第八章 救出(1)
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第八章 救 出
「あの者の傷の具合はどうだ?」
ぐったりしたままのカナンを別室へ運んだ後、再び戻ってきたザンファーに、グリーナウェイは尋ねた。
ザンファーは眉を曇らせて答えた。
「良くありません。あれほど打ち据えられては………ただ、命に別状はないかと。今、ハナが侍女の控室にて手当てしております」
「そうか」
グリーナウェイはナタリア公妃の客室を見やった。
「平民の分際で正貴族に口答えするとは、なかなか度胸のある小僧だ。だが、もうこれで懲りたろう」
その正貴族の、しかも自分の主君の公妃の腕を掴んで制止したグリーナウェイもかなりの度胸の持ち主だと、ザンファーは心の内で呟いた。上官の行為に驚きはしたが、同時に胸がすく思いがしたザンファーである。
きっと、他の騎士たちも同意見であるに違いない。
「見張りは?」
「ジェスターレイヴァが」
「そうか。念の為お前も行け」
「はっ」
ザンファーが踵を返しかけた時、
「グリーナウェイ卿………!」
ナタリアの客室の警護の為に扉の前に立っていたクロップトが、突然驚いたように声を上げた。
彼の視線を辿ったグリーナウェイとザンファーは、同時に息を飲んだ。
一度見たら忘れられない、満天の星も月も霞むほど美しい予言者が、昨日も側に控えていた大柄な男……制服は着ていないが、状況から見て彼女を護衛する騎士だろう……を従えて近付いて来ていたのだ。
何故、今、ここに?
ボルトカ国の騎士たちの間に緊張が走る。
ザンファーはやや青ざめた顔でグリーナウェイに耳打ちした。
「まさか………今朝、我らがやった事も彼女には全てお見通しなのでは………」
「黙れ!」
グリーナウェイは小声でザンファーを叱責すると、マリエルに向かって慇懃に一礼した、
「おはようございます、レディ・マリエル」
マリエルは、朝日を浴びて燦然と咲き誇る大輪の花のような艶やかな微笑みを浮かべた。
「おはようございます、グリーナウェイ卿。ナタリア公妃にお目通りしたいのですが、お取次ぎ願えますか?」
こんな状況にも関わらず、ザンファーは思わずマリエルに見惚れてしまっていた。
こんなにも美しく気品に満ち溢れた女性がこの世に存在しようとは。
このような貴婦人に仕える事が出来るとは、あのガラハイド国の騎士はなんと幸運な男だろう。
そっとクロップトを見やると、彼も年甲斐もなく魂を抜き取られたかのような惚けた表情でマリエルを見つめている。
違うのはグリーナウェイだけだった。
「失礼ながら、いかようなご用件でございましょう?」
「予言を視ました。ナタリア公妃に、ひいてはご子息ケスタール公子にも関わる予言を」
「!」
今、このタイミングで?
ボルトカ国の騎士たちは疑わずにはいられなかった。マリエルの従者を拉致した事に対する後ろめたさから。
グリーナウェイはややしゃがれた声で問い返した。
「それは………真でございますか?」
「昨夜も申し上げましたでしょう? 予言とは時と場所を選ばぬものだと。どのような予言かは、ナタリア公妃に直接お伝え致します。………取り次いで頂けますか? グリーナウェイ卿」
「ええ………ええ、もちろんです。しばしお待ちを」
「お願いします」
マリエルは穏やかに言った。
彼女は従者の事は知らないのか?
ボルトカ国の騎士たちは混乱した。
それとも、知っているのに素知らぬふりをしているのか?
グリーナウェイは、ナタリアの客室の扉をノックする前にザンファーに指示した。
「何をしている。早くジェスターレイヴァの所へ行け」
「は、はい」
小走りに去って行くザンファーを見送り、グリーナウェイは扉をノックした。
中から、いつも通りの苛立った声が響いた。
「何じゃ!?」
「失礼致します、公妃」
グリーナウェイが中に入ると、少し前にカナンを手酷く殴り続けた事などもう忘れてしまったかのように、ナタリアは優雅に長椅子に身を預けお茶を飲んでいた。テーブルには、チョコレートと砕いたアーモンドがたっぷりかかった王冠の形をしたケーキが置いてある。マエナにさせたのだろう、乱れた髪は完璧に整え直し、扇子も新しい物を持っていた。ドレスも着替えているのは、カナンを何度も殴ったせいで彼の血がドレスに飛び散ってしまったからだ。
部屋に入ったグリーナウェイは、扉をしっかりと閉めてからやや抑えた声でナタリアに言った。
「公妃、レディ・マリエルがお見えでございます。公妃やケスタール公子に関わる予言を視たのでお伝えしたい、と」
「何!?」
ナタリアはバッと身を起こした。
「それはまことか!? 何をしておる、すぐに通せ!」
「しかし………」
躊躇するグリーナウェイに、
「ケスタールに関わる予言と言うたのであろう!? ならば公子妃候補に関する予言に違いない! 昨夜のうちにさっさと視ておればよいものを、勿体ぶりおって。小賢しい。早く通すのじゃ!」
グリーナウェイは不承不承に頭を下げた。
「………御意」
それから、彼は螺鈿細工の丸テーブルの上に放置されたままのアリアンテを示した。
「ですが、その前にあれを隠さなければなりません。レディ・マリエルの目に触れるのはまずいかと」
「おお、そうじゃな。………マエナ! その水晶の首飾りをわたくしの宝石箱にしまうのじゃ」
「わたしが………ですか?」
マエナは怯えたようにナタリアの顔とアリアンテを交互に見た。
無理もない。アガノアの火傷の手当てをしたのは彼女なのだから。
ナタリアは苛々と叱責した。
「さっさとせぬか! こののろまめが!」
「………は、はい」
まるで猛毒を持つ蛇に近づくかのように、マエナは恐る恐るアリアンテに手を伸ばした。
「……っ!」
指が水晶に触れた瞬間、思わずぎゅっと目をつぶる。
しかし、マエナが……ナタリアとグリーナウェイも……予想していたひどい火傷と激痛は、マエナの華奢な手にはもたらされなかった。
「…………え?」
マエナは、わけがわからないというふうに掌の中の水晶の首飾りを見下ろした。
「何ともないのか?」
怪訝そうにグリーナウェイが問う。
マエナは戸惑った表情で答えた。
「いえ………痛みは感じますが、それほどでは………」
真冬に、冷たい川の水に手を入れた時に感じる程度の痛みだった。
どういう事だ?
グリーナウェイは困惑した。相手によってこれほど違いが出るとは。クロップトは昏倒し、アガノアは手に当分の間剣を握れぬほどのひどい火傷を負った。
だが、マエナは大して痛みを感じていない。
まるでこの水晶の首飾りに意思があって、人を選んでいるかのように。
いや。そんなまさか。
グリーナウェイは口元に苦笑いを浮かべると、軽く頭を振った。
水晶はただの水晶だ。意思などあるはずがない。きっと何か仕掛けがあるのだ。
これは、ますます何としてもあの持ち主の少年から水晶の首飾りの秘密を聞き出さなければ。使い方がわからなければ、ハニアール公のお役には立てない。
マエナが……まだおっかなびっくりしつつ……アリアンテを主人の宝石箱にしまったのを確認してから、グリーナウェイは扉を開けた。
「お待たせ致しました、レディ・マリエル。公妃がお会いになられます」
*
「………痛…っ」
血が滲み痣だらけの顔に冷たい水に浸した布を当てられ、カナンは小さく悲鳴を上げた。
「ご、ごめんなさい」
反射的に謝るハナに、カナンは腫れ上がった唇で微笑んだ。
「君が謝る事ないよ………これは君がやった事じゃないし」
「でも………ごめんなさい。本当に」
ハナは俯き、手の布をぎゅっと握り締めた。
日頃から、家臣領民に対するナタリアのひどい仕打ちの数々を側近くで見てきた。ハナとマエナも何度折檻されたことか。
ナタリアの得意技は、先ほどカナンにやっていたように扇子で容赦なく打ち据える事で、マエナの左手の二本の指はその時の後遺症で歪んでいる。折れた状態のまま、そのあと何時間もナタリアの身支度を手伝わされたせいだ。マエナがナタリアの耳飾りを取り落としてしまった事が原因だった。
ハナは、代わりの者を呼ぶからどうか妹に手当てを受けさせて欲しいと懇願したが、ナタリアは許さなかった。打ち据えたのが利き手の方ではなかった事に感謝しろと、ナタリアは冷酷に言い放った。
今回のカナンに対する仕打ちも、グリーナウェイが止めなければどうなっていたか。
かと言って、一介の侍女にすぎないハナには、主人であるナタリアを止める術などなかった。
いつものようにただ見ているしか。
「あれ………もしかして僕の荷物?」
カナンの問いにハナは顔を上げた。
カナンが示した先には、無造作に部屋の隅に放置された布袋があった。
ハナは頷いた。
「ええ」
カナンをさらった場所に彼の荷物だけ残しておくのは得策ではないと判断したグリーナウェイが、部下にそれも回収させたのだ。
「こっちに持って来てくれる?」
「え? ええ」
カナンは痛みに呻きつつ何とか上半身を起こすと、ハナから受け取った布袋を開いて中をゴソゴソ探った。
「あった………これだ」
彼は布袋の中から小さな袋を取り出すと、ハナへ差し出した。
「この中身を水に溶いて、それから布に浸してくれる?」
「これは何?」
「マリーゴールドとカエナリスの粉。他にもいろいろ入ってるけど。こういう傷に効く湿布になるんだ」
「わかったわ」
指示通りにしながら、ハナは感心したように言った。
「あなた、本当に薬師なのね。まだこんなに若いのに。立派だわ」
カナンは内心苦笑した。多分、彼女が思っているほど自分は彼女より年下ではないはずだ。下手をすると同い年くらいかもしれない。
今は、とても訂正する気力などなかったが。
薬に浸した布をカナンの顔にそっと当て、ハナは尋ねた。
「これでいい?」
「うん。ありがとう」
顔をしかめつつカナンは頷いた。
ワクトー直伝のこの傷薬は、効き目はあるが恐ろしく傷にしみるのだ。まさか、これを自分に使う日が来るとは思わなかった。
以前これを使ったのは、ハネストウの薬屋で働いていた時に馬車に轢かれた男に対してだった。手当てを受けている間中、彼は「轢かれた時より痛い」と悲鳴を上げ続けていた。
シエル村では、ワクトーは熊に襲われた村人によくこれを使っていた。あまりに傷にしみるので、村人たちはこの薬の事を冗談と皮肉を込めて「熊の鉤爪」と呼んだものだ。
カナンはふうと息をついた。
祖父から教わった薬を使うと、彼の存在を身近に感じられるような気がする。
薬草を集めている時、祖父の指示する声を思い出すように。
血だけではなく技も継いだのか。それは良い事だ。
ジーヴァの言葉が脳裏に浮かんだ。
また、この薬の材料を集めなきゃな。
痛みで霞む頭で、カナンはぼんやりとそう思った。
「いつからレディ・マリエルの従者をしているの?」
しばらくしてハナが尋ねてきた。
「えーと…………まだそんなには経ってないよ」
本当は従者ではないのだが。
本当の事は言えないので、何となく歯切れの悪い返答になってしまったカナンである。
しかし、当然ながらそんな事は知らないハナは、しみじみと言った。
「きっと素敵な方なのでしょうね、レディ・マリエルは。ボルトカ国にもあの方の噂は伝わってきているわ。洪水から領民を救った優れた予言者。とてもお美しくて、賢くて、お優しくて、クレメンツ公にも領民にも信頼されている立派な方だって。そんな方に仕えられるあなたが羨ましい」
「君は大変そうだね」
「ええ。とても」
ハナは苦笑いをこぼした。
「時々、本当に嫌になるわ。私も、妹のマエナも」
「嫌なら辞めればいいのに。あんな公妃の侍女なんか」
ハナは悲しげに頭を横に振った。
「そう簡単にはいかないわ。きっとお許しも出ないだろうし。公妃様は、双子の使用人をお側に置く事にこだわっておられるの。双子は初代聖王陛下を表わす吉兆だから。無理に辞めたりしたら、公妃様のお怒りを買って、きっとボルトカ国にはいられなくなってしまうわ。私たち姉妹だけじゃなく、両親や弟たちも」
ハナは苦い溜め息を膝に落とした。
「…………どうして、私たち姉妹は双子に生まれてしまったのかしら。もし双子でなかったら、私たちみたいな貧しい農民の娘が公妃様の侍女に召し抱えられる事なんてなかったのに」
カナンは俯いた。
「…………ごめん。無責任な事を言って」
プレストウィック国でもクリッティが言っていた。領主が戦を始めても、自分たちはただじっと息を潜めて嵐が通り過ぎるのを待つしかない、と。
どこの国でも、領民たちの命運は領主で………主君で決まる。自分たちではどうしようもない。
クリッティやハナ姉妹のような平民だけではない。准貴族であろうと同様だ。アニガンは………彼の家族はどうなった?
こんな非道の数々がまかり通っているなんて。
再び〈天の民〉が攻めてきたのは、世界に穢れをまき散らす〈地の民〉を滅ぼす為だと、〈天の民〉は言う。
今の自分の有様を見ると、彼らの言葉は正しいのではないかとさえ思えてくる。
カナンは布袋に視線をやった。ベヴから貰った麦の穂が覗いていた。布袋もカナンと同様乱暴に扱われたのだろう、麦の穂は粉々に折れてしまっていた。
ベヴの心遣いを踏みにじられたような気がして、カナンは悔しさに歯を食いしめた。
ふいに扉がノックされた。
「はい?」
部屋の外で見張りをしているジェスターレイヴァだろうと思ったハナは、立ち上がると何の疑念も抱かず扉を開けた。
途端、何かが彼女にぶつかってきた。
「きゃ…っ!」
ぶつかってきたのはジェスターレイヴァだった。押されて背中を壁に打ちつけたハナを掠め、ジェスターレイヴァはそのまま声もなく床に崩れ落ちた。
何が起きたのかわからずその場に凍りついたハナの口を、黒い革手袋が塞いだ。
「静かに」
エイデンは低く鋭い声でハナに命じた。
床に倒れた騎士の体をまたぐようにしてラーキンとジーヴァが入ってきた。まだ廊下にはみ出しているジェスターレイヴァの体を二人がかりで部屋の中に引き込み、廊下に人がいない事を確認して扉を閉める。
それから、二人はカナンに駆け寄った。
「カナン!」
「大丈夫か?」
カナンは驚きと安堵がないまぜになった表情を浮かべた。
「ありがとう………来てくれたんだ」
「当たり前だろ」
血が滲み人相が変わるほど腫れ上がってしまっているカナンの顔を見て、ジーヴァは顔をしかめた。
「ずいぶん派手にやられたな。立てるか?」
「…………多分」
ラーキンとジーヴァに両脇から支えてもらいながら何とか立ち上がったカナンは、まだハナを取り押さえたままのエイデンに向かって言った。
「エイデン、大丈夫だから。彼女は騒いだりしないと思う。僕を手当てしてくれたんだ」
エイデンは一瞬躊躇った後、恐怖で青ざめているハナを放した。
よほど驚き怖かったのだろう、顔面蒼白のハナはそのまま壁伝いに部屋の隅まで後退ってしまった。
エイデンはカナンに歩み寄ると、後悔で表情を曇らせた。
「一人にしてすまなかった」
カナンは自嘲気味に微笑んだ。
「あなたのせいじゃないから。一人で行くって言ったの、僕だし」
自分が情けなくて仕方がなかった。ちょっと一人になったらこの有様だ。エイデンが自分を過保護なくらい心配するのは当然だ。
「よく僕がここにいるってわかったね」
「普通、侍女の控室の前に護衛の騎士などいない」
カナンは床に倒れたままぴくりとしない騎士を見下ろした。
「まさか、この人………」
「大丈夫、気絶しているだけです」
ラーキンが代わりに答える。
直接手を下したのはエイデンだったが、彼のあまりの手際の良さ……と言うか容赦のなさに、ラーキンは目を丸くするばかりだった。
カナンはすまなそうに言った。
「すみません、ラーキンさん。あなたまで巻き込んじゃって………」
「いいんです。私にも関係ある事ですから」
「………え?」
「話はあとだ。行くぞ」
「あ、待って」
カナンは促すエイデンを引き留めた。
「ナタリア公妃にアリアンテを取り上げられてしまったんだ。取り返さないと。あれはじいちゃんの形見なんだから」
「アリアンテを?」
「あの人、アリアンテの事を武器か何かだと思ってるみたいで………僕に使い方を教えろって」
「それで君をこんな目に遭わせたのか」
エイデンはカナンの頬にそっと指を添えた。
この中では最もエイデンと付き合いが長いジーヴァが、一見いつもと変わらず表情に乏しい彼の横顔を見て心の内で呟いた。
ヤバい。
無茶苦茶怒ってる。
突然、ノックもなしに扉が乱暴に開けられた。
「ジェスターレイヴァ! 何をやっている、中にいるのか? 外で見張っていろと………」
次の瞬間、ザンファーは壁に叩きつけられていた。反射的に腰の長剣に伸ばした右手は抑え込まれ、首元には短剣の刃。
ハナが声にならない悲鳴を上げる。
ハナに命じた時よりもはるかに凄みのある声で、エイデンは言った。
「死にたくなければ動くな」
もとよりザンファーは全く動けなかった。皮膚に食い込んでいる短剣の刃が、今にも彼の喉を切り裂きそうだったから。黒衣の男の殺気が冷たい刃から噴き出しているかのようだった。目だけ動かして室内を見回し、相手があと二人いる事を確認して抵抗を諦める。三対一ではとても敵わない。
ザンファーは、抑え込まれたまま長剣の柄を固く握り締めていた手から力を抜き、降参の意を示した。
「カナンは返してもらう」
短剣を突き付けたままエイデンが言った。
「子供を拉致し痛めつけるのがボルトカのやり方か? 〈雷鳴公〉の国も地に堕ちたものだな」
「! 誰が好きこのんで子供を誘拐などするものか!」
一番痛いところをつかれ、ザンファーはムキになって反論した。例え自分でもそう思っていたとしても……いやそう思っているからこそ尚更……他人から指摘されるのは腹立たしいものだ。
「私はこんな事をする為に騎士になったのではない! これはナタリア公妃の命で仕方なくやった事だ!」
エイデンは嘲った。
「命じられればどんな非道でもただ黙って従うか。騎士とは主人への忠誠と同様、倫理と名誉を重んじる者ではないのか?」
「……っ!」
思わず言葉につまったザンファーの顔を、エイデンはいきなり短剣の柄で殴った。
全くの不意打ちに、ザンファーもジェスターレイヴァ同様、声もなく昏倒する。
ジーヴァが呆れたように言った。
「お前、『手加減』って言葉、知ってるか?」
「死んではいない」
エイデンは部屋の隅で小さくなっているハナに目を向けた。
「部屋から出るな。誰かが来るまでここにいろ」
「は、はい」
エイデンはカナンの布袋を拾い上げ、ラーキンに渡した。
「カナンを頼む。私はナタリア公妃からアリアンテを取り戻す」
「わかりました。お気を付けて」
カナンをラーキンとジーヴァに託し、エイデンは漆黒の風のように部屋を出た。
最後までお読み下さいまして、ありがとうございました。
今回、諸事情により短いです。すみません。
怒らせてはいけない人を怒らせるとどうなるか、次回ナタリアと残りのボルトカ国の騎士たちは身に染みる事でしょう。
次回も引き続きお読みいただけますと幸いです。
ではまた。