神の監視と"第二の言霊"
第四章 神の監視者と“第二の言霊”
ある日の夜――魔王城の上空に、不穏な雲が流れていた。
総務課の仕事が軌道に乗り、俺たちはようやく一息つけるようになっていた。だが、その穏やかな日常は長くは続かなかった。
* * *
「課長! 空に……裂け目が!」
クラトが慌てて報告に来た。外に出ると、夜空に青白い亀裂のようなものが走っていた。まるで空間そのものが引き裂かれているかのように。
その裂け目から――誰かが、降りてきた。
白銀の衣を纏い、背には六枚の光翼。人間に似ているが、明らかに“違う”。
「……神?」
俺がそうつぶやいた瞬間、そいつはふわりと地面に降り立ち、俺をまっすぐに見た。
「ようやく会えたな。言霊の継承者、中村悠斗」
「……誰だ、お前は」
「私は〈監視者〉ルア=セル。神々の秩序を守るために存在する者だ。君の存在が、世界のバランスに影響を与えすぎている」
淡々とした口調だったが、目は一切笑っていなかった。
「言霊の力を持つ者は、原則としてこの世界に存在してはならない。君の転生は……“特例”のはずだった」
「……は? 過労死した俺に、チート能力くれたのはそっちだろ?」
「与えたのは私ではない。“あの神”が勝手に干渉した。だが今、影響が大きくなりすぎた。よって君には、“第二の選択”を与える」
* * *
「第二の選択?」
ルア=セルは、手をかざして淡い光球を生み出した。
「言霊の力を“返上”するか――あるいは、“もう一つの言霊”を得るか」
全身がざわついた。言霊の力は強大だ。だが、一日一回しか使えない制約があるからこそ、俺は慎重に使ってこれた。
「第二の言霊……それは、何だ?」
「“共鳴の言霊”――周囲の者の感情や想いに“共振”し、それを力に変える能力。仲間がいればいるほど、言葉が強くなる」
まるで、絆を力に変える能力――そう思ったとき、後ろから声が響いた。
「課長さん、ダメ! それ、きっと負担が大きすぎるよ!」
ティリルが飛んで俺の前に立った。
「共鳴ってことは、課長さんが皆の痛みとか不安とかも背負うってことだよね? 無理して、また……壊れちゃったら……」
小さな身体が震えていた。俺のために。俺なんかのために。
――それでも。
俺は、その手をそっと取った。
「大丈夫。今の俺には――仲間がいるから」
そう言って、光球に手を伸ばした瞬間――
《新たな言霊が、あなたの中に宿りました》
《“共鳴の言霊”――発動条件:自分が心から信頼する者が、自分の言葉に共鳴したとき》
静かな鐘のような音が鳴った。
それは、俺の中の“第二の力”が目覚めた音だった。
* * *
「面白い。ならば見せてもらおう、その力の行方を」
ルア=セルは意味深な笑みを浮かべると、空へと消えていった。
俺は力を得た。
だが同時に、この世界に本格的な“神々の干渉”が始まることも意味していた。
「共鳴の言霊か……」
俺はティリルの手を握りながら、空を見上げた。
――この力が必要になる日が、もうすぐ来る。