魔王城の朝は早い
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第二章 魔王城の朝は早い
異世界に転生し、気がつけば魔王の側近になった俺――中村悠斗。
初日の夜はふかふかのベッドで熟睡できるかと思いきや、緊張と恐怖でほとんど眠れなかった。気づけば朝。部屋のカーテン越しには、赤黒い太陽のようなものが昇っている。
(あれって、太陽……なんだよな? 浮いてるし赤黒いし、不吉すぎるけど)
ゴンゴンッ!
突然、ドアが激しく叩かれた。
「中村様、起床の時間です!」
扉を開けて現れたのは、昨日の少女――ユリシア。彼女はぴしっと背筋を伸ばし、キビキビと話し出す。
「本日は七時半から魔王軍戦略会議。八時半から前線補給ルートの見直しについて、各将官からの報告。その後、魔王様との直属会談です。お忙しい一日となりますが、よろしくお願いいたします」
(朝から会議三連発……あれ、これって)
脳裏に浮かんだのは、かつて勤めていたブラック企業の会議室。ホワイトボードに書かれる曖昧なKPI、上司の説教、無意味な報告。
(……異世界なのに、やってること同じじゃん!)
ユリシアに急かされて着替えを済ませると、彼女は俺を案内してくれた。魔王城の中は、想像以上に合理的な設計だった。通路ごとに色分けされ、案内板も完備。魔物たちが軽く会釈してくれるあたり、妙にホスピタリティも高い。
そして到着したのは「戦略会議室」。石造りの荘厳な円卓が中央にあり、その周囲に幹部らしき人物たちが集まっていた。
俺が席に着くと、すぐに魔王が入室してきた。銀髪にツノのある少女――堂々たる歩みで玉座に座ると、軽く顎を引いて言った。
「では、始めようか。まずは物資遅延について、ロザリオからの報告を聞こう」
「はっ。現在、前線への補給物資の3割が予定通りに届いておらず、特に第七小隊が深刻な影響を受けております。原因は……物流担当のケルベロスが最近“彼女”と喧嘩して仕事をサボっているとのことです」
場が静まり返る。
「……なんだその理由」
俺は思わずつぶやいてしまった。
「私も理解に苦しみますが、彼の“心の三つの頭”が意見を統一できないらしく……」
重たい沈黙。だが魔王は楽しげに口元を吊り上げた。
「ふふ、実にくだらない。だが放置もできん。中村、お前の考えを聞こう」
突然の指名。全員の視線が集まる。
――正直怖い。でも、俺には“言霊”がある。最悪、今日の一回を使えばいい。そう思って、俺は立ち上がった。
「まず、物流ルートと担当者の責任範囲を明確にします。誰が、どの物資を、いつ、どこに届けるのか――すべて可視化しましょう。あと、属人的な運用はNGです。ケルベロスが休んでも、代わりが動けるようにするべきです」
オーク将軍が腕を組んで唸った。
「ふむ……そりゃ、つまり“システム”を作れってことか?」
「そうです。魔王軍には立派な組織があります。なら、その組織が“自動で動く仕組み”を作りましょう。人がいなくても回る仕組み。俺はそれを“仕組化”って呼んでました」
かつての社畜時代に叩き込まれた知識が、ここに来て役立つとは思わなかった。俺が言葉を重ねるたび、空気が変わっていくのを感じた。
「……なるほど。確かに、中村殿の言うことは理に適っている」
ロザリオがうなる。さっきまで俺を敵視していたはずの彼が、素直に頷いた。
「では、その改革案、我が軍に採用としよう」
魔王が高らかに宣言した。幹部たちがそれぞれの対応を始める。まさか――自分の言葉が、こんなにも影響力を持つとは。
そのとき、魔王が俺の方を見た。冷たいようで、どこか楽しげな瞳。
「中村よ、貴様には“戦わぬ戦士”としての才があるようだな。よい、この魔王城に“改革”という名の嵐を吹かせよ」
その日、俺の手によって――魔王軍に“総務”という新たな部署が設立されることが決まった。