルーカスは四試合目だという事で、二人が戦うとしたら決勝になる。それまでにどちらかが負けるとは考えていない様なのが、ライラには印象的だった。
そしてこの試合は、騎士団・警備隊双方の幹部候補を見繕う為の試合でもあるので、観覧席の一番観戦しやすい位置には、騎士団長と第一警備隊長が見学に来ていた。
(そっか、騎士団長って事は、ケネス様のお父様よね)
何処か見覚えのある顔だった彼に、納得するライラ。
相変わらず、見学中の令嬢達やクレア達もキャーキャー高い声で騒いでいる。
「ケネス様、第二試合ですって」
「ジェラルド様は第三試合よね?」
そして騒いでいる皆が目当てにするのは、やはり見目の良い騎士達で。
ケネスと、そして午前中の訓練でも名前を聞いたジェラルドなる人物が人気を二分している様だった。
(あ、クリフさんだ)
そして第一試合、騎士の一人と相対する様に訓練場の中心に進み出たのは、ルーカスの相棒、クリフだった。
暫くぶりに見るその姿に、「頑張って!」と応援の声を掛ける。
「!」
ライラの声援に少々驚いた様子を見せるも、クリフはへらりと笑いながら会釈を返し、相手に向き直る。
試合前の礼をしてから、スッと剣を抜いて試合相手に向けた表情は、今まで見て来たふざけた態度で無く、真剣なものへと変わっていた。
「両者、前へ!」
審判の声に従い、訓練場の中心へと進み出る二人。
右手に剣、左手に小盾を構えるのは、第三警備隊所属のクリフ。
対するは、騎士団の中でも選抜された青年騎士。細剣を華麗に振るい、いかにも貴族らしい気品を纏っていた。
「——始め!」
合図と同時に、両者が肉薄する。
僅かにスピードの速い騎士が先手を打ち、細剣を突き出す。獲物は薄く、速い。しかし相手より戦い慣れたクリフは、わずかに身を捻り、その細剣の軌道を紙一重で外した。左腕の盾がギリギリで剣の腹を滑らせ、斬撃を殺す。
右手の剣を振り下ろすが、それを騎士が剣で受け止める。
「チッ、なんだ、平民のくせに。可愛い子から立派な声援もらいやがって」
「彼女は優しい子ですから。知り合いなだけの俺にも、応援してくれるんですよ、っと!」
言葉と同時に、絡み合う剣を振り払う。
「チッ……!」
相手は後方に飛び退き、間一髪でバランスを取り直した。
「ま、俺より騎士サマの方が応援されてるでしょ。——ああ、アンタはされてないか」
「……あ゛?」
「……応援されてるのも、あの二人ばっかりだぜ?」
替わりに振るった剣は、避ける事で流される。けれど相手の騎士の平静を見出すことには成功した。怒りに気を取られた隙を、クリフは見逃さない。
キンキンッ
連続で振るわれる攻撃に対し、騎士は受け流すのがやっとだった。間合いの管理、重さのある打ち込み、そして盾の扱い。そのすべてが、実戦で鍛えられた兵士の戦いだった。
やがて、盾で手元を弾かれた騎士の剣が高く跳ね上がり、地に落ちる。
それを見届けると、クリフは相手の喉元に剣を突きつけた。
「……勝負、あり!」
審判の声が響く。
その瞬間、観客席が静まり返る。
クリフはそっと剣を納め、相手に軽く会釈をする。そして、観客席に向かって手を振った。
「——頑張って、って言ってもらったしな」
その言葉が届いたのかどうか、観客席のライラが嬉しそうに拍手で迎えていた。
その後、第二試合はケネス、第三試合ジェラルド、第四試合はルーカスが勝ち上がった。
ケネスはサーベル、ジェラルドは剣状刃の槍、ルーカスがブロードソードを得物としていて、武器も、戦い方も、それぞれ違って。
勝ち抜いた四人は、ちゃんと強い事が側から見ても分かる強さだった。
次の試合は、第一試合を勝ち抜いたクリフと、第二試合を勝ち抜いたケネスで行われる第五試合だ。
どちらも知り合いであるライラは、どちらに声援を送れば良いのか迷い、結局両方に声援を送ることにした。
「クリフさん!ケネス様!頑張ってくださ〜い!」
「彼女に応援されるのは嬉しいね。だが、君まで応援されるのは気に食わないな」
「アンタもですか。大体、俺にそんな事言われても…」
「アンタの方が沢山の人から応援されてるでしょうが」とクリフは溜息を吐いた。
「自分だけに好きな娘からの応援が欲しいのは、間違ってないだろう?」
「……ああハイハイ、そういうコトね」
休憩から帰ってきた隊長がエラい怖い雰囲気してると思ったら…。
呟かれた愚痴に返る言葉など無く。その後の試合もクリフは善戦したものの、ライラに情け無い所は見せられぬと奮起したケネスに負けてしまった。
(後は任せましたよ、ルーカス隊長)
クリフは入れ替わりに試合場所へ出て行くその背を見送った。




