三つ目の言霊と"神殺し"計画
三つ目の言霊と、“神殺し”計画
魔王アリシアを襲った神界の使者、ティリルを傷つけた一撃――それは、警告でもあり、宣戦布告でもあった。
“人間ごときが神に抗えば、どうなるか分かっているな?”
だが俺たちは、もう退かない。
魔王軍総務課は、いまや“反神”組織の中心へと変わりつつあった。
* * *
「……“神殺し”だと?」
アリシアの玉座の間で、俺はその言葉を口にした。
「本気か? 中村」
ユリシアが眉をひそめ、クラトが言葉を飲む。
だが、俺は静かに頷いた。
「神々の秩序が絶対なら、俺たちは永遠に“運命”の下でしか生きられない。
けど、俺はもう、仲間の涙も、理不尽な命令も見過ごせない」
その時、魔王――アリシアが、ふっと笑った。
「ふふ……やっと、“側近”らしくなってきたな」
* * *
“神殺し”を可能にするには、通常の力では不可能だった。
だが――ティリルの命を守った“共鳴の言霊”が進化したあの瞬間、俺は知った。
まだ、言霊の力は完全に目覚めていない。
そして、神界との接触の中で、俺は“第三の言霊”の存在を告げられていた。
それは――
「創造の言霊」
世界の理に干渉し、“存在しないものを言葉によって創る”力。
ただし、それは代償を伴う。
その代償とは、自らの記憶、存在、もしくは命の一部を引き換えにするという、最も重いものだった。
* * *
「課長……それ、ほんとに……使うの?」
ティリルが俺を見上げる。
あの事件以来、彼女は俺のそばを絶対に離れない。小さな手が、俺の袖を握る。
「やめてよ……課長さんが、いなくなるなんて……そんなの、わたし、やだよ……!」
俺は、ティリルの頭をそっと撫でた。
「大丈夫。いなくならない。消えたりしない。
でも――俺たちが生きるこの世界を、“俺たちの手で守る”ために、使う」
その決意は、誰にも止められなかった。
* * *
“神殺し計画”の中核は、三つの段階で構成された。
1. 神々の力の源である“光柱の門”の封鎖
2. 神界に通じる鏡の神殿の制圧
3. そして、創造の言霊によって“神を殺す存在”を具現化する
だがそのすべてに、“神々の反撃”が待っている。
まず標的となったのは、俺だった。
――深夜、俺の夢の中に現れたのは、白いローブの男。
「中村悠斗。君が選んだ道は、秩序の破壊だ。
君の存在が、“人間に希望”を与えすぎた」
「……それが、悪いことなのか?」
「希望は制御できない。それが暴走すれば、世界は壊れる。だから神は、均衡を保つ」
「均衡のために、涙を見逃せっていうのか。
死を運命だと受け入れろっていうのか?」
「……君は、選ばれし“反逆の器”。次に目覚めたとき、君の言霊は試される」
* * *
翌朝――目覚めた俺の手には、一冊の黒い本が握られていた。
それは、“創造の言霊”が宿る契約の書だった。
ページには、こう記されていた。
「真の言霊は、世界を生み、そして壊す。
創れ。“抗神の刃”を。
その代わりに――何を失う?」
俺は静かにページを開いた。
この力を使えば、神をも斬れる。
だが、代償は――“誰かの記憶から自分が消える”こと。
もし使えば、仲間たちは、俺を……忘れる。
それでも――俺は、選ぶ。
神に抗い、仲間を守る道を。
そして、決戦の幕が開く。