表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

魔王軍新設部署「総務課」爆誕

第三章 魔王軍、新設部署『総務課』爆誕


 総務課。それは、戦わない者たちの戦場。


 俺が提案した“魔王軍の組織改革”は、意外なほどすんなり受け入れられた。


「戦場だけが戦いではない。我らが背後を支える者にも、力と誇りが必要だ」


 魔王のその一言で、組織図が書き換えられた。


 ――新設:魔王軍総務課


 初代課長はもちろん俺。

 しかし、この異世界には「資料作成」「会議調整」「労務管理」などという概念は一切なかった。すべてはゼロからのスタートだ。




 * * *




「まずは、人事台帳が必要だな……」


 魔王城の一室を改装し、仮設の執務室を設置。俺はさっそく、持てる知識とスキルを総動員して、業務環境の整備に取り掛かった。


「中村様、“ハンコ”というのは本当に必要なのですか?」


 ユリシアが首をかしげながら尋ねてくる。


「うん、正直俺もいらないと思ってる。でも、何か“押したくなる”ってのはあるから……まあ、形だけでもな」


 実際には、異世界に印鑑文化はない。そこで俺は、魔法陣スタンプを考案した。


 決裁が下りたときに「ピカッ」と光る。しかも、本人の魔力認証付き。本人以外が押すと爆発する仕様だ。


「……これは意外と便利かもな」


 ユリシアが目を丸くした。




 * * *




 次に手をつけたのは、労働環境の改善だった。


 実際、魔王軍の下っ端兵士たちは過酷な環境で働いていた。24時間交代なしの監視、冷たい洞窟での寝泊まり、報酬は乾いた肉と謎の汁。


「これ、よく反乱が起きなかったな……」


 俺はすぐさま“勤務時間のシフト制導入”を提案した。


「休む時間を決めましょう。無理して働かせても、生産性は上がりません」


「生産性、とは?」


「えーと、同じ時間でどれだけ成果を出せるかってことです」


「……それは、魔王軍にとっても重要なことだな」


 ロザリオが感心したように頷く。


 さらに俺は「福利厚生」の概念も導入した。


 温泉施設の設置、託児所の併設、そして――


「魔王軍公式“褒賞制度”を作ります」


 これには魔物たちもざわめいた。


「功績をあげた者には表彰、昇給、特別休暇……やりがいを感じてもらうための工夫が必要なんです」


 かつての俺は、やりがい搾取されて死んだ。だからこそ、ここではそれを逆手に取って、ちゃんと報いる仕組みに変えてやる。




 * * *




 そして一週間後――魔王軍総務課には、新たに配属された仲間たちが集まっていた。


「中村課長、お疲れ様です!」


 真面目な眼鏡インプ、事務特化型スライム、ITに強いエルフ(異世界の“魔導計算機”に詳しいらしい)などなど、まさにカオスな面々。


 全員、どこか戦いに向いていない者ばかりだったが、書類の処理や情報整理に関しては驚くほど優秀だった。


「……お前たちがいたからこそ、この部署が成り立つんだ」


 俺は心からそう思った。 


 この日、魔王軍の廊下にはこう貼り紙が掲げられた。



【魔王軍総務課】

あなたの働き方、見直しませんか?

労務相談・申請書作成・魔王様への直訴代行――全部、ここでできます!



「……まるで人間の世界の会社みたいだな」


 魔王がそう言って微笑んだ。


 だがその裏で、“魔王軍の働き方改革”に注目する者がいた。


 それは――神の領域から、この世界を監視する“もう一柱の存在”。


「面白い。言霊の使い方を、よくわかっているじゃないか……中村悠斗」


 その神は静かに笑った。


 “本当の転生理由”に、彼が気づくのは、もう少し先の話である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ