1-3
俺は街道を歩く。
その道中での出来事だった。
「クルバス・・・」
ドレスアーマーの女性が俺に向かって話しかける。
「待ってたぜ・・・殺したくてうずうずしてたんだ」
俺は剣を取り出す。
「あの人を殺すんですか?」
レスキィは不安そうな顔をする。
「嫌ならお前はそこで待機してろ」
「クルバスさん!?」
「はああっ」
俺は剣を向ける。
しかし持っていた槍で防がれてしまう。
「学習したか」
「酷いよ、クルバス・・・私はこんなに愛してるのにどうして愛を受け入れてくれないの?」
「その顔で愛を口にするな!」
俺は彼女の持っている槍を弾き飛ばす。
「ああっ」
ドレスアーマーの女性は戦うための武器を失う。
「倒れろ!」
俺は武器を奪った瞬間に好機と思い、
彼女の事を押し倒す。
「ぐっ」
彼女は簡単に倒れた。
「今・・・楽にしてやる」
俺は彼女に馬乗りになって剣を掲げる。
そして心臓めがけて振り下ろすのだった。
「止めて!」
レスキィに俺は剣を止められる。
「何故邪魔をする!」
俺はレスキィを睨む。
「どうしてって・・・その人は魔物じゃない。
人間の女性よ、殺すなんてそんな酷い」
「お願い・・・殺さないで」
ドレスアーマーの女性は懇願する。
「ほら、彼女だって命乞いをしてる。
見逃すことは出来ないの?」
「見逃せないね、殺すと決めたんだ。
俺は何と言われようとも彼女を殺す。
醜悪な憎悪を持って彼女の心臓をぐちゃぐちゃになるまで剣でかき回すと」
「いやぁ・・・死にたくない・・・」
ドレスアーマーの女性は涙を流す。
「可哀そうだよ、殺さないであげて」
レスキィは俺の手を離さない。
「離せ、剣を刺せないだろうが!」
「貴方が剣を向けたから彼女も槍で身を守るしかなかった。戦いになったのは不運なんだ・・・戦いを止めよう、クルバスさん?」
「ああああああああっ!」
俺は力を弱めずに強引に剣を振り下ろす。
「ダメっ!」
レスキィは俺の事を突き飛ばす。
「ぐっ」
俺は完全に不意をつかれた形になった。
そのせいで馬乗りのチャンスだったのに殺せなかった。そのまま2人で転んだ。
「殺すのは・・・ダメだよ」
レスキィは悲しそうな顔をする。
「ありがとう・・・」
ドレスアーマーの女性はこの場から逃げるように去っていった。そして残ったのは俺とレスキィだけだ。
「良かった・・・死なずに済んで」
レスキィは安心したような顔をする。
けれど、俺はその顔を見て余計に苛立つだけだった。
「バカ女が!」
俺はレスキィの胸倉を掴む。
「きゃっ!」
そしてレスキィを持ち上げる。
彼女は足が浮くのだった。
「俺に無理やり同行してきたのは我慢してやった。
しかし目的の邪魔もするとはどういう了見だ?」
「だって・・・彼女は・・・人間だ」
「だったらどうしたって言うんだ。
人間だろうと俺は殺す。人間は生きるために家畜を殺す権利を持ってるだろう。それを悪だとは思わない。だけどな、家畜を殺してるんだ。人間が人間を殺すことだって生きるための権利なんだよ、それを悪だと断言できるのはこの世の誰でも出来やしないんだよ」
「自分は・・・違うと・・・思う」
「分かり合えないな」
俺は彼女を突き放す。
乱暴に地面に落とすのだった。
「げほっ・・・」
レスキィはせき込む。
「くそっ・・・逃がした」
俺はドレスアーマーの女性を追いかける。
「待って」
「ついてくるな、邪魔なんだよ!」
「・・・」
俺は置いて行こうと走る。
「何処に行った?」
完全に見失ってしまった。
レスキィの所為で時間を食ったな。
「・・・」
レスキィは後ろをついてくる。
「あそこまで言ったのについてくるとはな。
その根性だけは褒めてやる」
「自分は・・・」
「あぁ!?」
俺は乱暴に怒る。
「ついて行きたいです」
「はぁ・・・」
ここまで来ると呆れるしかない。
「あの・・・休憩しませんか?」
「なんでだよ」
「もう・・・その夜も遅いので」
「・・・」
確かに彼女の言う通り、空はすでに暗くなってる。
夜にあまり迂闊に動きたくない。
言うとおりに動くのは嫌だが、仕方ない。
「その・・・どうでしょう?」
「そうだな、休憩するか」
「はい」
レスキィは嬉しそうな顔をする。
なんだってこんな顔をするんだか。
こんな愛想の悪い奴の傍に居てもいいことないのに。
そんなことを思うのだった。