創造せよ、“抗神の刃(こうしんのやいば)”
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創造せよ、“抗神の刃”
黒い契約書を手にした俺は、静かに玉座の間へと向かった。
すでに魔王アリシア、クラト、ユリシア、ティリル、そして新たに加わったピクシー族の仲間――リーフィも集まっていた。
「……その本が、第三の言霊か」
アリシアが目を細め、俺を見据える。
「ああ。創造の言霊。代償と引き換えに、“存在しない力”を形にできる。
その力で……“神を殺せる刃”を創る」
「課長……!」
ティリルの声が震えていた。
リーフィが前に出る。羽根が震えている。
「でも、代償は“記憶”なんだよね? 私たちが、課長さんを――忘れちゃうかもしれないんだよね?」
俺は答えなかった。
答えられなかった。
* * *
魔王城、最下層――禁呪の間。
創造の言霊を行使できるのは、世界でただ一人、今の俺だけ。
俺は契約書の中央に指を置き、力を込める。
言葉が口をついて出た。
「――この世界に存在しない、神を斬る刃を。
運命すら裂く、抗神の力を。
そして……その代償に、“俺の記憶”を、彼らから奪え」
――世界が、震えた。
闇の中、眩い光が生まれ、ゆっくりと形を成していく。
一本の剣。
黒曜のように黒く、刃の中央には青い言霊の紋章が輝いていた。
《抗神の刃》――完成。
* * *
「――……ここ、どこ?」
最初に声を上げたのはティリルだった。
周囲を見回し、不安そうに言う。
「わたし……なんで、こんなところに……」
クラトも、ユリシアも、リーフィも同じだった。
彼らの記憶から、“中村悠斗”という存在が消えていた。
その場に、俺は立っていた。
だが、誰の目にも、俺は――映っていなかった。
* * *
一人、剣を携えて神界へ向かう俺の姿を見ていたのは――ただひとり、魔王アリシアだった。
「……なぜ、私の記憶だけが残っている?」
俺は振り返り、わずかに笑う。
「お前は……“人間ではない”からな。記憶の消去は、“人の心”にしか効かない。
……最後に頼んだぞ。皆を、守ってくれ」
「……バカな男だ。だが、嫌いじゃない」
* * *
――神界、最奥の祭壇。
白き神の御座に、仮面の神官たちが並ぶ。
「まさか本当に来るとは。言霊の力とはいえ、神に届くと?」
俺は剣を構える。
「“届く”んじゃない。“届かせる”んだよ。俺の言葉で。俺の命で!」
「ならば――裁きの光を、受けるがいい」
天から降り注ぐ、神罰の閃光。
その刹那――俺は叫ぶ。
「“神すら裂け”――《抗神の刃》!!!」
黒き刃が、天を裂いた。
神罰を切り裂き、神官たちの空間を一太刀で断ち切る。
その瞬間、世界のルールが揺らぎ始めた。
――だが、まだ終わりではない。
神々の本体、“根源神”が動き出そうとしていた。
そして、彼らは言う。
「この世界を守りたければ、“創造の言霊”を渡せ」
俺の存在が消えていく中――仲間たちの心が、静かに再び動き始める。