1-2
俺はソファーで起きる。
身体が血で汚れてるが、臭さは感じない。
すでに麻痺してるのだろう。
俺は何度も何度も人を殺してるのだから。
朝日を浴びたい。
目が覚めた気分になるためにだ。
そして扉を開ける。
「zzz・・・」
そこには昨日の声をかけてきたであろう人物が居た。身長は164cm。
体重は51kg。
背中には弓。
マントを羽織ってる。
「お前・・・ここで何してる」
「はっ」
鼻ちょうちんがぱちんと弾ける。
「殺されたいのか?」
俺は首に剣を向ける。
「あ、あの!」
「なんだ」
「仲間に・・・して下さい」
「くだらねぇ」
俺は剣を収める。
「あの、仲間に」
「しねぇって言ってるだろ!」
「ひぇぅ」
少女は酷く怯える。
「はぁ・・・馬鹿馬鹿しい」
俺は家の中に入るのだった。
「へぇ、ここがKurubasさんのお家なんですね」
「おい、勝手に入るなよ」
「すみません、でも、仲間にしてほしくて」
「・・・」
俺は首根っこ掴んで外に放り投げる。
まるで部屋に入ってきた虫を捨てるように。
「あ~ん」
「いいか、二度と入るな!」
俺は扉をバンと閉める。
カギをかけてロックする。
これなら入れないだろうと思った。
「へぇ、これがクルバスさんの防具ですか」
「てめぇ、どうやって」
「あはは・・・自分盗賊なんで。
カギを開けるのは得意なんです」
彼女は得意げに語る。
「仲間にしないって何度も言ってるだろ」
「あの、オーディションしてください」
「オーディション?」
「はい、自分が役立つかどうかです」
「いいぜ」
テキトーに難癖つけて返せば納得するか。
「本当ですか、やったぁ!」
彼女はぴょんと跳ねて嬉しそうにする。
「何が嬉しいんだか、全く」
愛想の悪い俺に何度も構ってきた女の事を思い出す。クルバス・・・1人は寂しいでしょ?
エナトリア。
俺に寂しい思いをさせるなよ。
早く会いに来い。
「クルバスさん?」
彼女は俺の目を見つめる。
「何でもない、昔を思い出していただけだ」
「はぁ」
「それで、お前の名前は?」
「レスキィ(Resky)です、貴方とこれから先ずっと傍に居る女性の名前ですよ」
「あっそ」
「それでは妙技をご覧にいれましょう」
レスキィと名乗る女性はリンゴを持ってくる。
そして、テーブルの上に置く。
「・・・」
なるほどリンゴに当てる芸か。
「行きますよ、目を離さないでください」
レスキィは弓を引いた。
そして矢が放たれる。
見事リンゴに命中する。
「・・・」
俺はそれを無言で見つめる。
「どうですか、凄いでしょう」
「それで、お前の芸ってのは皿を割るのが正解なのか?」
「あっ」
後ろにインテリアのように飾られていた高級そうな皿が見事に真っ二つに割れていた。
「綺麗に割れてるな」
「あわわわわわ・・・違うんですこれは」
「これは?」
「あの、ご飯粒で直しますから」
「くっつくかバカ!」
「ひぇ~」
レスキィは申し訳なさそうな顔をする。
難癖つけて帰らそうとしたが、
難癖考える必要も無かったな。
「人の家の皿を割ったんだ、オーディションは不合格だ」
「待ってください、もう一度チャンスを下さい勇者さま」
「何処でそれを」
俺は気になって尋ねた。
「知ってるんです・・・魔王を倒した英雄だということを」
「俺は別に・・・英雄じゃない」
「そんなことないです、この世界は魔王によって苦しめられていました。その彼が居なくなって世界は平和になったはずです」
「やめろ、世界はまだ苦痛と絶望に満ちている。魔王が死んだとしても脅威そのものが全て消え去った訳じゃないんだ」
「クルバスさんは、そういう脅威に立ち向かおうとしてるんでしょう?」
「それは」
俺はとっさには否定できなかった。
彼女の言うことが間違ってる訳ではないから。
「お願いします、力なき女性なのであれば追い返すという判断は間違えないでしょう。ですが自分は違います。力になれます、弓はその、失敗でしたが命中率は悪くないんですよ?」
「別にレスキィの能力を見くびってるという訳ではないんだ」
「それではどうして1人で事を成そうと
するんですか?」
「これは俺の問題であり、俺が解決しなければならないからだ。他の人間が出来ないわけではない、俺がやらねばならないからだ」
「クルバスさん・・・貴方は一体何を成そうと言うんですか?」
「さぁな」
「教えてはくれませんか?」
「言う必要が?」
「なら、無理には聞きません」
「分かった、じゃ、教えなくていいな」
「・・・」
「何だ不満そうだな」
「ここはあれですよ、無理には聞きませんって言うけれど、その優しさに感動して秘密を教えるという展開でして」
「俺にその展開を期待するな」
「むぅ」
レスキィは顔を膨らませる。
「・・・」
俺は鎧を装着する。
そして剣を腰に装備する。
「出かけるんですか?」
「俺の家に勝手に入るのは構わん。
皿も別に弁償しなくてもいい。
けれど同行はするな、いいな?」
俺はそう言って家を出るのだった。
「そう言われてもついていくのが、自分です。
待ってくださーい」
レスキィは俺が何を言っても無理やりついてくるのだった。