魔王軍新設部署「総務課」爆誕。後半
第三章 魔王軍、新設部署『総務課』爆誕 後半
一週間後。
魔王軍総務課には、少しずつ仲間が集まりつつあった。皆、戦闘には不向きだが、頭の回転が速く、地味な仕事を黙々とこなせる者たちばかりだ。
ある日のこと――
「課長! 新しい配属希望者が来てます!」
インプの眼鏡くん(通称:クラト)が走ってきた。
「またか? 今度はどんな人材だ?」
案内されたのは、背丈が俺の腰ほどしかない、小さな妖精――ピクシー族の少女だった。淡い金髪に、透き通るような翅。光の粒子をまとって、ふわりと浮かんでいる。
「はじめまして! わたし、ティリルっていいます! か、課長さんが優しくてすごいって噂を聞いて、来ちゃいました!」
「……いや、あの、噂早くない?」
目を輝かせて俺を見上げるティリル。彼女の手には、何枚もの完璧に整理された帳簿があった。
「見よう見まねで作ってみました! 数字をきれいに並べたり、色分けしたりするの、得意なんです!」
「これは……すごい。書類、俺より整ってるじゃん……」
ピクシー族は本来、森に住み、魔法で自然を癒やす種族らしい。しかしティリルは幼い頃から“数字”に異様な興味を持ち、花びらの数を数えたり、木の成長速度をグラフ化したりしていた変わり者だという。
「それ、才能だよ……うん、採用!」
こうしてティリルは総務課の会計・記録担当として配属された。
* * *
日が経つにつれ、ティリルは総務課のムードメーカーになった。
「クラトさん、ファイルはこっちの棚に統一した方がいいですよ〜」
「なるほど……ああ、整ってる……心が癒やされる……」
「スライムさん、報告書がふにゃふにゃです! 水分控えて!」
彼女の軽やかなツッコミと、的確な指示が、混沌としがちな総務課に秩序をもたらしていた。俺も彼女の几帳面さには驚かされっぱなしだった。
「課長さん、これ、昨日の出撃記録と物資の出庫履歴、全部一致してます! ついでに“今日休む隊員リスト”もまとめときました!」
「うちの部署、もうティリルがいれば回る気がしてきたよ……」
魔王軍の中で、最も“地味だけど確実に役に立つ”部署。それが総務課だった。
そして――その存在は、ついに前線部隊や他の将官たちにも知られるようになる。
「最近、物資の管理がスムーズだな……」「申請書の通りが早くなった」「この“ティリル式帳簿”、魔導文書より読みやすいぞ」
気がつけば、総務課は“魔王軍の頭脳”と呼ばれるようになっていた。
ある日、ティリルがふと俺に言った。
「ねえ課長さん。わたし、魔法で敵を倒すことはできないけど……こういう仕事で、誰かを助けられてるのかな?」
俺は迷いなく答えた。
「戦場で剣を振るう奴も大事だ。でも、後ろで支える奴がいなきゃ、何も始まらない。ティリル、お前は間違いなく――俺の右腕だよ」
ティリルは、ぱぁっと顔を輝かせた。
「えへへ……じゃあ、わたし、今日から“右腕ピクシー”って名乗ります!」
「やめとけ。なんかややこしいから」
こうして、戦わない仲間たちが集まり、魔王軍にひとつの“居場所”が生まれた。
だがそのころ――遠く天上界で、神々は静かにざわついていた。
“異世界に言霊を持ち込んだ者”
“魔王の隣で、組織を変えようとする人間”
そして、“彼が導く小さな者たち”
「放ってはおけないな……」
神々の干渉が、いよいよ本格化しようとしていた。